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Vol.038 言論抑圧の背景事情 -東千葉メディカルセンターを巡る医療講演会-

医療ガバナンス学会 (2017年2月20日 06:00)


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この原稿はMMJ2月15日発売号からの転載です。

井上法律事務所
弁護士 井上清成

2017年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.東千葉メディカルセンター問題
この1月15日、東千葉メディカルセンターを心配する会(代表・前嶋靖英氏)の主催で、千葉県東金市にある東金文化会館において、「東千葉メディカルセンターを巡る医療講演会」が開催された。講演者は、小松秀樹医師(元亀田総合病院副院長、元虎の門病院泌尿器科部長)と吉田実貴人公認会計士(いわき市議会議員)の二人。小松医師は東千葉メディカルセンター問題の背景を、吉田公認会計士は東千葉メディカルセンターの病院経営分析を、それぞれ講演した。
なお、東千葉メディカルセンター問題は、国家公務員・地方公務員がその私的行為によって小松医師に対して言論抑圧を行なった背景事情の一つであったとも目されている。言論抑圧の対象となったほどの重大問題だとも評することができようか。

2.毎年20億円ずつの大赤字
東千葉メディカルセンターは、人口合計約7万7000人にすぎない東金市と九十九里町とで設立した「地方独立行政法人東金九十九里地域医療センター」が平成26年4月に開院した、三次救急をも行う病床数314床の救急医療・急性期医療などの病院である。千葉大学の医局によって支えられ、奮闘して地域医療に貢献していると評してよい。
しかし、東千葉メディカルセンターの開設計画には、もともと無理があり、千葉県の大失政の一つに数えられてもよいであろう。問題は、毎年約20億円ずつの大赤字を、平成26年4月の開院以来、出し続けていて、今後も改善する見込みがない。さらに毎年約20億円ずつの赤字が、今後も積み重なっていくであろう。
現在の累積した実質年間負担額は、3年間で合計約70億9000万円である。平成26年度実質負担は約23億円、平成27年度実質負担はまた約23億3000万円、平成28年度実質負担はさらに増えて約24億6000万円(予想)であり、たった3年で赤字が70億円を超えてしまった。

3.公認会計士もびっくり
東千葉メディカルセンターの決算状況は、毎年、千葉県・東金市・九十九里町からの補助金を入れても、最終損益が10億円以上ずつの赤字となっている。補助金で補った後の決算状況は、平成26年度決算が約15億4000万円マイナス、平成27年度決算が約16億5000万円マイナス、平成28年度決算(予想)が約13億円マイナスで、すでに3年間の累積損失額が約44億9000万円に達してしまった。
講演者の吉田公認会計士も、財務諸表を見て医業損失の大きさにびっくりした、過去の9市町村による計画が2市町に縮小したにもかかわらず新病院が建設されたことに驚いた、平成29年度以降のバラ色の計画(注・行政がこの度、計画し直して変更したバラ色の第2期中期目標のこと)の根拠が見えない、と驚いていたくらいである。
確かに、医業損益ベースで赤字が垂れ流しの状態であり、民間病院なら破産しかない。これをこのまま放置しておくと、東金市民や九十九里町民が甚大な回復しえない被害を受けてしまう。東金市や九十九里町の財政破綻だけは、何としても避けなければならない。

4.ゲリマンダー張りの医療圏の区割り変更
こういった状況に立ち至ると、往々にして過去の責任を追及したくなるものであろう。もちろん、これだけの大赤字になってしまったのだから、過去の計画策定の過程に道義的責任、社会的責任、行政責任が問われがちなのは、やむをえない。ただし、ただちに法的責任につながるわけではなく、今さら責任追及しても詮ないことも多いと思われる。
しかし、そもそも三次救急に需要がないことは、最初から明らかだったであろう。東金市や九十九里町は人口が過疎になっていくトレンドとも言えようし、そもそも千葉市内まで高速道路で20分の場所に三次救急の病院需要はない。しかも、東千葉メディカルセンターのすぐ西側には千葉大があるし、すぐ北東側には旭中央病院があるし、すぐ南側には亀田総合病院もある。
ところが、そのような地域に、二次保健医療圏の区割りをゲリマンダーのように作り変えてまで、三次救急医療機関を開設しようとしたのであった。
余談であるが、選挙区割りを特定の政党や候補者に有利になるように恣意的に作ることをゲリマンダーと言う。昔、アメリカのゲリー知事がサラマンダー(イモリやサンショウウオのような両生類)のような異様な形の地理的レイアウトの選挙区割りをしたことから、ゲリマンダーとかゲリマンダリングと呼ばれるようになる。
もともと千葉市を中心とする千葉医療圏の北から東にかけては「印旛山武(いんば・さんむ)」医療圏が接していて、そのうちの「印旛」地域には成田赤十字病院などの立派な三次救急医療機関があった。他方、千葉医療圏の南側に位置する「長生夷隅(ちょうせい・いすみ)」医療圏には三次救急医療機関がなかったものの、特に「夷隅(いすみ)」の人々は、すぐ南側に接する安房鴨川にある亀田総合病院に特に不便もなく通っていたのである。
そうしたところ、三次救急医療機関たる東千葉メディカルセンターを無理してでも作らんがため、「印旛山武(いんば・さんむ)」医療圏から「山武(さんむ)」を強引に切り離し、「長生夷隅(ちょうせい・いすみ)」医療圏と合併させて、「山武長生夷隅(さんむ・ちょうせい・いすみ)」医療圏という千葉医療圏の北東から南にかけて長々と接する、異様に南北に長い形をしたゲリマンダーのような二次保健医療圏を作り上げた。そして、その上で、「山武長生夷隅(さんむ・ちょうせい・いすみ)医療圏に三次救急医療機関がない」との政治的キャッチフレーズで、三次救急医療機関たる東千葉メディカルセンターを開設したのである。
つまり、もともとの成り立ちからして、ゲリマンダーのように、不自然に無理な開設だったと言えよう。

5.将来の法的責任は回避を
すでに述べたように、大切なことは、東金市や九十九里町の財政破綻を避けることである。もしもこのまま経営や財務の状況をあいまいにしていたり、臭い物に蓋をしていたりして、東金市民や九十九里町民に被害を与えるようなことがあってはならない。財政破綻が生じて被害が生じたならば、それは諸々の責任者達の法的責任に直結する。将来の法的責任を回避するべく、諸々の責任者達は今後は前向きに対策に取り組むべきであろう。

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