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Vol.211 マラウイでのNGO保健医療協力の報告(1)

医療ガバナンス学会 (2017年10月16日 06:00)


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長谷島伸親

2017年10月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

公益社団法人日本国際民間協力会(Nippon International Cooperation for Community Development:NICCO)( https://kyoto-nicco.org/ )の企画する、“リロングウェ県における村落内総合保険医療支援モデルの構築”という事業に医療専門家として参加しました。その事業は、2012年12月から2014年12月まで東アフリカのマラウイで行われ、活動資金は、市民の皆様からの寄付金と外務省の日本NGO連携無償資金協力から出費されました。
任期は前任の産婦人科医師の後継で2014年2月から事業終了時まででした。
マラウイは、アフリカ大陸の南東部にあり、縦に長く北海道と九州を合わせた位の大きさで(11.8万平方m)、人口は約1,700万、首都はリロングウェ(Lilongwe)、最大の都市は旧首都のブランタイヤ(Blantyre)、公用語はチェワ語と英語、国民の75%がキリスト教徒です。主な産業は、農業でタバコ、コーヒー、紅茶、砂糖などを輸出してます。最貧国の一つです。
NICCOは、京都に本部があり、主に国際協力を行うNGOで、1979 年の設立以来、アジア、中東、アフリカの海外21カ国、国内では東日本大震災被災地と滋賀県で活動を行ってます。

NICCOのマラウイでの活動は、2005年の干ばつによる飢餓の緊急支援で、食料や農作物の種などの配布がスタートでした。その活動を通し、不衛生な環境、生産性の低い農業、医療機関の不足などの問題に直面し、緊急支援終了後、主にエコサントイレの建設に力を入れ活動を続けてきました。エコサントイレは、屎尿分離型の便と尿を分けて収集し、肥料にできるトイレで、衛生改善、土壌の肥沃化、肥料支出の軽減などの利点があります。( https://kyoto-nicco.org/africa/ecosan.html )その他、栄養豊富なモリンガの植林、住血吸虫対策など行ってきました。それらの活動に引き続き、私の参加した事業がリロングウェ県のマリリ(Malili)地区のザピタ(Zapita)村で開始されました。モデル事業とし、政府機関の職員が見学しやすい村が選ばれたそうです。
ザピタはリロングウェ市の中心から南西に30kmほどにあります。事業開始時、約997戸、人口4,494人で、そのうち20%が5才以下でした。首都から近いのですが、電気は、中心のマーケットのみでほとんどの家にありません。水道もなく、乗り合いバスの通る舗装された道路に出るのに10kmあり、一番近い医療施設であるチテゼ(Chiteze)ヘルスセンターまで15km位です。農村でメイズ、タバコが主な生産物です。
この事業のスタッフは、日本人はNICCO職員2名、看護師兼公衆衛生修士1名、医師1名、現地人は看護師1名、栄養士1名、農業専門家1名、建築担当(エコサントイレと井戸)1名、ドライバ-2名の10名でした。多くの活動は、チテゼヘルスセンターと協力して行いましたが、その他、事業内容に合わせ現地人を臨時雇用したりボランテアを集いました。
事業内容を、以下に挙げます。

(1)マラリア対策:蚊帳の給付とその使用法の指導、蚊帳のモニタリングやマラリア一斉調査治療を行いました。村内での委員会や、その他村民の集まる機会や巡回診療の待ち時間で、紙芝居を用いて教育活動を行いました。その内容は、マラリアの症状、感染経路、治療、予防などです。モニタリングは個々の家に、訪問し、蚊帳の使用状態を聞き取りました。蚊帳の張っている部屋を見せてもらえれば、蚊帳の状態、張り方を調べ、改善できるものはその場で指導しました。1例をあげます。村のほとんどの家の壁はレンガを積み上げた構造です。多くの家が、釘をレンガのつなぎ目のコンクリに刺し、それに蚊帳を掛けていました。釘は容易に抜けてしまい、夜中に蚊帳を適当な高さに保つのは難しい状態でした。屋根をのせる桟に紐を結び、紐の下端に小枝を結び、小枝に蚊帳を掛ける方法に修正しました。紐の長さは、蚊帳が理想の高さになるようにします。簡単に理想の高さに張れるようになり評判は良いようでした。

(2)住血吸虫症対策:アフリカでは主にビルハルツ住血吸虫症が流行してます。小学校の訪問時や巡回診療時に紙芝居などで、予防教育をしました。内容は、ビルハルツの生活環、症状、予防対策などです。人の尿から川、湖などの淡水に虫卵が排泄されます。虫卵はある種の貝の中で、セルカリアと呼ばれる幼虫になります。セルカリアは人に主に皮膚から侵入し静脈内に入り成虫となり、膀胱周囲の静脈内に集まり卵を産みます。その卵は尿中に入り込み、人から排泄されます。予防として、川に入らない、川で洗い物をしない、川の水を生で飲まない、川に排尿しない(虫卵を川に入れない。)などです。
マラウイでは数年に1回、小学生全員に尿検査なしでプラジカンテルを配布し内服を勧めてますが、それとは別に、村で一斉尿鮮血検査し、陽性者には、プラジカンテルを処方しました。また巡回診療時、血尿の患者さんにビルハルツ症疑いとして治療しました。このような方法では、誤診が多いと思いますが、頻度が多く、治療がプラジカンテル単回内服と比較的容易で顕微鏡検査のできない流行地では広く行われてます。ヘルスセンターの検査技師に、尿ビルハルツ虫卵顕微鏡検査(濾過法)を指導し、より正確に診断できるようになりました。

(3)母子保健活動:妊産婦、新生児の死亡率の減少を目的に行いました。事業開始時には医療者の介在なしの出産が30%でした。妊婦健診を定期的に行い、ヘルスセンターでの出産を勧めました。その他、母親学級を開催し、妊娠、出産、新生児ケアーの知識の啓発活動を行ったり、村内母子保健員会を設立し、妊産婦登録を始めました。マラウイ政府が行うワクチン事業も、この活動時に行いました。

(4)HIVの感染予防活動:UNAIDSによるとマラウイの2015年の15~49歳のHIV感染率は9.1%です。アフリカ諸国の多くはHTC ( HIV Testing and Counseling )内で、HIV検査を行ってます。HTCをおこなう資格のある検査員がHIV/AIDS一般、予防、検査の方法、陽性となった場合のその後の対応など説明した後、検査を行います。陽性となった時に冷静に対応できるようにカウンセリングし、陰性の場合にも今後のHIV感染の予防教育となります。
ザピタ村でも巡回診療と別の日にプライバシ―を確保した小部屋を教会や集会場内に衝立で作り、HIV検査を行える国の資格をもつHSAを臨時雇用し、HTCを延べ1,151名行い、15名が陽性でした。

(5)安全な水の確保:井戸を計20基作り、以前からあった9基と合わせで計29基となり、井戸管理委員会を作り、井戸周辺の衛生環境改善や井戸の修理を学び、修理に必要な費用を創出するために井戸の隣に井戸の水を利用した畑(ウオーターフロントガーデン)を作り、野菜を栽培し販売する準備をしました。

(6)公衆衛生改善活動:エコサントイレ 計164基をザピタ村に建設。過去のNICCOの活動を含めるとマラウイ全土で私の任期中に1,000基を超え、マラウイの厚生大臣、日本大使などを村に招いて祝賀行事を行いました。

(7)栄養改善活動:マラウイ政府は5歳未満児に対し、ビタミンA剤配布を行っていますが 当時、配布率は10%程度でした。タンパク質、ビタミンA、鉄分を豊富に含むモリンガの植林、モリンガ料理の講習、モリンガビジネスグループを設立しました。モリンガ石鹸の製造販売も始めました。

(8)巡回診療:村の4か所に週に1回、チテゼヘルスセンターとリロングウェ県病院から臨時のスタッフを雇い行いました。日本人医師1名、日本人看護師1名、NICCOスタッフのマラウイ人看護師1名で、村の教会等で、2年間に延べ約10,000人の診療を行ない、主な疾患はマラリアでした。事業終了後は、県病院が引き継いでくれました。

(9)村落内救急搬送体制の導入:市民の皆様からのご寄付により、救急自転車(患者が横になれるリアカー付き)7台、貸付用自転車40台を配備しました。救急自転車管理委員会を設立し、有料で貸出し、自転車の運営、保守を開始しました。

(10)コミュニティセンターの建設:NICCOの自己資金で建設しました。いろいろな委員会の活動の拠点、県病院が引き続き行う巡回診療、母子保健などの開催所などに使用します。日本の外務省の無償援助のコミュニテー菜園も併設しています。

これら10種の活動を同時並行で行い、NICCOが去ったあとも続けられることを目標としました。

以上がこの事業の全体の活動です。次回にマラウイの医療と上記の巡回診療について、少し詳しく紹介します。

2015.1-現在 騎西クリニック病院 呼吸器内科
2014.2-2014.12 NICCO 医療専門家
2012.10-2014.1 騎西クリニック病院 呼吸器内科
2012.4-2014.9 Mahidol University (Bangkok Thailand) Tropical Medicine and Hygiene 修了
1989.6-2012.3 さいたま赤十字病院 呼吸器内科常勤
1988.5-1989.5 さいたま赤十字病院 レジデント
1986.6-1988.5 さいたま赤十字病院 研修医
1980.4-1986.3 佐賀大学医学部

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