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臨時 vol 396 [事業仕分けによる漢方保険外し:報道を振り返る

医療ガバナンス学会 (2009年12月12日 14:00)


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東京大学医科学研究所附属病院 内科
湯地晃一郎

2009年12月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


2009年12月1日、日本東洋医学会ら4団体は、漢方薬の保険適応継続を求める陳情を行い、厚生労働省外口崇保険局長を訪問、署名簿273,636名を厚生労働大臣宛に提出しました。
筆者は電子署名を担当しました。この場をお借りしてご署名を賜りました皆様に、深く御礼申し上げます。
本稿では、本問題を報道の観点から振り返ります。

●漢方薬保険適応除外の歴史的経緯:財務省の意向

漢方薬を保険から外すことは再三議論となっていました。日本東洋医学会は反対署名を平成5年に2週間で24万人、平成6年に148万人集めています 。この経緯については、日本東洋医学会の声明が詳しいです。

日本東洋医学会、署名活動のお礼と更なるお願い(2009/12/3)

http://www.jsom.or.jp/pdf/opposition/reward.pdf

その後も、平成9年、平成10年に自民党厚生労働族の丹羽雄哉議員は、漢方保険外しについて言及されておられました。詳しくは以下をご覧ください。

日本臨床漢方医会 会報 これからの医療保険のあり方について (1998/4)
与党医療保険制度改革協議会座長 丹羽雄哉
国民会議ニュース1998年4月号所収

http://www.mmjp.or.jp/gyoukaku/toron/199804.htm

そして今回です。
行政刷新会議ワーキンググループ・配布資料(11月11日)の午後の部(6)pdfファイル、2-5 (4)Iに、「市販品類似薬の薬価は保険外とする」 という文面が掲載されました。財務省作成の資料です。P55をご覧下さい。

http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov11-pm-shiryo/06.pdf

ここに、「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい。」「国民の税金・保険料で持ち合う公的医療保険の対象として、湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されているものまで含めるべきか、見直すべきではないか。」と記載されました。
●製薬会社、業界紙が敏感に報道

11月11日に事業仕分け会議が行われ、漢方薬等の市販品類似薬を保険適用外とする方向性が下されました。

行政刷新会議「事業仕分け」第2WG 評価コメント
事業番号2-5後発医薬品のある先発品などの薬価の見直し

http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov11kekka/2-5.pdf

当初この内容を報じたメディアはありませんでした(日経テレコン調べ、以下同じ)。

製薬業界の反応は早く、11月12日にツムラはいち早く反対表明を行っています。専門紙の薬事日報が報じました。株価もその後10%の下落をみました。

【ツムラ・芳井社長】漢方薬の”保険外し”に反発‐「事業仕分け」の結論を一蹴 薬事日報 (2009/11/13)

http://www.yakuji.co.jp/entry17252.html

一方、マツモトキヨシ社長は、OTC類似薬の保険適用外の方向性を支持しています。

マツモトキヨシ社長:OTC類似薬の保険適用外の方向性に「そうあるべき」Bloomberg news (2009/11/13)

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=aSIY1iB7_oG8

毎日新聞では、みずほ証券によるツムラ銘柄分析の記事を11月13日に掲載し、漢方保険適用外しの可能性は低いと予想しています。

毎日新聞 今日の銘柄 ツムラ(4540) 医療用漢方製剤が保険適用から外される可能性は低いと予想。(みずほ証券) (2009/11/13)

http://mainichi.jp/life/money/kabu/uptodate/meigara/news/20091113246966.html

●11月20日に、4団体による署名活動が開始

11月20日に、日本東洋医学会、臨床漢方医会、NPO健康推進開発機構、医療志民の会の4団体による署名活動が開始されました。4団体の構成員には、患者さん・ご家族、そして一般市民を含みます。署名は、医療者と市民の共同活動でした。本署名活動と、製薬業界との関連はありません。

日本東洋医学会は会員医療機関に署名用紙を送付し、会員・患者さんに書式署名を呼びかけました。また、署名告知ホームページ(http://kampo.umin.jp/)が4団体によりUMIN(大学医療ネットワーク)に開設され、書式署名(FAX/文書送付)、電子署名が募集開始されました。さらに、署名募集の呼びかけが各種メーリングリスト、blog、各種掲示板、mixiなどのSNSなどで行われました。

尚11月14日に、4団体に先立ち、署名.tvという署名サイトでも署名運動が開始されています。筆者は詳細を知る立場になく、本稿では割愛します。

医療漢方製剤の保険適用維持・拡大を求める署名 (2009/11/14)

http://www.shomei.tv/project-1354.html

●署名募集の認知度が高まる

書式署名募集は、全国の医療機関で精力的に行われました。日本東洋医学会の事務局FAXには、全国から漢方保険継続を望む署名が押し寄せ、常に話し中となったため、FAX回線の増強が行われました。また、代替署名方法として電子署名が推奨されました。
電子署名は当初認知されていませんでしたが、11月26日頃より口コミで話題が広まり、11月27日明け方に爆発的に認知度が高まり、署名サイトの訪問者数は1日5万名を突破、これに伴い署名数も1日2万名に増加しました。各種掲示板、mixiなどのSNS、twitterが決定的な役割を果たしました。これについては、また別稿で考察したいと存じます。

●署名提出までの、報道の時系列推移

漢方保険外し並びに署名運動に関する報道を時系列で述べます。
まず、11月25日に薬事日報、MTProがオンライン版で署名を報道しました。さらに、めざましテレビでも、漢方保険外しの話題が取り上げられました。

【日本東洋医学会など4団体】漢方製剤の「保険外し」反対で署名活動 薬事日報 (2009/11/25)

http://www.yakuji.co.jp/entry17362.html

行政刷新会議の「漢方薬保険外し」に関連団体が異議 MTPro (2009/11/25)

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0911/0911074.html

そして11月27日。週刊金曜日777号63ページ記事に、本問題が掲載されました。そして、明け方からのネット上での盛り上がりを受け、J-CASTニュースは、21:21という深夜に、漢方問題を取り上げました。

医療用漢方薬が保険適用外 価格が3倍以上治療に支障?J-CAST news (2009/11/27 21:21)

http://www.j-cast.com/2009/11/27054955.html

このニュースは、Yahoo!ニュースでも21:25に転載されました。

医療用漢方薬が保険適用外 価格が3倍以上治療に支障?Yahoo!ニュース(2009/11/27 21:25)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091127-00000005-jct-soci

次に11月28日。大手メディアとして初めて、毎日.jpが、富山県の医師の反対運動を初めて取り上げました(これは富山県のものであり、私共の署名活動は報じられていません)。

事業仕分け:漢方薬の保険適用除外、医師や患者が反対運動 毎日.jp(2009/11/28 昼ごろ)

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091128k0000m040158000c.html

薬事日報も、社保審医療保険部会の記事の中で、漢方保険外しを取り上げました。

【社保審医療保険部会】診療報酬改定方針を大筋で合意‐OTC類似薬の保険外しには批判相次ぐ 薬事日報(2009/11/28 昼頃)

http://www.yakuji.co.jp/entry17374.html

そしてついに、22:19、産経ニュースが打って出ます。黒岩祐治教授の寄稿を掲載したのです。

耳を疑った「漢方除外」 国際医療福祉大学大学院教授 黒岩祐治さん寄稿(2009/11/28 22:19)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091128/plc0911282227010-n1.htm

続いて、23:59。日付の変わる直前に、産経ニュースに、下記の見出しが踊りました。

漢方薬保険外に4万人以上の反対署名 厚労省に提出へ(2009/11/28 23:59)

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/091129/biz0911290002000-n1.htm

これらの産経ニュースの記事は、翌11月29日の産経新聞紙面、1、3面を飾りました。大手印刷媒体が初めて漢方外しを大きく取り上げたのです。

長妻昭厚生労働大臣の意見表明は迅速でした。11/29午後には、TBSニュース・産経ニュースが、長妻大臣が漢方外しは難しいと語ったことを報じています。

TBSニュース (2009/11/29 14:19)(リンク切れ)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4295655.html

長妻厚労相が事業仕分けに異議 産経ニュース(2009/11/29 午後)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091129/plc0911291656007-n1.htm

●署名提出後の報道、行政・議員・政党の動き

12月1日に4団体は、厚生労働省外口崇保険局長に、273,636名の署名簿を提出し、陳情を行い、各種メディアで大きく報道されました。署名簿・陳情書は漢方外しを反対する民意を反映しており、大きな陳情の力となりました。
長妻大臣はその後の漢方外し他の報道を受け、仕分け対象の診療報酬など19事業について「評価結果通りの対応は困難だ」とする見解を発表されました。

12月3日に鳩山首相は、長妻大臣を牽制し、「よほどきちんとした理屈をたてなければ、事業仕分けの努力が報われなくなる」と批判されました。

鳩山首相、長妻厚労相の対応批判…事業仕分け(2009/12/3)

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091203-OYT1T00998.htm

さらに厚生労働省は、12月9日に「平成22年度診療報酬改定について」を公表しました。診療報酬は10年ぶりのネットプラス改定を行う必要がある、と明記しています。
医療崩壊を憂う一勤務医として、今後の展開に心から期待しています。
民主党政権下での厚生労働行政には賛否両論ありますが、筆者は、長妻大臣の漢方問題での迅速な意思表明を非常に高く評価しています。長妻大臣は国民の側を向いた政治を行っておられます。さらにいえば、自民党政権時代の舛添陽一大臣も、強力なリーダーシップを発揮され、政治主導の厚生行政を司っておられました。こちらも高い評価がされるべきではないでしょうか。

さて、議員・政党の動きです。議員として、反対の意を最初に表明したのは、民主党の逢坂誠二衆議院議員です。11月28日にtwitterで、「私は、保険適用外とすることに反対です。」とつぶやいておられます。

Twitter逢坂誠二衆議院議員のつぶやき(2009/11/28)

仕分け統括役の枝野幸男議員は、署名提出の当日12月1日、朝のズームイン朝で、個人的意見として、「漢方は保険除外にならない」と語られたそうです(12月8日のCS朝日ニュースター「ニュースの深層」で同様発言あり)。
他の議員で、漢方に関する意見表明を行った議員はおられないと存じます。

政党で、最も早かったのは、公明党です。署名提出前日の11月30日に、坂口副代表が反対の意を示しました。

「漢方は保険外」に怒り殺到 公明党ニュース(2009/12/1)

http://www.komei.or.jp/news/2009/1201/16073.html

そして、マニフェストに漢方推進を謳っていた民主党が遂に動きました。
12月4日、民主党の「適切な医療費を考える民主党議員連盟」は、「医療崩壊を防ぐための緊急提言」を幹事長室に提出したのです。議連には159名の議員が参加しています。

「診療報酬プラス3%を」=民主議連、幹事長に決議文 時事通信 (2009/12/4)

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009120400795

【民主議連】診療報酬「3%以上引き上げ」を緊急提言 薬事日報 (2009/12/4)

http://www.yakuji.co.jp/entry17448.html

適切な医療費を考える議員連盟 「医療崩壊を防ぐための緊急提言」を幹事長室に提出 Vol.4 so-net m3 (2009/12/4) 会員のみ閲覧可

http://www.m3.com/iryoIshin/article/112561/

M3の記事に基づき、詳述します。
提言は、12月3日の議連第4回勉強会で決議され、翌4日に、議連会長の桜井充議員が、小沢一郎幹事長、高嶋良充筆頭副幹事長宛に提出したものです。内容は、

(1)次期診療報酬改定ではネットでプラス3%以上、
(2)「緊急雇用創出事業」の中で、2000億円確保し、医療クラーク10万人分の半年分を手当て、
(3)2009年度厚生労働省予算「医師等人材確保対策の推進事業」488億円を、来年度は総額1000億円に増額、
(4)漢方の保険適用の維持――の4点です。

とくに(4)では、

・民主党は総選挙前の医療政策に、「統合医療の確立ならびに推進」として、「漢方」を明記しました。診療報酬の中味の詳細については今後の重要課題ですが、現在、議論の対象になっている漢方等を除外することなく、今後とも保険の対象とする事を要望します。

と要望書に記載してあります(原文通り)。

幹事長室から内閣に、9日に来年度予算などの政策要求を行うことが予定されていることから、桜井議員は、政策要求の中に上記4項目要望を最重要項目として申し入れしてほしい、としました。

これを受け、民主党役員が動きました。
12月10日の第5回21世紀漢方フォーラムの席で、山根民主党副幹事長は、「民主党として漢方保険継続することを正式決定した。14日の役員会後、政府総理に申し入れ予定である。」と発言されたのです。

漢方薬の保険適応継続、首相に申し入れへ―山根民主党副幹事長 キャリアブレイン(2009/12/10)

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/25565.html

漢方の保険適用 民主党が継続申し入れへ ロハスメディカル(2009/12/11)

http://lohasmedical.jp/news/2009/12/11000019.php

●最後に

以上、これまでの漢方保険外し問題について、報道を時系列に提示しながら述べました。
漢方外しは財務省の長年の意向でした。事業仕分け会議で漢方外しがひと括りに提議され、署名運動開始後、27万名という国民の声がわずか10日間で集まりました。署名・陳情が報道され、報道後、長妻大臣は保険外し反対を迅速に表明しました。厚生労働省vs財務省という構図が明白になりました。
公明党、そして民主党議連議員159名は保険継続を提言されました。そして民主党は、党として漢方保険継続を正式決定しました。
273,636名の署名にご賛同下さった皆様の声は大きく、民主党の漢方保険継続決定の大きな後押しとなりました。
この民意・民主党の正式決定と、事業仕分け会議の結果を天秤にかけ、どのような政治的判断が内閣によって下されるのか、注目していきたいと思います。なお、鳩山首相は、民主党の議員連盟、「統合医療を普及・促進する議員の会」会長を務められておられました。所信表明演説で、「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げられた鳩山首相の英断を期待します。

最後に12月10日開催、第5回21世紀漢方フォーラムでの足立信也政務官のお言葉を引用し、結びとしたいと思います。足立政務官は筑波大学医学部准教授まで務められた優秀な外科医ですが、日本憲政史上、唯一診療・医学教育・研究を極められた政治家として、厚生行政に尽力されておられます。

「財務省は、やはり薬価をもっと下げられるのではないか、つまり5000億以上下げられるのではないか(といっている)。この中に漢方薬とか市販薬類似のものが入っているわけです。
厚生労働省としては、それはあり得ない、もっと統合医療を含めて推進すべきものである、エビデンスを作るべきである、そういっている以上、これ(漢方薬)を外すべきではないと拒否している。
(中略)
財務省は(診療報酬を)3%下げろという。1兆1千億円。5年で1。1兆、年2200億円削減に反対して政権獲得した我々(民主党)が1年1兆1千億円を受け入れられるわけがない。
いま受けられる医療が受けられなくなるかもしれない、その危機に直面して国民の皆さんはどう考えるのか、省庁だけの論争でなく、国民の皆さんがどう考えるのかを考える場としたい。」(括弧内は筆者補足)

漢方薬に限らず、日本の医療は危機に瀕しています。
税金を払っている日本国民の一人一人が、日本の医療をどう考えるのかが今問われているのです。

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