医療ガバナンス学会 (2016年8月19日 06:00)
この原稿は月刊集中7月末日発売号からの転載です。
井上法律事務所 弁護士
井上清成
2016年8月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2.院内医療安全管理指針の改定
(1)医療安全管理委員会の所掌業務
改正省令(医療法施行規則)の第1条の10の2第4項に、「病院等の管理者は、法第6条の10第1項の規定による報告を適切に行うため、当該病院等における死亡及び死産の確実な把握のための体制を確保するものとする。」という条文が追加挿入された。総務課長通知でも、「当該病院等における死亡及び死産事例が発生したことが病院等の管理者に遺漏なく速やかに報告される体制」という注釈が付けられている。つまり、「すべての死亡症例の管理者の下での一元的チェック」が、法令として明文化されたのであった。
そこで、院内医療安全管理指針を改定して、「所掌業務」の項目に、「死亡及び死産の確実な把握のための体制の確保に関すること。なお、死亡及び死産事例が発生したことを管理者に遺漏なく速やかに報告するものとする。」という条文を挿入すべきであろう。
(2)医療安全担当者の権限
医療安全管理員会の所掌業務の追加を実効性あるものとするためには、医療安全担当者の権限を明確にするとよい。たとえば、権限を定める該当項目に、「すべての死亡及び死産事例に関する記録一式の点検を行い、必要な時には医師を含む関係職員への面談、事実関係調査を行う。」という条文を挿入して、医療安全担当者にその権限を与えるべきであろう。
(3)院内事例検証委員会の新設
「すべての死亡及び死産事例」には、諸々の事例が含まれている。もちろん,それが「医療事故」に該当するならば、院内医療事故調査委員会が組織されよう。しかし、「医療事故」にこそ該当しはしないけれども、院内での検証の必要性が感じられる事例もよくある。そのような場合には、たとえば「院内事例検証委員会を組織して、事例検証を行い、事例検証報告書を作成するなどして適切に対処する。」ことが望ましい。
これを機に、院内事例検証委員会を新設する条文を挿入するなり、新規に「院内事例検証委員会規程」を制定することが合理的である。院内の医療安全の向上にとって、実は、院内の実情に応じた諸々の事例検証こそが最も大切なのである。
3.院内医療事故調査委員会規程の改定
(1)事故調査委員会の所掌業務
総務課長通知によれば、「遺族等からの相談に対する対応の改善を図るため、また、当該相談は病院等が行う院内調査等への重要な資料となることから、医療事故調査・支援センターに対して遺族等から相談があった場合、…遺族等からの求めに応じて、相談の内容等を病院等の管理者に伝達すること。」とされた。
そこで、院内医療事故調査委員会規程を改定して、事故調査委員会の「所掌業務」のうちの「医療事故の調査」の項目に、たとえば、「遺族の相談の内容に関する調査 ※医療安全に医学的・科学的に資する内容の相談に関するものに限るので、必ずしも必要でないこともあることに留意すること」という条文を挿入するとよい。
(2)センターからの確認・照会等への対応
総務課長通知によれば、今後は、医療事故調査・支援センターから院内医療事故調査報告書の内容に関する確認・照会等があることが想定され、院長はそれへの対応を迫られる。そこで、やはり規程を改定して、「医療事故調査・支援センターからの確認・照会等への対応」という新たな1項目を設けるとよい。たとえば、「医療事故調査・支援センターから医療事故調査報告書の分析等に基づく再発防止策の検討を充実させるために医療事故調査報告書の内容に関する確認・照会等が行われた場合には、院長は委員の意見を聴取するなどして、センターの役割である集積した個別事例を類別化した整理・分析における必要性と相当性、非識別加工された調査結果が確認・照会等への回答により識別化される可能性と程度、関係職員の責任追及の恐れの有無などの諸事情を総合的に勘案して、確認・照会等への対応の諾否もしくは程度を判断する。」といった条文を新たに設けて挿入しておくべきであろう。
4.医療事故判定等委員会規程の制定
すべての死亡症例の一元的チェック体制を構築したら、次にはそれらの症例を適切に振り分ける機能を持つ「院内医療事故判定等委員会」を創設することも合理的である。そして、「当院において医療法第6条の10第1項に定める『医療事故』、又は、検証を必要とする死亡・死産事例のいずれかが発生した疑いの生じた場合に、『医療事故』の該当性もしくは事例検証の必要性の判定を行うために必要な事項を定める」べく「医療事故判定等委員会規程」を新規に制定しておくのも便宜であろう。さらに、その規程の1項目には、総務課長通知を踏まえて、医療事故には該当しないと判断した時の「遺族への説明」の条文も設けておくとよい。