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臨時 vol 395 新型インフルエンザワクチンの安全性に疑問を呈する

医療ガバナンス学会 (2009年12月12日 08:00)


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山形大学医学部附属病院検査部・感染制御部
森兼啓太

2009年12月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


新型インフルエンザの流行はピークを過ぎたとみられる。流行の指標となる定点あたりの医療機関受診患者数も、第49週(11月30日~12月6日)は約32と前の週を約20%下回った。一方、ワクチン接種が粛々と進められている。当初、早期ワクチン接種を求めての混乱も見られたが、現在では概ねワクチン供給が限られていることが理解され、混乱も落ち着いてきているように見える。

ところで、我々はそもそも、このワクチンを接種すべきなのであろうか?

すでに接種経験も豊富である季節性インフルエンザワクチンと異なり、発症阻止や重症化阻止に関する臨床的効果のデータが得られていない本ワクチンの接種要否について、判断材料となるデータは乏しい。さらに考慮すべき要素として、個々の人の年齢や基礎疾患によって罹患しやすさや重症化のリスクが異なることがわかってきている。また、ワクチンというものが100%安全で副反応がない、いわゆるゼロリスクということがありえない。

極めて致死率の低い(日本では0.001%以下)本疾患に対するワクチンにあっては、副反応に関する情報が極めて重要である。しかも、臨床的効果は現在の流行が終息、ないしは次回の流行まで待たないとデータが得られないが、副反応に関する情報は逐次収集可能である。

現在、接種実施主体である医療機関は、接種作業で多忙な合間を縫って逐一副反応に関する情報を厚生労働省に提供しつつある。厚生労働省はそれらの情報を集積し、逐次ウェブサイトにて提供しつつある。ここまでは、情報の透明性という点で安心感のもてる状況である。

しかし、この情報に関する評価はと言えば、とても安心感をもてる状況にはない。厚労省のウェブサイトのデータ1]によれば、10月中旬以降週におよそ100万人程度のペースで接種が進んでいる。副反応の報告数は、週あたり100件~300件程度でほぼ一定している。ところが、死亡報告数が最近急上昇している。10月19日から11月15日までの4週間で11名に対し、11月16日から11月29日までの2週間で46名である。この間の接種者数はそれぞれ約460万回、140万回である。

同資料1]には死亡症例の詳細が述べられている。東京大学医科学研究所の上昌広氏が本メルマガ(MRIC 臨時No. 393)で述べているように、症例は持病のある高齢者にほぼ限定され、健常人が接種後急に体調を崩して死亡するというような症例はなさそうである。では、これらの死亡者はワクチン接種と関係なく、原病の悪化で死亡した、として処理してよいのだろうか?

このような症例を検討し、ワクチンの安全性を審査する『薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会』と『新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会』が11月30日に開かれた。その結論はメディアが報じているように、「ワクチンは安全」である。

しかし、その議論の内容は公開されていない。傍聴記2]によれば、五十嵐隆・東京大学小児科教授は、「高齢者にだけ恐ろしいことが起きる理由を考えないといけない」と懸念を示し、桃井真理子・自治医科大学小児科教授(参考人)も、「これらのデータを見せられて、よいですねと言われても、疫学的に比較検討できるデータもないし、カルテも見てないし、何も言えない」と述べている。

これらの意見が出ているにもかかわらず、座長の松本和則・独協医科大学特任教授と厚労省(事務局)は「では、現段階では新型インフルエンザワクチンと死亡や重篤な例との間に因果関係を認めるものはないという整理でよろしいか」「とりまとめの評価としては前回同様(筆者補足:安全性に問題はない、という意味であろう)で」とまとめようとしている。

この進め方は、筆者も参加したワクチン接種回数に関する厚労省での意見交換会と重なって見える。十分なデータがない中、性急に接種回数を1回に減らそうとする座長と事務局の議事進行は、何らかの意図あり、と感じざるを得なかった。さらに不思議なのは、今回の国内ワクチン接種後死亡例として報告のあった累積64名1]のうち41名が特定のメーカー(化血研)のワクチンであるが、これに関するコメントはどの委員も行っていないようである2]。

新型インフルエンザワクチンの安全性に関する検討は、接種回数の議論、GSK社ワクチンに関するカナダへの調査団の緊急派遣とも重なるが、国産ワクチンは安全、輸入ワクチンには問題有り、という結論ありきでワクチン接種施策を進めていこうという厚労省(と関連する団体や個人)の意図を感じてしまう。

また、ワクチンメーカーの姿勢を示す現状として、GSK社と化血研のウェブサイトを比較してみた。GSKはワクチンに関する懸念が示されるや否や、同社のウェブサイト4]にて情報公開を行っている。一方、化血研のウェブサイト5]には本件に関する情報公開は何も行われていない。

最後に、今回本稿を執筆するにあたり、暗澹たる状況の中に一筋の光明を見いだした。カナダへの厚労省調査団派遣による調査結果が迅速にウェブサイトに公開されたことである3]。ここにはGSK社製ワクチンに関する懸念を払拭する内容が記載されており、調査団の派遣そのものの意義に対する疑問の声も上がってはいるが、積極的かつ迅速な情報公開は今までになかった対応として高く評価できる。

1] http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/houdou/2009/12/dl/infuh1209-02.pdf
2] http://lohasmedical.jp/news/2009/12/05152726.php
3] http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu091210-01.pdf
4] http://glaxosmithkline.co.jp/index.php
5] http://www.kaketsuken.or.jp/medical/med_info.html

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