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臨時 vol 326 現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから 8)

医療ガバナンス学会 (2009年11月6日 06:30)


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現場からの医療改革推進協議会第4回シンポジウムから、セッションのご紹介です。
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8) 新型インフルエンザ
木村盛世(医師/厚生労働医系技官、厚労省検疫官)、森兼啓太(東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野 講師)、下平滋隆(信州大学医学部附属病院輸血部 講師)、久住英二(ナビタスクリニック 院長)、高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会 事務局長) 指定発言(会場):足立信也(厚生労働大臣政務官) 討論司会:鈴木 寛
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新型インフルエンザ対策を検証する
 木村盛世(医師/厚生労働医系技官、厚労省検疫官)
 新型インフルエンザの勢いはとどまるところを知らずに拡大している。民主党政権に代わって厚生行政がどう変化するかはまだ不明であるが、新型インフルエンザ対策は早急に取り組まなければならない大きな課題である。
 そのためには、今までの厚労省の新型インフルエンザ対策を総括し、何が正しくて何が間違っていたかを考察する必要がある。間違っているところがあれば、今後ますます広がりと重症化を招くであろう新しい感染症に対して早急に方向を定め直す必要がある。
 近年の感染症対策は大きく様変わりしている。それはバイオテロの可能性が常に付きまとうからだ。
新型インフルエンザ対策は我が国の感染症対策の氷山の一角である。今まで大流行したことのないH1N1型インフルエンザウイルスとの遭遇は、今までおざなりにされてきた日本の感染症危機管理における大きな踏み絵となるであろう。
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新型インフルエンザ 病院対策
 森兼啓太(東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野 講師)
 2009年10月、オーストラリア・ニュージーランド・メキシコ・カナダから相次いで新型インフルエンザ重症患者の疫学情報が著明な学術雑誌に発表された。数十名から200名あまりの報告であるが、これらの国におけるすべての重症患者の数ではなく、一部の重症患者に対する研究的解析である。一方、日本は厚生労働省の集計によれば、10月4日までに入院した新型インフルエンザ患者が2146人、うち急性脳症65人、人工呼吸器の使用99人となっており、そのいずれか一方または両方にあてはまる患者を重症患者とみなすと148人がこれまでの日本の新型インフルエンザ重症患者である。前述の国々は日本より人口も少ないが、おそらく日本よりずっと多い重症患者を出している。
 10月11日までの日本の累積患者数は推計で234万人である。死亡者は、その死因と新型インフルエンザとの関連性に大いに疑問のある症例があるものの、現在までに27名である。この数にもとづいた、日本における新型インフルエンザ患者の致死率は、約0.001%である。これが日本の現状であり、一部の専門家が危機感をあおるがごとく指摘するような季節性インフルの致死率(0.05~0.1%)と同等という状況では、決してない。これを支えるのが、国民皆保険による医療アクセスの良さと、アクセス先であるクリニックや病院の医療従事者の献身的な努力のたまものである。
 しかし、現在流行が拡大してきている。特に休日夜間の外来や急病センターは相当な忙しさになっているようである。メキシコの致死率が高い原因として、必要な医療を(病院を受診した人すら)迅速に受けられなかったことが指摘されており、日本も流行がさらに進むとメキシコの話は人ごとではない。
 対策として、まず、外来部門の充実があげられる。今回の新型インフルエンザの患者は大多数が軽症であり、入院を要する症例は極めてまれである。ほとんどの患者は外来受診し、抗ウイルス薬を適宜処方され、帰宅して自宅静養で回復している。外来は入院に比べて少ない人数、狭い場所あるいはオープンスペースなどでも医療を行なうことができる。アクセスの良さを維持することが、重症者・死亡者を減らす最も重要な新型インフルエンザ対策であると考える。
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新型インフルエンザパンデミックの脅威と輸血の安全性
 下平滋隆(信州大学医学部附属病院輸血部 講師)
 新型インフルエンザパンデミックの影響は,血液製剤の安定供給にとって大きな脅威となり,供給遅延の問題が益々危惧されている。また,新型インフルエンザが輸血を介して感染したという報告はないが,血液中で増殖するウイルス血症を呈するため,リスクは低いが輸血による伝播の懸念がある。8月,献血後に疑いを含め新型インフルエンザ感染の2人が判明,日本赤十字社が未使用の赤血球製剤の回収を行ったことは世界中に配信された。
 諸外国では,インフルエンザの病原性の強度,パンデミックフェーズにより層別化して対策を講じている。献血延期勧告やセンター閉鎖の場合もあるが,供血者の減少にも拘らず需要が維持された場合,病原の伝搬防止と期限延長として病原体不活化は有効である。血小板は7日間の期限延長,不活化血漿により6ヶ月保管の停止および2年間使用も可能となる。
 ドイツの血清・ワクチン局は,流行地域への旅行歴がある供血者からの献血には,病原体不活化が必要と指示。フランスでは新型インフルエンザの大流行を想定して血小板と血漿は不活化で対応,臨床試験段階の赤血球は1週間保管後に出荷と公表した。ベルギーは血小板,血漿について不活化を義務化,スイスでも不活化血小板が承認された。米国においては承認申請が既に行われている。
 日本の不活化導入には,照射装置の医療機器承認や不活化製剤の臨床試験などすぐに解決できない課題はあるが,遅々として進まない理由は,血液事業を司る日本赤十字社,厚生労働省,学識者による三角形の枠が天下りの温床となっているためである。民主党医療政策の新型インフルエンザ対策の中に?輸血を介した感染防止のための新技術を導入?が謳われており,?安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(血液法)を国際的な標準に準拠させ,透明性のある血液事業の改革を推進する必要がある。
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日本の医療行政は203高地をめざす
 久住英二(ナビタスクリニック 院長)
 当院は立川駅の駅ナカに立地し、勤め人が受診しやすいよう、平日夜9時まで診療受付をおこなっている。受診しやすいため、受診者数が急増しており、制度の歪みを感じる機会も増えている。
 勤労世代での問題は、症状が軽微であるにもかかわらず、上司から受診し、検査の上、診断書をもらってくるよう指示されるケースが少なくないことである。都度、検査は陰性の証明にはならないことを説明して理解いただいている。企業の新型インフルエンザ対策が、高病原性インフルエンザ用に作られているため、現在流行している豚由来インフルエンザの現状と乖離しているのが原因であろう。
 学童・学生年代の受診者で問題となるのは、オセルタミビル処方の是非である。添付文書には、10歳以上の未成年の患者では、ハイリスク患者と判断される場合を除いては使用を差し控えるよう現在でも記載されている。一方、感染症学会では、積極的な処方を推奨している。2つの見解を説明し、本人または保護者に選択させている。このままでは、処方してもしなくても、結果責任を問われる可能性があり、早急にダブルスタンダード状態の解消が求められる。
 季節性インフルエンザワクチンの接種を開始したが、今年は週単位での供給となるため、接種の予約が小出しにしか受け付けられず、大勢に迷惑をかけている。問い合わせの電話が鳴りっぱなしで、患者さんからは「2時間も電話がつながらない。緊急事態だったらどうするのか」とお叱りもいただく始末である。
 新型インフルエンザワクチンは、10月17日現在で、供給予定日・本数の連絡はない。国との接種委託契約も済んでいない。厚労省の当初の発表では、19日から接種する予定だそうだが、確実に不可能である。供給が開始されても、10mLバイアルで供給された場合、小児の50人分にあたり、接種スケジュールの調整に手間がかかる。また、ワクチンの無過失補償制度の導入も見送られ、責任は現場と製薬会社に押しつけられることになった。
 厚労省の高級官僚達が日本の医療をどうするのか、我々のような前線の兵卒には見当もつかない。せめて、高地をめざす我々の背中を撃つのだけはやめてほしい。
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ワクチンラグ被害の当事者から見た新型インフルエンザワクチン問題
 高畑紀一(細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会 事務局長)
 我が国は「ワクチン後進国」と揶揄されるほど、ワクチンの導入が遅れている。細菌性髄膜炎を予防するヒブ(Hib)ワクチンや小児用肺炎球菌ワクチン等はその代表例で、ヒブワクチン「アクトヒブ」は、米国の承認より20年、欧州諸国の導入からも15年も遅れて我が国で承認・販売に至った。小児用肺炎球菌ワクチンも、米国の承認から遅れること9年のラグを経て、承認の運びとなった。しかし、いずれのワクチンも予防接種法に基づく定期接種とはされておらず、接種費用を希望者が全額負担する任意接種とされている。欧米諸国の多くが定期接種プログラムに組み込んでいるのとは対照的な状況だ。
 これは我が国がワクチンによる疾病予防を、国家的な施策として位置づけていないことが大きく影響している。ワクチンの役割を個人の選択と希望による、個人の疾病予防という位置づけに矮小化しているのが現状といえよう。そのため、ワクチンによる疾病予防により社会全体を守るという国民的合意形成が醸成されておらず、ワクチンを取り巻く様々な環境が未整備のままだ。世界的メガファーマとは比較にならないほど小さな規模のワクチンメーカーしか有しない我が国は、輸入ワクチンの活用に相当程度依存しなければならないのだが、ワクチンを輸入する諸々の条件や体制が整備されていない。このため、海外のワクチンメーカーからは「ワクチンを売りにくい国」と看做され、他国で実績を積んでから我が国への導入を検討するというラグを生じている。また、疾病の発生状況を把握し、疫学的分析等を基に社会的コンセンサスを得てワクチンの活用を施策に反映するプロセスや意思決定機関が存在しないため、「何時、何処で、誰が」政策決定を下すのか、不明瞭な体制となっている。細菌性髄膜炎から子どもたちを守るワクチンの導入が大幅に遅れたのも、これら環境の未整備
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 国産ワクチンでは必要数を確保できないのは我が国のワクチン産業の規模からすれば当初より明らかなことであり、ワクチン輸入は対策立案の時点より織り込まなければならない事柄であった。しかし、ワクチン輸入の環境整備を疎かにしていた我が国は新型インフルエンザワクチンについても積極的な輸入策を回避する姿勢に終始し、海外メーカーから提示された「副作用に対する免責」への対応すら儘ならず、一旦は仮契約期間が過ぎ、契約不可能な状況に陥る危険に直面する事態となった。
 また、他国の多くが社会システムの防御のための国策としてワクチン接種を位置づけており、被接種者に対し自己負担を求めないのに対し、我が国では二回接種で6千円を超える自己負担を課している。これでは経済的事情を勘案し、接種を回避する国民が相当数生じることが予想され、結果としてワクチンによる集団免疫効果は期待薄となる可能性も指摘されている。これも、「ワクチンで何を守るのか」という位置づけが不明確なことに起因すると言えるだろう。
 さらに国民に対する情報開示も不十分であり、いたずらに輸入ワクチンへの不安を煽るプロパガンダが展開される一方、ワクチン接種により期待される効果や接種に至る手順の説明などが不十分なため、国民の間に過度の期待感が醸成され、問い合わせが殺到する医療機関が接種化医師前から悲鳴をあげる、いわばパニック状態とも言える状況を生み出してしまった。
 細菌性髄膜炎から子どもたちを守るワクチンの定期接種化を目指して活動してきた経験から新型インフルエンザワクチン騒動に共通する我が国のワクチン・ギャップについて報告したい。
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