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Vol.201 全死亡症例の院内検証 ~すべての死亡症例の院内検証のお知らせ~

医療ガバナンス学会 (2016年9月6日 06:00)


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この原稿はMMJ8月15日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2016年9月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.すべての死亡症例の一元的チェック
この6月24日、厚生労働省令(医療法施行規則)が改正され、第1条の10の2第4項に「病院等の管理者は、法第6条の10第1項の規定による報告を適切に行うため、当該病院等における死亡及び死産の確実な把握のための体制を確保するものとする。」という定めが追加された。やはり同日付けの厚生労働省医政局総務課長通知によれば、「改正省令による改正後の医療法施行規則第1条の10の2に規定する当該病院等における死亡及び死産の確実な把握のための体制とは、当該病院等における死亡及び死産事例が発生したことが病院等の管理者に遺漏なく速やかに報告される体制をいうこと。」と解釈されている。
つまり、すべての死亡・死産症例について病院管理者(院長)の下で一元的チェックを行う、という意味にほかならない。医療事故調査制度にいう「医療事故」かどうかに関わらず、すべての死亡・死産症例に対して院内での検証を行い、院内の医療安全をより一層向上させよう、ということである。

2.遺族の申出に対する説明
総務課長通知では、遺族の申出に対する説明対応についても、併せて書き込まれた。「遺族等から法第6条の10第1項に規定される医療事故が発生したのではないかという申出があった場合であって、医療事故には該当しないと判断した場合には、遺族等に対してその理由をわかりやすく説明すること。」という内容である。確かに、「予期しなかった死亡」と「医療に起因した死亡」とのどちらか一方には該当していないので「医療事故」ではなかった、というのは一般の遺族には少しわかりにくいかも知れない。特に遺族が感情的になっている時は、なおさらであろう。
しかし、「医療事故」でないという根拠を医学的・科学的に、しかも、できる限りわかりやすく冷静に説明することが、特に遺族から申出があった場合には必要とされるのである。

3.全死亡症例の院内検証のお知らせ
そこで今後は、これらの省令・通知の趣旨を、院内にポスターなどを使って掲示するなどして、来院する患者・家族に告知していくことが適切な取扱いであろう。掲示物の一例を挙げれば、次のような文章ではいかがであろうか。

「全死亡症例の院内検証のお知らせ
-より一層の医療安全の向上のためにー
当院では、平成28年6月24日付けでの厚生労働省令(医療法施行規則)改正および厚生労働省通知による医療事故調査制度の改定に伴い、当院でのすべての死亡症例につきまして遅滞なく院内での検証を行う体制を整えましたので、今後も医療安全の向上にさらに努めて参ります。
つきましては、

1.当院での死亡に関しまして、医療事故にあたるのではないか、とのご懸念が生じた時はご質問ください。できるだけわかりやすく医学的・科学的に説明申し上げます。

2.死亡症例の院内検証の際にご遺族への照会をさせていただいたり、院内検証の結果につき何らかのご説明をさせていただくことも時にはございます。また、それも数ヶ月後になって突然ということもございますので、あらかじめご了承ください。            」

3.制度開始を機に高まる医療安全の機運
「すべての死亡症例の管理者の下での一元的チェック」は、この度の省令改正や通知を機に実施されることとなったものではある。しかし実は、昨年10月1日の医療事故調査制度のスタートと共に、既に自主的に実施してきた医療機関も少なくない。実際は、昨年10月1日の医療事故調査制度の開始を機に、医療安全の機運が高まっていると言ってもよいであろう。
既に、「院内症例検討会」(M&M)を充実させたり、「事例検証委員会」や「死亡症例検討会」を始めたり、「院内医療事故判定委員会」を組織したり、さらには、Ai(死亡時画像診断)を専門に行うセンターや県外の大学の法医学教室と業務委託契約を結ぶ試みをしたり、重症化しつつある患者への早期介入を行うRRS(Rapid Response System)を始めたり、などと各医療機関ごとに独自の考えで医療安全を進めている。
しかし、その中では悩みを抱えることもあったらしい。たとえば一例を挙げると、患者の死亡直後ではなく、後日に死亡症例をまとめて検証し、「医療事故」に限らず何らかの問題を摘出した場合、その時点でことさらに遺族に説明すると「不要な誤解を招きやすい」といった懸念がある。確かに、死亡事例をまとめて毎月検証するような場合、その時点になって「問題があった」という話は遺族にしにくいという現実はあるであろう。
そこで、そのような懸念を払しょくするには、今回の6月24日の改正省令・通知を上手く利用すればよい。たとえば、「医療事故調査制度で、全ての死亡症例を一元的にチェックすることが求められるようになった。厚生労働省の指導に従い、当院でも院内の症例について検討することになる。場合によっては、検討した結果、何らかの問題が分かることもあり得る」といった趣旨を、あらかじめ遺族に断っておくという方法である。
「全死亡症例の院内検証のお知らせーより一層の医療安全の向上のためにー」という掲示物は、この方法をいわば定式化した一例と言ってよい。各医療機関ごとの工夫によって、よりフィットする方法を考え出してもらえれば一層よいことだと思う。

4.教訓を生かす取り組み活発化
今般の医療事故調査制度は、この6月24日に行われた省令改正・通知発出によって、必要な措置が完了した。法令上は、以上をもって完結、と評価してよい。
これからは、法令上の枠組みなどを有効に活用して、各医療機関ごとに特色のある医療安全向上の試みを進めていくことになろう。それは、医療事故調査制度を契機にグレードアップしていくことではあるが、決して、医療事故調査制度の枠組みに囚われなければならないものではない。院内チェックなどを契機に、失敗例に限らず、広く成功例も検証して、それらすべてを「教訓」として生かす取り組みが活発化されることを、すべての国民が願っている。

http://expres.umin.jp/mric/mric200_inoue.pdf

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