医療ガバナンス学会 (2017年6月6日 06:00)
この原稿はJBPRESS(4月25日配信)からの転載です。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49822
森田 麻里子
2017年6月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●医師の約4割が地方勤務を希望
そもそも日本全国に完全に平等に医師が存在することなどあり得ない。何をもって偏在と言えるのだろうか?
都会で働きたい医師もいるけれど、地方で働きたい医師もかなりの割合いるのではないだろうか?
今回の調査は、その疑問の答えを得る絶好のチャンスでもあった。医師の地方勤務への考え方を明らかにしようと、議論を重ねて設問や選択肢を設定した。
そして私はこの調査中ちょうど妊娠しており、自分や夫、生まれてくる子供の人生を考える中で、現在の医療政策の考え方について大きな不安を感じた。
この調査結果のポイントは、医師の4割以上に地方で勤務する意志があると分かったことだ。そして、その意志がない医師に理由を尋ねると、20代では労働環境、30~40代では子供の教育環境が1位だった。
*1=http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161075.pdf
家族がいなければ、自分の都合だけで勤務地を選べる。
十分な指導を受けられなかったり、当直やオンコールの負担が大きかったりする可能性もあるにせよ、より多くの経験が積める地方の中小病院での勤務を希望する医師は多い。
また、子供が幼いうちは、住宅環境や保育園事情の点で地方の方が子育てに有利に働く可能性がある。
●子供の教育環境が問題に
しかし、就学年齢に近づくと教育の問題が出てくる。
自分の子供に十分な教育を受けさせ、高い学力・スキルが必要な職につかせたいと思うのは当然のことだ。一般に、現在の日本で高い学力を身につけさせるには、良い塾に通わせて、学力レベルの高い中学・高校に入れることが必要である。
稀に、地方の公立高校から塾にも通わず医学部に合格したとかいう話も聞くが、それは本人の努力と周囲の協力によって運良く成り立つものであり、普通の子供が誰でもできることではない。
そしてそのような教育環境は、ある程度の人口密度がある都会でなければ提供されないのである。
これ自体は政策介入が困難な問題であるが、この結果は、今後状況がさらに悪化する可能性を示している。
日本は1970年代から少子化が進み続けており、移民の受け入れがなければ成長の余地は限られている。医療費は年々拡大し、その約60%が65歳以上に使われる一方で、現在まで本気の少子化対策は行われず、保育園に入れない子供もいまだ大勢いる。
医師は医療を提供することで給料をもらっているのだが、働けば働くほど未来の子供たち、自分の子供にしわ寄せが行くという矛盾を抱えている。
今はいいかもしれないが、20年後の日本が豊かな国であるかどうかはわ分からない。医学は世界共通であり、医師は比較的海外へ出ていきやすい職業だ。子供の教育のために都会に住みたいと考える層は、今後、海外移住する層に変化するだろう。
●東大よりも海外有名大学へ
私は都内で高校時代を過ごしたが、当時は皆が東京大学を目指し塾に通っていた。
しかし今では開成高校が海外大学の説明会を実施しているし、海外大学進学や帰国子女教育に力を入れている渋谷教育学園幕張や渋谷教育学園渋谷の人気が上昇していると聞く。
ベネッセや早稲田アカデミー、駿台などの大手予備校も海外進学専門コースをスタートさせており、海外で教育を受けることはどんどん身近になった。この十数年で、雰囲気が大きく変わったのだ。
都会に医師が「偏在」しているのだから、管理して強制的に地方で勤務させなければいけないという意見が根強くあるが、そんなことを言っている場合ではない。
日本で医師として働く生活に魅力がなくなれば、あっという間に日本の医療は崩壊する。目先のことにとらわれず、将来の日本の医療の姿を真剣に考えるべきではないか。
1)http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161075.pdf