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Vol.212 マラウイでのNGO保健医療協力の報告(2)

医療ガバナンス学会 (2017年10月17日 06:00)


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長谷島伸親

2017年10月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

前回にNICCOの全体の活動を紹介しました。今回は、マラウイの医療と、この事業で行った巡回診療について述べます。

一番大きな病院は国立のセントラル病院(Central Hospital)で4施設あります。そのうち2つが特に大きく、1,000床前後と推測されリロングウェのKamuzu Central Hospital、ブランタイヤのQueen Elizabeth Central Hospital です。Kamuzu は初代大統領の名前です。マラウイには28の県があり、各県に公立の県病院があります。規模は中央病院と比較すると小さくなります。リロングウェ県病院の病床数は当時265床でした。レントゲン、エコー、オペ室などはありますが、故障により常に使えるとは限らない状態でした。

各県病院の管轄下に、地域に点在し、プライマリケアの役目を果たすヘルスセンターが多数配置されてます。例えばリロングウェ県内には47のヘルスセンターがあります。各ヘルスセンターは分娩のためにベッドを10床程度用意してますが、分娩以外の入院はできません。後で述べますMedical Assistant(MA;医療補助士)が2~3名配属され、ヘルスセンター敷地内の官舎に住み、昼夜、日本の医師と同じような役目を担ってます。多くのヘルスセンターは、マラリアと結核の顕微鏡検査、マラリアとHIVのRDT(Rapid diagnoses test:迅速検査)、尿テステープ検査ができます。ヘルスセンターは疾病予防教育、予防接種、家族計画などの保健衛生事業も行います。その他、大きな市には民間、宗教団体の小規模な病院があります。

日本人が重篤な疾患を罹患した場合、セントラル病院でさえ医療水準が低く、南アフリカの病院の受診を日本大使館は勧めてます。私は4日間、Kamuzuセントラル病院で研修を受けました。マラウイにおいての高次医療に触れられ、マラウイの医療水準を推測する貴重な体験でしたが、日本大使館の南アの病院受診の勧告が理解できました。

マラウイの医師数は、2010年WHO版で人口1,000人対0.019(146ヶ国中143位)とひどい医師不足です(日本は2.297で146ヶ国中55位)。このような状況で医療の担い手として、日本にはない3つの資格があります。さきほど触れましたMAとClinical Officer(準医師)、HSA(Health Surveillance Assistant;保健調査員)です。MAは、設立当初は3年間、2000年からは2年間の研修後、資格を得ることができます。主にヘルスセンターに配属され、診察、処方、簡単な外科的処置ができます。Clinical Officerは4年間の研修後またはMAとして診療後にさらに2年の研修で資格がとれ、手術ができます。ヘルスセンターには配属されず、主に県病院、セントラル病院に配属されます。

HSAは一人当たり1,200人の人口をカバーできるように配置され、保健基礎データの収集、公衆衛生全般に関する調査、疾病予防教育、5歳未満児と妊産婦への予防接種、5歳未満児の成長モニタリング、家族計画の指導が任され、ヘルスセンターと担当の村が活動の場です。さらに3週間のトレーニングで、HIV検査とそのカウンセリングや、5歳児以下の乳幼児の特定の疾患に限定して処方することができます。HSAはプライマリケアで大きな役割が期待されていますが、ワクチン接種などのような具体的な業務以外は、個人の裁量に任されています。知識や技術の不足、モチベーションの低さなど多くの課題があります。NICCOが事業を行っているザピタ地区も4人の保健調査員が活動していました。

私は、どの活動にも多少関わるのですが、主には医療と保健衛生で、MA、HSA、看護師と一緒に活動し、技術や知識の伝達、問題点を探し修正、指導を行うという役目でした。巡回診療には、1日あたり約100人前後受診しました。患者さんは自分自身で保管するノート型のカルテを持参します。そのカルテはどこの医療機関でも使え、既往歴、入院歴、治療経過など知ることができます。持ってない場合は購入を要しそれだけは有料です。受付を済ませると、HSAが行う、保健衛生に関しての、青空教室に参加します。その後、村のボランテアが身長、体重を測定し、HASが血圧と脈拍を測ります。その後MAが行う、チェワ語を使った診察があります。公用語である英語は村ではあまり役に立ちません。検査はマラリアRDT、尿テステープだけ可能です。それらの検査はHSAが行います。診察後、必要なら薬が処方されます。他の部門が忙しくない限り、私はMAの通訳で診察に加わりました。

多い疾患はマラリア、感冒、呼吸器感染症、腸炎などですが、圧倒的に多いのはマラリアで、雨季は、受診者の6割位をマラリアが占め、乾季は3割位に減ります。マラリアは5歳以下の乳幼児、妊婦で重症化、死亡率は高く要注意です。また繰り返し感染することで免疫を獲得すると言われ、留学や海外出張などで流行地から離れていた現地人、流行のない外国から来た人も重症化、死亡のリスクが高くなります。マラリアの症状は発熱、頭痛、筋肉痛、食欲不振など消化器症状、咳、黄疸、貧血、肝脾腫大などですが診断は、症状だけでは難しく、念のための治療、過剰治療になりがちです。薬剤耐性株を生み出さない、医療資源を無駄にしないという観点から、できるだけ検査を行うことが勧められてます。

血液塗抹顕微鏡検査が標準的な検査ですが、設備と検査技師不足で、Paracheck Pfという熱帯熱マラリア原虫抗原蛋白HPR-2 proteinをイムノクロマトグラフィー法により検出するRDTキットが広く使用されてます。マラウイで流行しているマラリアは、ほとんど熱帯熱マラリアで、致死率が最も高いマラリアです。熱帯熱のみ検査できるこのキットは1ドルほどで、多くの種のマラリアを診断できるキットと比較して安価です。三日熱、四日熱、卵形マラリアは比較的致死率が低く、乏しい医療資源からマラウイではParacheck Pfが広く使われてます。指から針で採取した数滴の血液を使用し、はっきりした線が現れれば陽性で、うすく現れれば、Faint band(Fb)と判定します。WHOやマラウイ政府の指針(Guidelines for use of Malaria Rapid Diagnostic Tests in Malawi)( http://smdmalawi.mw/wp-content/uploads/2012/03/Final-malaria-RDT-National-Guidelines-07.09.2011.pdf )に従い、陽性とFbはマラリアと診断し治療します。

診療をとおしFbの出る患者さんは症状が軽い印象で、本当にマラリアなのかという疑問が生じました。タンザニアから、Fbは23.71%も出現し、臨床的にマラリア陰性と判断すべきではとの報告がありました。検索しえたParacheck Pfの感度特異度を調べた38報告は、どれもFbの出現率を示していません。陽性に含めたのか、無かったのか不明です。比較的簡単な研究で、マラリア臨床に役立つと考え、Paracheck Pfとマラリア塗抹検査を同時に行い、帰国してからまとめました。Fbの頻度は5.4%で、Fbをマラリア陰性にすると正確度(Accuracy)は改善しました。(BMC Infect Dis. 2017 May 2;17(1):317. The correlation between malaria RDT (Paracheck pf.®) faint test bands and microscopy in the diagnosis of malaria in Malawi.Makuuchi R, et al)Fbに関してのさらなる研究が望まれます。

風土病として、ビルハルツ住血吸虫があります。血尿で受診すると、尿検査を行います。陽性の場合、ビルハルツ住血吸虫症の疑いで、プラジカンテルを処方します。顕微鏡を用いた虫卵検査は、会場に電気がなくできませんでした。ビルハルツ住血吸虫を繰り返し感染すると、膀胱癌の発癌リスクが高くなります。それ故、症状が続くなどあれば、県立病院以上の高次の施設に紹介します。
呼吸器疾患は、マラリアの症状に咳があること、結核とAIDSの高流行地であることに注意すれば、レントゲン設備を有しない日本の診療所と大差ないと思いました。

下痢や嘔気、嘔吐、腹痛などの腹部症状で受診すると、熱があればやはり、マラリア検査をします。腹部症状を伴うマラリアは多いです。慢性の腹部違和感などの症状で、駆虫剤を処方するときもあります。便検査は、ヘルスセンターでも行えません。ザピタの住民から約40人分の便を集め、チテゼヘルスセンターの検査技師と研修を兼ねて、顕微鏡便虫卵検査(加藤-Katz法)を行いました。正確な結果は紛失しましたが7~8人に回虫、鉤虫、鞭虫が検出されました。ヘルスセンターで便虫卵検査を常時行うまでの知識、技術の習得には達せず課題が残りました。

皮膚疾患は、子供たちの頭部白癬症は多く、ゲンチアナ紫やクロトリマゾールクリームを処方します。多くの白癬症は進行していて、抗真菌剤を内服しないと根治には至らないようですが、ヘルスセンターと巡回診療では経費、副作用の問題から抗真菌剤の内服治療は行っていませんでした。
HIVを疑った場合は、ヘルスセンター以上の高次の施設に紹介します。マラウイではHIV検査は原則、先に述べましたHTCの中で行うことになっています。
外傷は、軽症は処置しました。骨折など対応できないものは、県立病院以上の高次施設に我々の車で搬送しました。
生活習慣病に関しては、ほとんど野放しです。これからの課題です。

以上のように、限られた手段で診断し、治療はマラウイ政府のMalawi Standard Treatment Guidelines ( http://apps.who.int/medicinedocs/en/d/Js23103en/ )に沿い行います。巡回診療の薬は、ヘルスセンターで使用しているものに準じて揃えました。参考までに、感染症に対しての薬剤は、内服薬はアーテメーター+ルメファントリン合剤、ST合剤、アモキシリン、エリスロシン、シプロキサシン、プラジカンテル、アベンダゾール、軟膏はクロトリマゾールクリーム、注射剤はベンザシンペニシリン、ゲンタマイシン、キニーネです。残念ながらマラウイではアーテスネートの注射薬は、ヘルスセンターでも使用できませんでした。薬の使用期限が迫ると、ヘルスセンターに寄付します。ヘルスセンターは時々、政府からの薬の配給がなくなり、欠品することがあります。

巡回診療に、重症患者が来院すれば、県病院またはセントラル病院に我々の車で搬送しました。チテゼ ヘルスセンターは車を所有していません。救急搬送用の寝台車を横につけた壊れたオートバイが、雨ざらしで放置されていました。過去にはそれで搬送していたとのことです。紹介搬送の患者さんは、県病院に救急車を要請します。救急車はすぐには来ないことが多く、ひどいと翌日になってしまうとのことでした。個人の車、ミニバスでも、受診できます。

最後に参加の動機ですが、以前からアフリカで仕事したいとの思いがあり、特に医療でなくても良かったのですが、縁あって医療の道に進みました。しかし実現は困難で日々の臨床の連続で時間がたちました。ある事情で長年勤務した市中病院を、定年より5年ほど早く退職することにしました。体力的に最後のチャンスかと具体的なあてもなく、周囲の理解もあり準備を始めました。長年の専門は一般内科から始まり、最終的には呼吸器内科で、結核臨床は経験ありました。HIVは診断以外経験なく、退職前の半年間、国立国際医療研究センターのエイズ治療研究開発センターの入院カンファレンスに出席させてもらいました。また同施設で行う1週間のHIV/AIDSコースを受講しました。

しかしHIV/AIDSや熱帯医学の臨床に対し、自信もわかず、退職の期日が迫っても、医療関係以外を含めてアフリカでの仕事は見つからなく、タイのマヒドン(Mahidol)大学のGraduate Diploma Program in Tropical Medicine & Hygieneで学ぶことにしました。久しぶりの学生生活は年齢を忘れて、いろいろな国から来た同級生と楽しく勉強できました。そして意外なことに、NICCOの職員が、マラウイで計画していたこの事業の求人活動に教室に訪れました。それがきっかけで参加することになりました。
多くの人々に協力してもらい、わずかながらですが、念願のアフリカで仕事もでき、マラリアにも罹らず無事帰国でき、深く感謝しています。

2015.1-現在 騎西クリニック病院 呼吸器内科
2014.2-2014.12 NICCO 医療専門家
2012.10-2014.1 騎西クリニック病院 呼吸器内科
2012.4-2014.9 Mahidol University (Bangkok Thailand) Tropical Medicine and Hygiene 修了
1989.6-2012.3 さいたま赤十字病院 呼吸器内科常勤
1988.5-1989.5 さいたま赤十字病院 レジデント
1986.6-1988.5 さいたま赤十字病院 研修医
1980.4-1986.3 佐賀大学医学部

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