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臨時 vol 379 「診療報酬3%減額案と超緊縮予算案とは連動しているにちがいない」

医療ガバナンス学会 (2009年12月2日 08:00)


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田中啓一(日本のお産を守る会代表、嵯峨嵐山田中クリニック院長、京都)

2009年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


事業仕分けの俎上に診療報酬がのせられ、案の定、3%減額と言われてしまった。2年前の診療報酬改定が1.9%減だったから、実行されれば今度はさらに大きな減額になるわけだ。仕分け人をつとめた方々は、その結果、医療の質はいっそうよくなると思っての減額なのだろうか?それとも、医療の質や供給能力が多少落ちてもやむなしと思っているのだろうか?

2年に1回、診療報酬改定の議論が始まる時期になると、決まって新聞各紙1面に「開業医の年収、○千万円」と見出しが躍る。例年は2月頃なのだけれども、今年は早くも11月に見出しが躍った。事業仕分けに合わせてのことだろう。ある特定の職種の人々の年収がどうだというような報道記事はその数字が仮に正確だったとしてもプライバシーの侵害にはならないのだろうか? こういう記事を読んで医療界以外の人々はどう思うのだろうか?

11月下旬、京都市中心街にあるデパートに行った。3畳用の敷物を探すためだった。
家具売場に行くと知人が店員をしているのに遭遇した。その知人がデパートで働いているとは知らなかったので、本当に偶然だった。敷物売場の見物がすむかすまないうちに高級家具売場を案内された。見たこともないような豪華な食卓やソファなどが並べられていた。中でも一段と高級そうな家具があった。アメリカのドレクセルというメーカーの最高級の家具なのだそうだ。マホガニー製で子々孫々へ託していけるのだという。
ホワイトハウスにはこんな家具が使われているかしらなど想像しながら、売場を後にした。おそらく、知人は新聞第1面の見出し「開業医の年収○千万円」を読んだからにちがいないと思った。

年金のことを考えてみた。平均寿命までに死亡すれば掛け損だし、平均寿命を超えれば、掛け得になる。しかし、自分が平均寿命まで生きているかどうかは、誰だってわからないのだから、年金加入がすべての人にとって経済的に有利だというわけではない。元をとりたいという動機だったら、これは一種の賭けなのだと理解するであろう。そういう動機ではなく相互扶助のために加入されるべきものである。
開業医の場合にも同じことが言える。開業資金を借入れ、借金を返し終わる時期までに死亡すれば負債を残す。借金を返済し終えたあとも健康で働くことができれば、その時点から働いた分が純粋の収入になる。設備の更新費用や自分自身の技術更新にかかる費用などが必要なことはいつになっても変わらない。
借金を返済したあとも働くことができるかどうかはまえもってわからないので、これは賭けである。したがって開業医の収入が常に勤務医の収入よりも多いとは必ずしも言えないのである。
一般化して言うならば絶対確実に利得を得る方法などこの世にないのである。健康で長生きという条件を満たした者だけが余分に年金や事業所得を得るのである。世間の表面を見ているあいだは開業医や中小企業経営者は所得が多いと無邪気に思える。世間の内側で日々仕事に格闘している者は誰もそんなことは思わないだろう。

今回の診療報酬3%減案以上に重要なことがある。それは、現政権は超緊縮予算の道を選びそうなことだ。診療報酬3%減は超緊縮予算案と抱き合わせになっているにちがいない。無駄を削減しない限り増額させないという姿勢が一貫しているのだ。しかしそれでは現状の医療供給体制を維持することは難しく、また今の景気すら維持できないことを株価は反映して値下がり傾向にある。

過去の政権では2度超緊縮予算が実施された。平成9年(1997年)の橋本内閣と平成13年(2001年)の小泉内閣のときだった。2度とも著しい不況に陥った。もしそのようなことがなければ、日本人の給料は20年前の2倍から3倍になっていたのだと言われる(紺屋典子著、幻冬舎新書、平成20年11月刊行)。
今回もしも3度目の超緊縮予算がとられたならば、いったいどんな不況が待ち受けているのだろうか? 株価は11月29日現在、9000円を割り込みそうである。
鳩山政権は発足してまだ2カ月余りで、予算策定の時期を迎えている。不慣れなのはやむを得ない。しかし財政規律の声に押されて超緊縮予算を組むならば、不景気が深まり税収はさらに減り財政規律どころではなくなる。政権は崩壊するかもしれず、国民生活がいっそう窮乏することは確かだ。

友愛に加えて英知と勇気を持って、現政権は大規模な財政出動をおこなっていただきたい。これは民主党のためだけではない。民主党政権を支持した国民にとっても、支持しなかった国民にとっても仕事と生活がかかっている。
最後に鈴木淑夫氏の近著を紹介したい。日銀理事を退任したあと、衆議員議員をつとめたエコノミストである。『日本経済の進路―新政権は何をすべきか』(岩波書店、平成21年7月刊行)によれば、中期的に財政規律を考えればよいと言う。理由は国債のほとんどが日本人によって保有されているからだと。そして医療にはもっとお金をかけるべきだとも主張されている。(平成21年12月1日)

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