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Vol.188 iPS細胞を初めて実用化した髙橋政代がコピーライターに依頼したこと。

医療ガバナンス学会 (2016年8月18日 06:00)


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理研網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー、高橋政代先生の人となりについて感じたことを書いてみました。
この原稿は「アドタイ」からの転載です。

http://www.advertimes.com/20160711/article228875/

小霜和也

2016年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「人」で仕事を選ぶワタシ

小霜です。
今回ご登場いただくのは、「いい人」です。「いい人」どころか、僕の中ではもはや「生き仏」。この記事を読んでいる皆さんは「生き仏」に会ったことはありますか?なければ、ご紹介します。高橋政代先生です。

彼女は2014年にiPS細胞を世界で初めて実用化させた研究者であり、眼科医。その年の英「ネイチャー」誌で「世界の10人」に選ばれてます。つい最近は他者の細胞からの網膜再生に挑戦するということで、山中伸弥先生の隣に並ばれてニュースを飾ってましたね。でも僕にとって大事なのはそういった偉業ではないのです。

自分はいちおう、仕事を選びます。その基準は「人」。仕事の大きさとか、儲かるかどうか、賞に絡めるか、などより、いい人、気の合う人、面白い人、と仕事する方を選ぶ、それが僕のルールです。「人」のために一肌脱いで感謝されると、幸福感が得られるからです。まあ、実際にはイヤな人と出会うことって稀にしかないので、仕事のご依頼をお断りすることはほとんどなくやって来られているのですけどね。

今回のコラムでは、高橋政代先生という「人」と一緒に取り組んでいる仕事の話をしてみたいと思います。

「世の中にはこんな人、いるんだ…」

2017年秋、神戸アイセンター(仮称)がオープン予定です。これは眼科領域の、再生医療研究チームと眼科病院、それにリハビリ・ケア機能を一体化し、視覚障害者の社会復帰まで面倒見ましょうという世界初の太っ腹なコンセプトを持った施設です。

実は眼を患っている人にとって重要なのは治療後のケアなのですが、日本では眼科病院とリハビリ・ケア施設が切り離されていることもあって、視覚障害者の回復がなかなか進まず、それゆえに社会復帰も進まないという問題があります。そこを解決したいという眼科医や研究者たちの想いの具現化が神戸アイセンターと言ってもいいでしょう。

彼らがさすがアッタマイイー!のは、その設計やリクルーティングを始める前に「コピーが必要」と考えたことでした。一つのスローガンがあれば、設計のプレゼンもリクルーティングもブレることがないだろうと。それで、以前CIのお仕事をさせていただいた医療系企業さまのご紹介でスローガン開発のご依頼をいただいたのです。

さて。
初めて髙橋先生とお会いした時、彼女からノートPCで神戸アイセンターの構想、概要をご説明いただきました。ところが10分ほど話をされていたら、突然下を向いて無言になったんです。どうしたんだろう、急にご気分でも悪くなったんだろうか、と僕は焦ったんですが、周りの人たちはなんだかヘーキ。よく見ると、もしかして・・・泣いてる?しかし・・・なぜ、ここで泣き始める!!??

先生が「ビジネスマン」と呼んでいるブレーン役の奥田さんが「誰かティッシュあるー?」。涙を拭きながら落ち着きを取り戻した先生が語るには、iPS細胞技術で網膜移植をやっても、それでばっちり眼が治るわけではないと。悪化していくのを止めるぐらいが現状で、肝要なのはその後のケアなのだと。

「でもほとんどの患者さんが、私の診察を受けて帰る時……d、disappointed…!!」

と言って涙をポタポタ落とされるわけですよ。患者さんの期待に十分に応えられない自分のふがいなさと、彼らの気持ちを思いやって、日々悲しみを抱いてるんでしょう。世界で10指の研究者が。ようやく立ち直った先生はまたご説明を続けられたんですけど、しばらくするとまた下を向かれてですね。いわく、眼が悪くなってくると、人はそれを周囲に隠そうとする傾向があるのだと。特に子どもがそうなんだと。親にも言えずに、どんどん眼を悪化させて悩んでいる子が多いんだと。そこでまたティッシュの出番です。1時間のうち15分ぐらいは泣かれてたでしょうか。

僕は衝撃を受けました。世の中にはこんな人が、いるんだ…。医師って、特に大きな病院の人ほどどこか機械的というか、クールな印象があるんですが、やはり難治系の患者さんと向き合うってつらいことと思うんです。だからどこか、あえて心の回線を切っているところがあるんじゃないかと。でも髙橋先生は泣きながらそこにぶつかっていって、再生医療の研究で乗り越えようとしてるんだなあと。そのタフネスに撃たれたのかもしれません。

近しい方によれば先生は海外でいろんな賞を授与されるそうで、そのたびに賞金1千万円とか数百万円とかが入ってくるわけですけど、それをそっくりそのまま寄付しちゃうんですって。眼の病気で苦しんでいる人たちを救いたい、それ以外何もないんです。その一念で再生医療の先頭を突っ走ってる。「ビジネスマン」奥田さん始め、高名な先生方、スタッフ、僕、皆、もうこの人のためにがんばるしかない、と観念しちゃうんです。

冒頭で「生き仏」って表現しましたけど、僕は彼女に会うと、心の中で拝みたくなります。ちなみに僕は先祖供養のために日蓮正宗に入信してるんですが、日蓮正宗は神社も含め他の宗教に関わることを禁じてます(初詣もダメなんですよ!)。でも髙橋先生に手を合わせてもバチは当たるまいと思ってます。

「今日はセンセを笑わせに東京から来ました」

いざ、僕は神戸アイセンターのスローガンをプレゼンしに神戸の理研まで行きました。

「皆さんは日本の最高知性だと思いますが、マーケティングに関しては幼稚園児レベルと想定されますので、基本の基からお話しするかんじでいいですか?」。
「いいですよ!」。
そこで提案したことは2つ。1つはご依頼のスローガン。

「眼の医療を進歩させる。社会を変えるまで。」

医療の進歩というと、多くの人は技術のことを連想しますよね。でも少なくとも眼科の領域においてはそうとも言えない、リハビリ・ケア、社会復帰、それらの仕組みを整え、社会制度を変えるぐらいまで行って初めて進歩したと言えるのだ。そういう意ですが、技術だけが医学の進歩じゃないぞ、というのを再生医療の最先端チームが提唱するのはかなりカッコイイんじゃね?と。

もう1つは自主提案として、「運動体」をつくろうと。神戸アイセンターは「施設」としては普通に眼科病院でもありますから、「なんか目ヤニがたまってかなわんのですわ~」といった患者さんが利用したって構わないわけです。逆にそういった方々も受け容れないと病院経営が成り立たない。でも、発起人の先生方の強い想いは視覚障害者の社会復帰にある。
それを神戸アイセンター「構想」といった呼び方をしていたのですが、ややこんがらがっていたんですね。ならばその、想いの部分を切り出して運動体にすればシンプル化するんじゃないだろうかと考えたわけです。それで生まれたのが、

「視覚障害者のホントを見よう isee!運動」。

じつは僕は先生を「また泣かせてやろう」とタクラんでたんですね。もし泣いたら「今日はまたセンセを泣かせようと思って東京から来ましてねえ…」とカッコつけようとしてたところ、プレゼン終わったとたん笑い始めて。「午前中に重い会議があったんやけど、気分晴れたわ~」とニコニコおっしゃったんで、「今日はセンセを笑わせようと思って東京から来ましてねえ…」にサクッと切り替えました。

皆さんは「今まで自分たちでは整理できなかったことが、スッキリ整理された」ととても喜んでました。そのプレゼンで、世界中の医療・福祉機関がどういうスローガンを持っているかをマトリックスにしたんですが、先生は「これ面白いわ~。海外出張に持っていこ」と。そこに食いつくか!やはりそういうとこが研究者なんだなあと。
僕のことも研究しようと思いつかれたのか、次の打合せで突然先生が僕の本を取り出して「これ、読ませてもらいました」とおっしゃったんですね。本の話とか一言もしてなかったんですが。
「いやー、エラい方に手伝ってもらってるんやなーってことがわかりまして、ホントありがとうございますー」。
「あのーセンセ、今まで僕のこと何だと思ってたんですか」。
「イヤイヤイヤイヤ、今までもエラい方やなーとは思ってたんですけどこれ読んでますます、何て言ったらええんやろか、イヤイヤイヤイヤ、困ったわー」。
最近僕は世界の高橋政代をイジる楽しみを見つけ始めてます。

視覚障害者のホントを見よう

ここで、その「isee!運動」について少し説明を。僕的にはこれが今回お聞きいただきたい本題なんで、もう少しお付き合いくださいね。

いわゆる視覚障害者の中で、全盲の方は1割に満たないと言われています。網膜はその全てがいきなり機能不全に陥るわけではなくて、端の方だけ見えないとか、真ん中だけ見えないとか、視覚障害と言ってもいろいろなんです。

たとえば周囲が見えない人は歩く時に白杖が必要です。でも目の前のものは見えたりするので普通にスマホを使ったりできます。そうすると周囲の人は「詐病だ」と誤解していじめたりするんですね。するとその人は街に出るのが怖くなって引きこもったりする。

働くために、たいていの人は「通勤」します。街に出られないということは、通勤できない、すなわち働けないということ。視覚障害者の多くは普通に事務とかできますし、特定の作業について晴眼者より能力の高い方はたくさんいます。たとえ全盲の方でも同時通訳のスーパーマンとかいらっしゃいます。でもそういった方々に社会で活躍してもらうためには、世の人たちの、視覚障害者への誤解を解くのが先決なんです。「isee!運動」の目的はそこ、まず「知ってもらうこと」にあります。

僕は視覚障害者の話を先生から聞いて、何だか恥ずかしい感覚に陥りました。自分も3年前に悪性腫瘍の大きな手術以来、下肢障害4級ですから、カテゴリーは違えどハンディキャッパーとして染みるところがあったのかもしれません。でも僕は杖をついて歩いていると親切にされることが多いです。悲しいことに視覚障害者の方々は邪魔者扱いされることが多いそうなのですが、その原因の主なるものは単なる誤解です。知るだけで解決される部分は多いので、これをお読みになっている方々はぜひisee!運動サイトの文章もご一読ください。ただそれだけで、運動に参加したことになるのです。

http://isee-movement.org/

運動サイトはドリームデザインさんに制作してもらい、PRをサニーサイドアップさんにお手伝いいただいています。
また、意を同じくしてくれるいろんな企業さまにサポーターとしてご参画いただいてます。たとえば僕の周辺ですとAOI Pro.さんやDLEさんにムービーを作ってもらおうとか、いろいろ巻き込みながら成長しているところです。

社会を変えるのは現場の「人」

これから医療が進歩するにつれ、どんどん障害者は増えることになります。昔なら亡くなっていた方たちが何らかのハンデを負いながら命を得るというケースが増えるからです。

彼らを健常者の税金で養い切れるのか?それよりも、彼らにしっかり活躍の場を与えてあげることが、皆のためにもなり、彼ら自身のためにもなることは疑いがありません。下肢障害になった僕を最も落ち込ませたのは、神輿の会の手伝いができないとか、力作業ができないとかの「役立たず」感でした。でも、ラッキーなことに僕の仕事は頭脳労働ですから、社会から疎外されることもなく、ばっちり働いて今もけっこうな税金納めてます!人助けの活動は、上目線の情けとかではなく、回り回って自分助け、国助けでもあるのです。

今後、社会課題解決が僕ら広告クリエイターのフィールドになっていくのは明らかです。僕のところにも、医療、地方創生、介護、エネルギー、農業、などなど、社会課題絡みのご相談が寄せられています。でもスカした広告でそれらが解決できるとは、夢にも思いません。医療であれば、髙橋先生を始めとする強い思いを抱いた現場の「人」がいて、足りない部分を僕らがお手伝いしてあげて、ようやく解決への一歩を踏み出せると思うのです。地方創生ならその地域でビジネスをどう回すのか、まずそれをやる「人」がいないことには。介護問題もエネルギー問題も同様でしょう。

広告業界の中にも日本の、あるいは世界の、様々な問題を何とかしたいと願う方は多くいらっしゃると思います。しかし僕らは孔明や仲達にはなれても劉備や曹操にはなれないと考えておくべきでしょう。そうじゃないと、ただでさえ圧迫している財源を広告費に無為に費消させることにもなりかねません。そういった方は、現場の中心で強い思いを抱いている「人」を探すことから始めてはどうでしょうか。そしてその人が「いい人」なら自身も幸福感を得られます!

ところで、今年の秋から「isee! Working Awards」というコンテストが始まります。視覚障害者の“就労”に関する事例やアイデアを個人・法人から広く募集し、顕彰しようというものです。もし読者の中で経営者や人事担当の方がいらっしゃったら、そちらの情報もぜひ「isee!」運動サイトでご覧ください。
小霜さんへ

小霜さんとの出会いは、長年開発してきた網膜の再生医療が「世界初のiPS細胞治療」という一つの言葉で語られるようになった頃でした。我々は、再生医療だけではなくiPS細胞の力を違う形で利用してもっともっとみんなの役に立つようにしたい、その気持ちをどう社会に伝えたらよいのか、と悩んでいる時にヘリオス社の石川さんから紹介されたのでした。最初から真のプロにお会いできたのは本当に幸せでした。
数回想いをお伝えしただけで、もやもやと形のない理念に、これは「運動体ですね」と言って、「isee!運動」という素敵な言葉を与えてくれました。そう言われて初めて自分のやりたいことが形として現れてくる魔法のようでした。
小霜さんは、いわゆる広告代理店的な発想にとらわれない柔軟な思考でいろいろ提案してくれました。そのお仕事のやり取りの中で、この一つの言葉の裏に膨大な調査や作業や時間が投入されていることを知りました。それは我々の20年の研究の積み重ねが、「世界初のiPS細胞治療」という言葉になって現れたように。
この本を読んでその感は強まりました。小霜さんの長年の努力と経験とから得られる視点、何のためにコピーを書くのかという根幹とも言えるノウハウを惜しげもなく表したのがこの本だと思います。私も常に、何を何のためにするのかを最初に考えて最大限の効果が得られるものに着手し、方向性を決めることを目指しています。その姿勢は共通することがあるようにも思えて、小霜さんが次々ヒットを飛ばされている理由がわかるような気がします。そして、それはすべてのプロフェッショナルな仕事に共通する考え方のようにも感じました。
医療が社会に開かれていく時代、その発展のためにますます社会との合意形成が必要な時代となって来ています。iPS細胞という全く新しい治療についても合意を形成しながら慎重に進める事が必要です。また、医療と社会がうまくコミュニケーションをとることで、例えば再生医療に対する期待感、希望を単に治療への期待だけでなく、障害者の方の意識や社会の障害に対するイメージの変革という力に変えていけるのではないかという期待を持ってisee!運動を進めています。
今後も小霜さんには大変お世話になる事と思います。どうぞこれからも人々の抱く良き理念、想い、熱意に形と力を与える言葉を宜しくお願い致します。

理化学研究所/NEXT VISION 高橋政代

高橋政代
公益社団法人ネクストビジョン理事理化学研究所 多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー先端医療センター病院 眼科部長(網膜再生担当) 神戸市立医療センター中央市民病院眼科 非常勤医師 京都大学大学院医学研究科連携大学院講座 客員教授 京都大学iPS細胞研究所 アドバイザー

小霜和也
1962年兵庫県西宮市生まれ。1986年東京大学法学部卒業、同年博報堂入社。1998年退社。2016年現在(株)小霜オフィス/no problem LLC.代表 。クリエイティブディレクター/コピーライターとしてマス・デジタルを横断する広告キャンペーンに携わる一方、幅広い企業のコンサルティングや研修などにも従事。
広告賞受賞多数。
近著「ここらで広告コピーの本当の話をします。(宣伝会議)」、他著作「欲しいほしいホシイ(インプレスジャパン)」

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