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Vol.253  現場からの医療改革推進協議会第十一回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2016年11月18日 15:00)


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(参加申込宛先: genbasympo2016@gmail.com)

2016年11月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2016年11月27日
【Session 05】地域医療  10:00~11:10

●人口11万人の地方都市での地域医療
麻田ヒデミ

現在私は70歳になります。学生運動が最も激しかった昭和40年~46年に医学生の時を過ごしました。
卒後研修後は約45年間、人口11万の丸亀という地方都市で内科医として過ごしてきました。300床の地方病院での勤務医と理事長職を務め、また健康診断のみを業務とする医療機関の院長、身体障害者の通所施設の理事長とかなり多方面の医療を実践してきましたが、その中で痛切に感じることは、医学生だった頃私たちが目指してきた医療・システムと今の医療内容の違いです。
今は患者さんとの個人的な関係も希薄になり、実施するべき医療内容は専門化して、1人では十分な診断・治療が困難なケースも多くなりました。その結果、丸亀のような小さな地域社会においてでさえ、医療を提供する環境は大きく変わってきています。
また、地域医療のみならず、医療そのもののあり方も大きく変化してきているように思います。IT技術の導入や新薬の開発も加速し、本当に日進月歩と言えるでしょう。
しかし同時に経済格差同様、医療の地域格差もどんどん広がっています。
病気の人たちが受けたいと思う治療の内容は、メディアの喧伝により各段に広がりを見せる一方で、地方での医療レベルはそこまで達していないことが多いのも現実です。また患者さんの意識も多様化し、なかなか治療内容に満足して貰えないこともあります。私自身、自分の医学的知識不足を痛感することもしばしばです。
そのような現状を補完する方法として私は今、遠隔医療に期待しています。
専門家の医師と、患者情報をデジタル・アナログを問わず同時に共有しながら、多方面から診断や治療を行っていく。その内容を、地域に密着した私たち現場の医師が、患者さんの生活環境までを考慮しながら治療につなげていけるような仕組みです。
地方の医療格差を出来るだけ少なくする一方、昔ながらの家庭医としての役割を果たす。そんなシステムを構築し、患者さんに安心してもらえる医療を提供したいと模索している昨今です。
●南相馬で考える地域医療
尾崎章彦

現在私は卒後7年目の医師である。福島県南相馬市において外科医として勤務する
傍ら地域住民の健康問題に取り組んでいる。私は医師1年目に経験した東日本大震災をきっかけに被災地で医療に取り組みたいと決意し、2012年4月から福島県に移住した。
特に、南相馬で過ごしたこの2年間は、「地域医療」とは何かを見つけ直すとても良い機会だったと思っている。
一般に、地域医療は,都市部の医療と対比した上で地域の医療として捉えられることが多い。しかし、私が考えるに,都市部か地方かに関わりなくその土地で暮らす住民のニーズに応えるものであるべきだ。現場で患者さんと関わり、その中で問題に気づき、解決していく。その過程を繰り返すことにより、患者の満足度を上げるだけでなく、医療者自体も成長していくことができるのではないだろうか。
例えば外科で担当する疾患にがんがあるが、患者の多くは高齢者である。震災後、十分なサポートを受けられずに病院への受診が遅れたり、治療を完遂できない方が増えている。背景には、震災後多くの若年者が市外に避難したことがある。これは、個々の患者と丁寧に対話を続けることでわかってきた事実だ。さらに、この取り組みを続ける中で患者と私の距離感は縮まり、以前より近い関係で診療をできるようになったと感じている。
また、がんに限らず様々な疾患の治療に取り組む中、震災後に蜂刺されによる病院受診が増加していることに気づくことがあった。同様に患者と密なコミュニケーションを取ることで、避難区域や街中の空き家で蜂が増加している可能性、また、除染作業員の被害が多いことがわかってきた。
このようにしてわかった事実は論文や記事として記録に残すように努めている。その努力もあってか海外の若い医師や研究者との交流も進んでいる。現場はダイナミックであり、そこで起こっていることは私たちの想像を超えている。地域医療は医師にとって学びの場である。
●北海道オホーツク圏での初期研修
齋藤宏章

「北海道で研修をしている」、というと本州の方は大抵札幌のあたりを想像されるようだが、私が研修している北見赤十字病院は札幌からおよそ350km離れた北見市に位置している。この距離は実に東京̶名古屋
間に相当する。北見赤十字病院はオホーツク圏の中核を担っているが、北海道の北東部、オホーツク海に面した紋別、遠軽、網走、北見の地域で構成される第3次医療圏である。オホーツク圏の面積は10.691平方キロメートル、これは新潟県の面積よりも大きく、四国の半分を上回る。札幌の次に人口の多い旭川市まで約170km、東京から軽井沢までの移動距離と同等だ。つまりオホーツク圏で完結できない医療は170km先にお願いすることになるわけである。地理的な制約がこの地域の医療の一つの特色である。医師数も少なく、人口10万人対比では151.2名で全国平均237.8人を大きく下回る。本州とは一風変わった環境でありがたいことに多くの経験を積ませていただいている。
自然も非常に豊かで、アウトドアや観光に乗り出すのはオフの週末の大きな楽しみである。車を1 時間半走らせれば世界遺産の知床半島を散策できる。オホーツク圏での初期研修を公私ともに紹介しこの地域について少しでも知っていただければ幸いである。
●山形県庄内地方における地域医療への取り組み
島貫隆夫

医療は地域と密接な関係にあり、歴史や文化を含めた地域特性への配慮も必要である。当院における取り組みを報告した上で、将来の課題について医療と街づくりの観点から考える。
酒田市立酒田病院と山形県立日本海病院は2kmと離れていないところにあり競合関係にあった。様々な折衝の結果2008年4月に地方独立行政法人を運営形態とする病院統合再編が実現し、日本海総合病院(646床)と同酒田医療センター(114床)となった。少ない医師の負担を減らし、医療の質を向上させるためにクラーク、看護補助者などを多数投入し、生産性の向上に努めた。その結果在院日数は11日台となり、診療単価が上がり、収支は改善した。
水平な地域連携を形成することを目的に2011年4月より地域医療情報ネットワーク「ちょうかいネット」を立ち上げた。開示施設での診療録開示を義務付け、利用は順調に伸び、2016年10月現在の登録患者数は23,783人である。この4月より検診センターとも連携し、国保の検診データ参照を可能とした。
今後の課題である少子高齢化と人口減少に対応できる地域包括ケアシステムを実現するために、この9月に5法人からなる地域医療連携推進法人設立協議会を立ち上げた。
地域完結の医療・介護を目指し、競争相手同士での潰し合いをやめ、効率化と生産性を向上させてゆく。
さらに15~20年後の状況を視野に入れた医療を確保するためには、急性期病院の統合再編も俎上に載せなければならないだろう。2015年の庄内地域人口は279,506人だが2035年は209,968人と予測されている。人口は少ないが面積は神奈川県とほぼ同じであり、地域の広さに対応したコンパクトシティーを目指す発想が求められる。病院を核とした、高齢弱者でも気軽に交流できるような交通インフラを整備し、技術革新を活用した、庄内地域を一体とした街づくりが待たれる。
●清水の在宅医療~顔の見える連携とI C T ツールの活用とやはり顔の見える連携
吉永治彦

静岡市清水区では、「地域包括ケア」という言葉が一般化するずっと以前、旧・水市の頃から在宅医療や介護に関わる多職種の連携を大事にしてきた。東海地震を想定して数十年前から毎年きっちり行われている防災訓練もこの連携に一役かっていたのかもしれない。近年では機能強化型在宅療養支援診療所チームを構成して在宅患者増に対応するとともに、毎月第2火曜日にInterProfessional Café(多職種カンファレンス。雑談の場となることも多いが)を開催し、各圏域の包括支援センターや訪問看護ST等との顔のみえる連携を強化している。
オリジナルのグループウェアを構築し日々改良を重ねながら運用していることも特徴である。「DtoD Shimizu」は、メッセージ・掲示板・スケジュール・書庫等に加え共有データベース機能を備えた清水医師会と病院勤務医専用webサイトで、診療所機能DBを使用すれば、例えば「人工呼吸器管理・カニョーレ交換・看取りも対応する患家に近い診療所」といった複合検索の結果を地図上にリアルタイム表示可能なため、地域連携室が逆紹介先を探す際に役立っている。紙のアンケートに比べ人手もかからず情報の陳腐化もない。さらに集団感染発生時等に緊急立ち上げ可能なリアルタイム感染症サーベイランスDBや災害時の安否確認システム等を追加し今なお発展途上である。建物と異なり小さく作って大きく使うこともできるのがICTの利点。大規模システムにはない小回りのよさや開発スピードも地域には最適である。これをVPN上に移築して患者情報を扱えるセキュリティーを確保し多職種向けに拡大した「SkyCastle」も本運用に入っている。
尚、これらはあくまでも顔のみえる連携の補助ツールであるということ、医療情報を共有可能だがクラウド型の電子カルテではないこと(必要な最低限の共有にとどめる)を運用上のスタンスとしている。
人口減少が進みエスパルスもJ2でぱっとせず「しみずみなと」は意気消沈気味であるが、気候温暖にして富士山と海、のんびりとした人々に囲まれ、高齢者が最期まで笑顔ですごせる街を守ってゆきたいと思っている。

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