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Vol.084 指導・監査の適正化 ~指導・監査は医療費抑制の道具ではない~

医療ガバナンス学会 (2017年4月20日 06:00)


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この原稿はMMJ4月号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年4月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.指導・監査への誤解
保険診療の報酬請求に関する指導(集団指導、個別指導)や監査は、特殊な分野である。医師・歯科医師にすら十分に理解されていないことも多いし、ましてや一般国民には知られていない。そのため、指導や監査に対する誤解も多いようである。
たとえば、平成29年3月6日の参議院予算委員会では、ある参議院議員から、次のような誤解した質問(発言)も見られた。

2.ある国会議員の誤解
「厚労省は、個別指導や監査を行う際に、現状、医師会の立会いがこれ必要というふうになっているんですね。医師会を立ち会わせるために、日程の調整、こういったものをやるのに非常に時間が掛かったり、迅速な指導監査、こういったものがなかなかできないというふうな状況にあるというふうなことをお聞きします。個別指導に当たる厚労省の指導医療官、この方は医師資格を持っておられるわけでして、専門知識としては十分にあるわけです。
また、健康保険法上も、厚生労働大臣が必要であると認めるときという文言にとどまっていることから、より指導監査を進めていくために、医師会の立会い、これを省略すべきというふうに考えますが、いかがですか。」「高額な会費をこれ納めているわけですから、会員である医師のための活動をする、言ってみれば利益団体だと思うんですね。医師会の会員である医療機関からの請求が適切かどうか判断する個別指導や監査において、医師会が立ち会っても、これ、私はそんなに中立公平な立場にとれるわけではないだろうというふうに思うんですね。
むしろ、利益相反行為になるというふうに考えるんです。是非これ、こんなやり方をやっているのは多分この部分だけじゃないかなと思うんですね。いろんな団体とかもありますけれども。だから、是非ここはやっぱり省略して、もう本当にこれ、医師会の立会いが必要だというときがあるのかどうか分かりませんけれども、できるだけこういったところは省略して省いて、もっと迅速にやっぱり指導監査を進めるようにやるべきだと思いますが、いかがでしょうか。」

3.医療費抑制という誤解
この誤解している参議院議員の質問(発言)に対しては厚労大臣や首相が適切にいなしてはいたものの、この種の誤解は一般国民の間には多いようである。
医師会の立会いや位置付けへの誤解にも甚だしいものがあるが、特に、個別指導への誤解がひどい。「医療機関からの請求が適切かどうかを判断する個別指導」というフレーズがあったけれども、このフレーズが誤りの根本を端的に示していると言えよう。つまり、「個別指導」を、「監査」つまり「調査」と同質のものと勘違いしているのである。
そのため、「個別指導」を、不正請求・不当請求の診療報酬の返還のための道具(行政処分、刑事告発のための道具も含む。)、広くは、医療費抑制のための道具と位置付けてしまった。ここにこそ、根本的な誤解が潜んでいるのである。
個別指導、広くは集団指導と合わせて「指導」は、すべての保険医療機関が細かくて複雑な診療報酬の改定告示を理解・運用していくための将来に向けた「研修」(もしくは、教育、改善)と言ってよいであろう。決して、かつて間違えて理解・運用した診療報酬請求に対する「制裁」(もしくは、返還・原状回復、責任追及)ではない。
すべての医療機関が適切に診療報酬改定告示に従って理解・運用し、国民すべてに保険医療を受ける機会(受療権)を現実に保障し、ひいては国民皆保険制を維持・発展させて行こう、という目標に向かう前向きなものなのである。

4.責任追及の取調べという誤解
しかし、甚だ遺憾なことながら、当の地方厚生局自身が「指導」につき勘違いをしている節があるらしい。各地の厚生局で、集団指導の折などに、道路交通法のスピード違反と対比させたパンフレットを作って配布している模様である。
道路交通法第103条の免許取消し、停止等の条文を指摘しつつ、「たかが“スピード違反”?」「制限100キロなんて知らなかった。」「たかが“スピード違反”ではないか。」というフレーズを列挙して対比させて、健康保険法第81条の保険医の登録の取消しの条文を指摘しつつ、「たかが“レセプト病名”?」「そんな算定要件があるとは知らなかった。」「たかが“カルテの記載忘れ”ではないか。」というフレーズを強調し、究極は、「知らなかった」などの言い訳は通用しない!、などと脅かす。
これでは、個別指導は責任追及のための取調べと化してしまう。余りにも品の無いパンフレットなので、厚生労働省の品格が疑われる。即刻、パンフレットを廃棄、回収すべきであろう。

5.個別指導は任意調査という誤解
法的に分類すれば、指導は集団指導・個別指導を問わず、「行政指導」である。それも、主として「研修」「教育」「改善」といった、将来に向けての指導にほかならず、過去の責任を追及するものではない。これに対して、監査は、任意調査・強制調査を問わず、「行政調査」である。「調査」とは情報収集であるが、公権力が行うものであるから、「不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき」に限られなければならない。むやみに、保険医療機関や保険医の患者に対する診療に関わるプライバシー性の高い情報を収集してはならないのである。
ところが、ともすれば「個別指導」はあたかも「任意調査」であるかのように誤解され、運用されているようにも思う。それは、「個別指導」の「監査」化であり、妥当な理解・運用ではない。

6.指導・監査の適正化を
このような意味で、指導と監査の混同を無くして峻別し、指導・監査の適正化を図っていくべきである。
指導・監査は、医療費抑制の道具ではない。特に指導は、責任追及のための道具でもないのである。
このように適正化することによって、真に指導の充実を図り、国民すべての受療権と国民皆保険制とを真に保障していくことが望まれよう。

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厚生局パンフレットの一例
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~知らなかったは通用しない!~

●たかが“スピード違反”?
「制限100キロなんて知らなかった。」
「たかが“スピード違反”ではないか。」

※道路交通法第103条(免許の取消し、停止等)

●たかが“レセプト病名”?
・「そんな算定要件があるとは知らなかった。」
・「たかが“レセプト病名”ではないか。」
・「たかが“適応外投与”ではないか。」
・「たかが“カルテの記載忘れ”ではないか。」

※健康保険法第81条(保険医又は保険薬剤師の登録の取消し)

「知らなかった」などの言い訳は通用しない!

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