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臨時 vol 309 新型インフルエンザワクチンの接種回数:欧州の判断

医療ガバナンス学会 (2009年10月27日 04:46)


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東北大学大学院感染制御・検査診断学分野講師
厚生労働大臣政策室アドバイザー
森兼啓太
2009年10月16日、厚労省で行なわれた専門家による会議において、新型インフルエンザワクチンの接種回数に関する議論が行なわれた。2回接種を前提としていた本ワクチンに関して、国立病院機構の4施設の医療従事者を対象に実施した本ワクチン接種後の抗体価調査から、1回の接種でもそれなりの抗体価上昇がみられることが判明した。流行が拡大している今、限られたワクチンをできるだけ多くの優先順位の人々に早めに接種すべく、健常成人(大部分の医療従事者がこれに含まれる)の接種回数を2回から1回に減らすという合意に至ったのは妥当な線であろう。
ところが16日の会議では、この抗体価の上昇は季節性インフルエンザであるAソ連型(新型インフルエンザと同じH1N1亜型)への曝露によるものであろう、それなら妊婦や基礎疾患を有する人、19歳以下の成人もある程度の免疫を持っているはず、と推論に推論を重ね、妊婦や基礎疾患を有する人、13歳以上20歳未満の人をすべて1回接種でよいとする方向性を打ち出してしまった。
これらの人々におけるワクチンへの免疫応答に関するデータはない。しかもこれらの集団への接種はまだ差し迫っておらず、ここで一刻を争って回数を決定しなければならない状況にはない。こういった施策決定方法に強い疑問を持った足立信也務官が19日急遽会議を開き、筆者も含めた数名からさらに意見聴取を行ない、健常成人以外の接種回数に関する変更(2回接種から1回接種)を白紙に戻したことはすでに報じられた通りである(10月20日の拙稿:MRIC臨時vol.301などを参照)。
さて、その翌日には中国から新型インフルエンザワクチン接種後の抗体価上昇に関するデータが発表され、12歳から17歳までの550人を対象としたスタディでHI抗体価40以上を全体の97%に認めたという。そしてこのデータが発表された3日後の欧州医薬品局(EMEA)のワクチンに関するUpdateが注目されていた。
この委員会では、欧州で認可されている3つの新型インフルエンザワクチン、Celvapan、Focetria、Pandemrix(製造者はそれぞれバクスター、ノバルティス、グラクソ・スミスクライン)の3つについて検討した。これらのワクチンは鳥インフルエンザA(H5N1)で得られたデータをもとに認可されているため、ほとんどすべての人が免疫を持たないと考え、2回接種が基本であった。
今回の委員会では3社とも健常成人における接種後の抗体価上昇に関するデータを提出した。その結果、PandemrixとFocetriaについては、1回の接種で十分な抗体価の上昇がみられた。例えばPandemrixでは40名の健常成人(接種前に抗体価が基準値以下のもの)の全員が1回接種でHI抗体価40以上1]、Focetriaでは50名の健常成人(接種前に抗体価が基準値以下のもの)のうち49名(98%)が1回接種でHI抗体価40以上という反応をみている2]。にもかかわらず、委員会の勧告としては健常成人に対して2回接種のスケジュールを維持することとされた。勧告は、「One dose of 0.5 ml at an elected date. A second dose of vaccine should preferably be given.」 すなわち、「1回接種、2回めの接種が望ましい」という表現になっている。さらに、18~60歳では「1回接種で十分かもしれない」と付記された。
この会議でどのような議論がなされたかに関する詳細は不明だが、臨床試験に基づいた慎重な判断を行っていること、わからないことはわからないと正直に述べているところが、まさに科学的な判断と言える。日本における10月16日の会議での結論や、その後のコミュニケーションの拙速かつ非科学性とは対照的である(政治的に出された結論であればまだ理解できるが)。コミュニケーションという点では、EMEAの判断を報じる大手メディアの記事は筆者の知る限り存在しない。この情報は国民にとって極めて重要な情報なのだが。
1]http://www.emea.europa.eu/pdfs/human/pandemicinfluenza/Pandemrix_PI_23oct09.pdf
2]http://www.emea.europa.eu/pdfs/human/pandemicinfluenza/Focetria_PI_23oct09.pdf

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