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臨時vol 406 「財務省の思うがままに進む医療費削減」

医療ガバナンス学会 (2009年12月22日 08:00)


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「医療崩壊の阻止に回す金はない」とはっきり言ったらどうか
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

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2009年12月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


財務省は11月19日、2010年度の診療報酬改定で、総額3%の引き下げを要求することを明らかにしました。
診療報酬とは、医療機関が保険で患者を診療した時に、対価として受け取る報酬のことです。診療内容によって点数が定められており、「1点=10円」で計算されています。
財務省の方針に対して、個人的には「裏切られた」と嘆くよりも、諦めの境地に近いものがあります。
総選挙時の民主党のマニフェストには、「累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車をかけました。総医療費対GDP(国内総生産) 比を経済協力開発機構(OECD)加盟国平均まで今後引き上げていきます」と記載されていました。
つまり、米国のGDP比16%はさすがに極端だとしても、高い高齢化率を加味して、日本の医療費を、現在のGDP比8.0%から11~12%程度まで(40~50%増)今後アップしていくことを打ち出していたのです。
ですから、厳しい財政を考えても、とりあえず1~2割は増額するものだと考えていました。そこへ来て、プラスはおろか「マイナス改訂」という方針が表明されたのです。
官僚の出してくるデータからは見えないもの
社会保障費の削減に関する財務省の常套句はこうです。
「公共事業予算は激減している、その一方、社会保険予算は増加の一途をたどっている。だから社会保障費は減らさざるを得ない」
国民の多くは、「官僚がはじき出した、きちんとしたデータに基づいた発言なのだから、そういうものなのだろう」と考えているようです。もちろん、日本の官僚は優秀ですので、言われたことの大部分はそのまま信じて大丈夫です。
しかし、つい先日の行政刷新会議の事業仕分けでも、「嘱託職員」「参与」「参事」といった、官僚の天下り偽装は、当初提出された資料内には存在しませんでした。追求して議論して、初めて明らかになったのです。
官僚の出してくるデータに間違いがあるはずがない、精査する必要はない、という「官僚無謬論」に捕われずに、突っ込んだ議論と判断をしてほしいと思います。
財務省が言う常套句の裏には、隠されているデータがあります。日本の公共事業費は確かにGDP比9%から半減して、現在は約4%です。しかし、日本以外のG7諸国の公共事業費は、GDP比2~3%です。だから、日本の公共事業費は今だに欧米の倍近くなのです。
かつて、ニューヨークタイムズが、「米国の半分以下の人口と4%の国土面積しかない日本が、米国の年間使用量と同じ分のセメントを使い、公共事業費は米国国防費を上回る」と報道しました。それくらい、今までの日本は突出した額を使っていました。
公共事業費が以前より減っていることは間違いありませんが、もともと諸外国と比べて、とんでもない金額だったのです。その事実が国民に伝えられていないのではないでしょうか。
それを国民が理解した上で、それでも「欧米の倍の公共事業費と、OECD加盟諸国平均を下まわる医療費の格差を是正する必要なし」と思うならば、やむをえません。それが日本という国なのでしょう。
「コンクリートから人へ」の所信表明は何だったのか
財務省が「財源がないから医療に金が出せない」と言うのはもっともらしい理論ですが、増税しなくても、国家予算の配分見直しでできることはたくさんあるはずです。
鳩山首相は「コンクリートから人へ」というスローガンも掲げました。これは、いまだにGDP比4%近くを占める公共事業費などを削減して、医療や介護、教育、福祉などの分野に配分するという意思表明だったと思います。

また、鳩山由紀夫首相は所信表明演説で、「組織や事業の大掃除」として、国家公務員の天下りや「渡り」のあっせんについて、全面的に禁止することを打ち出しました。
55歳で官庁を退職し、天下り、渡りを繰り返した場合、退職金と退職後の給与の合計額は3億円を優に超えるそうです。官僚の天下り給与も、現場で汗を流す医師の給与も、公的資金が含まれているという点では同じです。それらの配分も論じて欲しいものです。
行政刷新会議の仕分け議論を巡っては、日本科学未来館の毛利衛館長が予算を確保するためにフリップを使って一生懸命説明したり、ノーベル賞受賞者たちが一堂に会して科学技術予算の削減に反対する記者会見を開いたりしていました。
予算を使う当事者が、予算の出資者である国民の前に出てきて、予算の必要性を説明するなんて、これまではあり得なかったことです。これからは、必要なものは必要であるとはっきり主張して勝ち取らなければいけないのかもしれません。
「医療崩壊阻止に出せる金はない」?
「歴史に裁かれる」とまで言うと、少しきつい言い方かもしれませんが、偏ったデータを根拠にこれ以上医療費を削減したら、未来は絶対に明るいものにはなりません(前回のコラム http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2179 も参照ください)。
医師としてはっきり言いますが、「医療費を削減してもサービスを維持できる」ということはあり得ません。
皆さんの会社を思い浮かべてください。業績が悪くなれば給料が下がるのは、確かによくあることかもしれません。しかし、大幅に賃金カットされれば、社員のモチベーションに大きく響きますし、何よりも優秀な社員から真っ先に辞めて、いなくなっていくことでしょう。
医療現場でも同じです。大幅に医療費カットされると、良心的に、地道に経営している医療機関から、つまり、従業員の労働基準を守り、真摯に適正な 医療をしている機関から、真っ先に潰れていくことでしょう。その場合、後から復活させようとしても、一度閉鎖した医療機関の再利用はまず不可能です。
医療費のカットは、間違いなく医療サービス低下につながります。もちろん、現在進行している医療崩壊を阻止することなんて不可能でしょう。
まずは医療費全体のリーズナブルな底上げを行った上で、本当に稼ぎすぎているところがあるのならば、配分調整をする。そういう考えにはならないのでしょうか?
「医療崩壊の阻止に出せる金はない」──。財務省の理屈は、まるでそう言っているように思えてならないのです。

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