最新記事一覧

Vol.146 アメリカでの安全なオピオイド処方に向けて

医療ガバナンス学会 (2016年6月27日 06:00)


■ 関連タグ

ワシントン大学医学部内科
トーマス・シシェルスキー

2016年6月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

アメリカでは現在、オピオイド中毒や過量投与の蔓延が問題になっている。そのため、オピオイド中毒や依存が起こるリスク因子とは何かを理解することが重要になっている。

麻薬類(Opiates)はアヘンから自然誘導されたもので、コデインやモルヒネのような薬剤も含まれる。半合成麻薬類は自然物と合成化合物の組み合わせで、ジアセチルモルヒネやオキシコドンのような薬剤が含まれる。そして、合成麻薬類とは全てが合成された化合物でメタドンやフェンタニルのような薬剤 であり、オピオイド(opioid、モルヒネ様物質)はこれら全ての総称である。

アメリカでのオピオイド中毒危機の現状認識のためには、オピオイドがどのように処方されてきたのか、その経緯をまず理解することが肝要である。1996年より前は、オピオイドはがん性疼痛にのみ処方されていた。そして、全ての慢性疼痛において、その治療のためにオピオイドを処方することは適正な実地医療であるということを、1996年に疼痛関連の二つの学会が示した。それと同時に、オキシコンチンが発売され、慢性の非がん性疼痛に対する処方が大々的にマーケティングされるようになった。

この当時、「疼痛」はアメリカでは重要な臨床徴候の5番目に位置すると考えられており、積極的な疼痛治療が一つのゴールになっていた。その結果、図に示すように、アメリカでのオピオイド処方は指数関数的な上昇を見せた。特徴的なのは、処方数の増加と共に、一処方あたりのオピオイド量も増加したことである。

残念ながら、しかし予想通りではあるが、オピオイド関連の過量投与による死亡数がアメリカでは顕著に増加し始めた。オピオイド関連の過量投与に伴って、毎年1万8千人以上が死亡し、このような中毒と過量投与の蔓延により1999年以降16万5千人以上の累積死亡が起こっている。

オピオイドの使用をめぐっては多くの課題があり、オピオイド中毒、誤使用、オピオイドの医学的理由以外での使用や流用といったものが挙げられる。オピオイドの流用とは、当該薬剤の処方を受けていない他人にそれら薬剤を渡してしまうことを指す。とりわけ、流用されるオピオイドのほとんどは、家族や友人からのものであり、しかもそれらオピオイドは一人の医師のみから通常入手されている。

オピオイド中毒の蔓延は、社会的経済的な各層の全てに影響を与えるものであり、ミュージシャンや役者なども例外ではない。例えば、有名ミュージシャンのプリンスが2016年に死亡したのは、おそらく過量投与によると考えられている。また、有名俳優であるヒース・レジャーは処方薬により2008年に死亡した。アカデミー賞受賞者のフィリップ・シーモア・ホフマンはオピオイド処方の服薬を繰り返した後、ヘロインの過量投与により2014年に死亡した。

さらに、オピオイド中毒の蔓延は感染症にも大きな影響を与えており、インディアナ州では注射用オピオイド薬のオキシモルフォンに関連し、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のアウトブレイクが現在発生している。

現在、アメリカでは食品医薬品局(Food and Drug Administration)と麻薬取締局(Drug Enforcement Agency)がオピオイド処方の規制を行っている。しかし、適切な免許を所持している医師でさえあれば、処方は誰でも行うことが可能であり、それらの処方箋もがん性疼痛に限定されるものではない。そこで、多くの州でこれら処方の規制強化の取り組みが始まっている。例えば、ミズーリ州を除く全ての州で、処方医師と薬局の数を監視する処方監視プログラムが実施されており、誤った使用の防止に目標が置かれている。注目すべきことは、オピオイド処方の大部分を行っているのは、家庭医と内科医だということだろう。

我々は、オピオイド中毒や依存に陥るリスクを評価するために、リスク因子予測モデルを開発する研究に現在取り組んでいる。私はオピオイド中毒や依存に陥るリスクを研究するために65万人のデータベースを構築した。そして、薬局へのアクセスや地理的な状況も含めた人口統計学的、臨床的、行動学的な一連のリスク因子の評価を行っているところである。

これまでのところ判明しているオピオイド中毒の予測因子として、若年者、恒常的な使用、そして精神疾患の既往、薬物中毒や飲酒が挙げられる。

アメリカ疾病予防管理センター(Center for Disease Control)が、オピオイド使用を減らすためのガイドラインを最近発表したのは朗報と言える。オピオイドは疼痛管理において、最優先でもないし好ましくもない。使用するにしても、最も低い用量で、最短期間での使用とされるべきだろう。さらに言えば、処方に際しては安全な処方のためのリスク因子評価も実施されるべきだ。処方権の付与に先立って、オピオイド処方者が追加のトレーニングを受ける必要があるかどうかの問題も残っている。このように、慢性疼痛を効果的に治療するためには、さらに多くの研究が必要となるだろう。

Ahttp://expres.umin.jp/mric/Thomas-Opioids-Figures.pdf

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ