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Vol.157 首都圏ああ無常、学力低く東大合格者は西に偏重 ~実は東京には一極集中していない日本の大学教育~

医療ガバナンス学会 (2016年7月11日 06:00)


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この原稿はJBpressからの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47017

村田 雄基

2016年7月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

5月1日の朝日新聞で「大学の首都圏一極集中」という記事を目にした。首都圏一極集中とは政治、経済、文化、人口など、社会における資本・資源・活動が首都圏に集中していることを言うようだ。

確かに多くの企業は首都圏に集中している。例えば、全国で1119社(2013年)ある資本金100億円を超える企業のうち、半数以上にあたる683社の本社は東京に存在する。

しかし、首都圏に何から何まで集中していると言われると、本当かと首を傾げざるを得ない。京都や金沢に旅行に行けば、文化財はこちらに集中しているようにも感じられるし、わが国の医師数は西高東低だ。首都圏では、しばしば救急車のたらい回しが問題になる。

本当に、朝日新聞が報じるように、大学教育は首都圏に一極集中しているのだろうか。全国から優秀な学生が東京を含む首都圏に集まり、地方からは人材が流出しているのだろうか。

●大学教育の首都圏集中は真っ赤な嘘

疑問を感じた私は、この問題を調べてみた。対象としたのは旧帝大を前身にもつ北海道大学(北大)、東北大学(東北大)、東京大学(東大)、名古屋大、京都大学(京大)、大阪大学(阪大)、九州大学(九大)の7つの大学だ(以後、旧七帝大)。

旧七帝大は、これまで日本のエリート教育や、研究をリードしてきた。もし、朝日新聞の主張が本当なら、東大には全国から学生が集まり、地方の旧帝大は地元出身者ばかりということになる。

私が用いたデータソースは、『週刊朝日4・22号増大号』(朝日新聞出版、週間版、2016年4月12日刊)の「全国3333高校合格者数総覧」だ。難関大学合格者の出身高校を全国3333校紹介している。

まず、旧七帝大の合格者の出身高校の所在地を調べ、都道府県ごとに集計した。さらに、都道府県ごとの合格者数を、各県の18歳人口(平成27=2015年12月確定値)で割り、18歳人口1万人当たりの合格者数を計算した。

また、各県ごとの合格者数だけでなく、地方ごと、東大は関東7県1都、東北大は東北6県、九大は九州7県といった具合に合格者数も調査し地元占有率を算出した。

結果は驚くべきものだった(表1)。
(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47017)

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-b.pdf

地元占有率からすると、東大に全国から飛び抜けて学生が集まってきているわけではなかったのである。地元占有率が最も低かったのは北大だった。38%だ。ついで、東北大が39%と続く。

さらに、京大50%、阪大58%と関西の大学が続き、東大は59%で第5位である。最も地元占有率が高かったのは、名大や九大。共に71%で、地域色が高い大学と言っても過言ではない。(図1、2)
http://expres.umin.jp/mric/mric_157-1-2.pdf (名古屋大学・東北大学)

これは、多くの人が抱くイメージとは異なるのではなかろうか。旧七帝大に代表される大学教育は、決して東京に一極集中しているわけではない。

次に、入学者の分布をみると、さらに見え方は変わってくる。京大や阪大の合格者は、共に関西圏に集中している(図3、4)。

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-3-4.pdf (京都大学・大阪大学)

関西についで多いのは、四国や中国地方、北陸地方などの隣接する地方だ。

東大の合格者の分布は、京大・阪大とは若干異なる(図5)。奈良県、鹿児島県、兵庫県などの首都圏から遠く離れた県からの合格者が多い。東大寺、ラ・サール、灘など有名進学校があるからだ。

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-5.pdf

●東北大と北大では大きな相違

図1:名古屋大学の合格者分布
しばしばメディアで取り上げられるため、このような高校の存在が「東大は全国から学生が集まる」というイメージを形成しているのかもしれない。

東北大と北大は地元占有率がほぼ同等だ。ところが、両者の合格者の分布は大きく異なる。

東北大の合格者は地元を中心とした分布図を示す(図6)。隣接している関東圏からの入学者が他地域より圧倒的に多い。このため、東北地方からの合格者が少なくなる。

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-6.pdf

図2:九州大学の合格者分布
しかしながら、東北地方と関東の出身者を合わせると72%に達する。これは九大や名古屋大の地元占有率と、ほぼ同レベル。

北大の分布は違う。隣の東北地方に限らず、全国の広い地域から合格している(図7)。その分布を詳細にみると、日本海側からの出身者が多いことが分かった。

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-7.pdf

東大のように、全国的名門校が所在する県の出身者が多いわけではない。なぜ、このような分布になったのだろうか。

私は、北海道の歴史が関係していると思う。注目すべきは、北海道の次に合格者が多かったのが、富山県であることだ。

実は、富山県と北海道は歴史的なつながりが強い。江戸から明治にかけて北前船によって日本海側で交易が行われた。北海道からは昆布、富山からは米が往来した。今でも富山の昆布消費量は全国1位だ。

それだけではない。

明治30年代、北海道への入植者が最も多かったのも、富山だったのだ。また、この時期に北陸銀行の前身である十二銀行が、道内第1号店として小樽に進出している。これは、北前船を通じた結びつきが背景にある。

「本当にそんなことが、現在でも影響しているのだろうか?」と思われる方もいるだろう。実は、現代も影響が残っているのだ。例えば、北陸銀行は2004年に北海道銀行と経営統合した。

●地元出身者が多い旧帝大

図8:旧帝国大学の合格者分布

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-8.pdf

政治でも影響が残っている。例えば、高橋はるみ北海道知事は富山県の出身だ。彼女の祖父は富山県知事を2期務めた大物政治家であった。

富山と北海道の深いつながりが若者を北の大地に呼び寄せているのだろう。学生が志望大学を決めるのに、縁もゆかりもない土地に行くことは稀であるからだ。

以上のデータから言えるのは、旧七帝大の合格者は、基本的にその所在地の地元出身者が多い傾向にあるということだ。

では、旧七帝大をすべて合計すれば、どのような分布になるだろうか(図8)。

http://expres.umin.jp/mric/mric_157-8.pdf

18歳人口1万人あたりで最も旧七帝大合格者数が多い県を順に並べてみた。上から、奈良、福岡、京都、佐賀、愛知。驚くことに、すべて関西以西である。西の教育レベルは高い。

一方、東京を除く関東が押し並べて下位を占めていた。

確かに全国的に有名な超進学校の多くは関東に存在する。しかし、それらトップ10校の卒業生を足し合わせても、3000人にも満たない。首都圏の教育は全体を見ると、それほどレベルは高くないのである。

実際に、これは研究分野の実績面に大きく影響しているようだ。特に理工系の分野において、東大卒でノーベル賞を受賞した者が少ない。

化学賞を受賞した根岸栄一氏や、物理学賞を受賞した小柴昌俊氏、南部洋一郎氏くらいだ。関東すべて合わせても6人。一方、関西では受賞者が9人もいる。その差は歴然としている。

首都圏の理工系学部は、関東一人負けであると言っても過言ではない。教育においても首都圏集中が望ましいのか。それは別に議論する必要がある。

しかし、少なくとも関東で多くの優秀な人材を輩出するためには、大学教育のあり方は変わらなくてはならないだろう。

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