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Vol.114 医療事故調査・支援センターは、医療の「質」の問題に手を出してはいけない

医療ガバナンス学会 (2017年5月30日 06:00)


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現場の医療を守る会 代表世話人
坂根Mクリニック 坂根 みち子

2017年5月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医療事故調査制度が開始して1年半が経ち、先日日本医療安全調査機構の医療事故調査・支援センター(以下センター)からH28年度の年報と、初めての分析・提言が1例出されました(1)。
センターのH28予算は、約9億円でした。年報は187ページにわたる立派なもので、H28年の医療事故報告(制度開始のH27年10月から1年3ヶ月間)は487件ありました。これらの報告の中から、センターが1例目として選んだ分析・提言対象は、「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析」でした。提言には手技に対する教科書的な指導が27ページにわたりかかれていました(2)。

この報告書を受け取って、この制度を正しく理解している人は大変驚かれたのでないでしょうか。少なくとも、私は絶句しました。
そもそも、中心静脈穿刺合併症というのは、今まで繰り返し起こってきた医療事故であり、何度も指摘されており、当然「予期出来た」事故です。日本医療機能評価機構を始め、各団体からすでに指針や提言も出されています。
そして、これは、医療の「質」に関する提言です。
こういった医療の「質」に係る分析・提言をする事がセンターの仕事なのでしょうか? 技術的な問題を分析して、冊子を作って配れば、現場の医療安全が高まるのでしょうか。

センターは質の問題を扱うべきではありません。質の問題は、医療者が自らやるものです。基本事項を学んだ上で、現場の人間が、手取り足取り実地でon-the-job training する必要があるのです。
センターの仕事は、「システムエラーを見つける事」に特化すべきです。
一足先に医療事故調査制度が始まったスウェーデンの制度についてお話しします。スウェーデンでは2011年に「患者の安全法」が制定され、医療事故調査制度が完備しました。
医療事故はIVO(イーボ:医療福祉監査局)という組織が取り扱っています。ここが、日本で言う事故調のセンターにあたります。各医療機関は、院内で起きた医療事故のうち、院内で対処出来るものは院内で処理し、医療機関が重大だと考えた「予期せぬ苦しみ、障害、死亡」を、各医療機関の判断でIVOに届けるのです。
IVOの仕事は「システムエラーを見つけること→情報を他の医療機関と共有すること→現場の改善作業」の繰り返しです。
ここでは、報告・分析して再発防止、という学習のためのシステムが徹底していて、これにより警察に届けられることも裁判になることもほぼ無くなりました。そして無過失補償制度との組み合わせにより、さらにより効率的に機能しているのですが、今回は無過失補償制度については触れません。
言いたいのは、スウェーデンでは、事故調センターはシステムのエラーを見つける事に特化していて医療の質の問題は取り扱わないということです。

日本では、すでに10年以上も日本医療機能評価機構が、医療事故情報収集等事業を行っていて、そこには、広義の「医療事故」情報が2万5千件以上蓄積されています(3)。それがあるからこそ、今回の医療事故の報告対象は極めて限定されているのです。つまり各医療機関の管理者は、スウェーデンと同様に、他の医療機関と情報を共有した方がいいものを報告すれば良いという事になります。
問題は、山のように蓄積された医療事故情報が、現場にフィードバックされてこなかった、現場の改善が不十分であるという事です。
今まで医療安全に係る事業を担ってきた医療機構評価機構も医療安全支援センターも、医療安全のために情報収集して啓蒙活動をすることになってはいますが、残念ながら具体策に欠け、報告書を出してネットで公開して終わりであり、具体的なアクション、人、金、もの、の現場へのフィードバックが足りないのです。
本来なら、ここでセンターの出番なはずです。今まで改善出来なかったシステムエラーを具体的に改善させていく作業、これこそセンターに求められている事です。国の経済状況が悪化する中で、今までの知見を活かして効率よく医療安全を推進する事には、国民の理解も得られると思います。

具体的には、造影剤の誤投与事故など、1例目として取り上げるのに最適でした。造影剤の誤投与は、センターのスポークスマン、木村壮介氏が直前まで院長をされていた国立国際医療研究センターで2014年にも起き、最終行為者である研修医は有罪判決を受けております。そして、最近の調査によると、造影剤の事故が世界で一番起きているのが日本だそうです(4)。木村壮介氏のいるセンターの提言1例目として、これ以上適した対象は他には見当たりません。
このような喫緊の課題であるシステムエラーを放置して、何故、医療の「質」の問題に手を出したのでしょうか? そして今回も、センターは提言を出して終わりなのでしょうか。
このような効率の悪い仕事の仕方を見ていますと、センターの前身である死因究明のためのモデル事業のときと同様な労働生産性の低い高コスト体質を感じます。センターのH29年度予算は9.8億円 です。

先日、とある講演会でこの話をしましたら、聴講した医師から「ようやくこの制度が理解できた、何でこんな風にわかりやすく説明してくれなかったのか。医師会の人にこの講演会を聴いてほしい」「今まで医師会やセンターの講演会を何度か聴いたが、日本医療機構評価機構の医療事故情報収集等事業については全く知らなかった」と言われました。
センターや日本医師会の研修会では、今まで行われてきた医療事故関連事業についてはいっさい触れません。報告数が予算とリンクするからです。
厚労省は、報告数と予算をリンクさせるのを止めるべきです。
システムエラーの改善により、現場の医療安全にどれだけ寄与したか、それによって予算を決めてください。そしてもっと医療現場に直接予算が回るような仕組みに替えて頂きたいと思います。

一臨床医である私は、どこの医療団体も代表しないため、どの制度とも一切の利害関係がありません。ですからシステム全体を俯瞰して本来あるべき姿を語れるわけです。そのようにして丁寧に説明すれば、論理的な思考が得意な医療者が腑に落ちるのは当たり前です。
センターの事業が大きな無駄を生み出す前に、センター業務の見直しをし、真に医療安全に資する仕事をして頂きたいと、心から願う次第です。
参考
(1)日本医療安全調査機構 年報

https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/publication/nenpou-h28.pdf

(2)医療事故の再発防止に向けた提言 第1号

https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=3

(3)日本医療機能評価機構HP  http://www.med-safe.jp/index.html

  • (4)造影剤髄腔内投与による有害事象21事例の分析と、拡大防止・再発防止の検討 喜田裕也 他 日本医療マネジメント学会雑誌 Vol.18,No.1,2017
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