医療ガバナンス学会 (2009年12月24日 08:00)
と始めておきながら何ですが、実はこの会議、2回目までは非公開だったので、私がご報告できるのは3回目と4回目だけです。2回だけでも非常に熱く密度の濃い議論が闘わされていました。はじめ2回の議事録も早く公表してほしいものです。さて3回目会合の再現に移りましょう。
仙谷大臣の挨拶からスタートです。
「NCの理事長・役員の人事について、本来的なミッションを果たすためにどのような選任のしかたがあるのか、どのようにすればよいのか。あるいはマネジメントの工夫として執行役員的なものを置くとか、どこにどのようなことが必要なのか、法的に極めて強い理事長の権限をどうするかといった、まさに今日は核心に入っていただくことになるだろう」
次いで、武田俊彦・厚生労働省政策医療課長が、独立行政法人化後の予定キャッシュフロー計算書、予定貸借対照表、運営費交付金の考え方などについて説明しました。この日、サンドバッグ状態になった考え方だけ抜き書きすると
「承継する資産見合いの負債を計上(http://lohasmedical.jp/news/pdf/1208doppoukourounc.pdf)」
「レジデントなどについて、これまで労働条件見合いの処遇をされてなかったものを処置しないといけないのでないか」といったようなことを言っていました。
吉川廣和・DOWAホールディングス会長
「示していただいた5年間の予定貸借対照表や予定キャッシュフロー計算書には、いわゆる経営努力が全く入ってない。こんな数字にどういう意味があるのか」
武田
「それについては今後理事長が決定されてから議論していただかないといけない。現時点で我々がすべきは、経営努力の発射台として、最低限キャッシュフローが回るかどうかの見極めをすること」
吉川
「たいして意味はないということか」
武田
「発射台としての意味」
続いて、民間病院ではガバナンスはどうなっているのかという事例として聖路加国際病院の渡辺明良氏が説明。さらに大久保和孝公認会計士が、志賀櫻弁護士、境田正樹弁護士、伊東賢治公認会計士と4人連名で示した「考え方(http://lohasmedical.jp/news/pdf/1208doppoukangae.pdf)の説明をしました。
主なポイントは
「運営費交付金の算定根拠を示されたけれど、実態としては収支差の穴埋めだったわけだから、だったら最初からその分はあらかじめ減額して会計債務を承継しないという考え方があるのでないか」
「最大の問題が独立行政法人の会計基準にある。そもそも設置主体によって基準が異なるなどというのは世界を見渡しても日本だけ。そこに古参会計士の既得権益があり、私もその権益の中で商売をしてきたけれど、そのこと自体おかしい」
といった言葉に表現されています。
最後に階猛・総務大臣政務官が、所管する独立行政法人通則法について概説。ここまでで約1時間かかって、いよいよ1時間半の議論スタートです。
仙谷
「交付金と一部見合いの承継債務というのは、たとえば9ページ(http://lohasmedical.jp/news/pdf/1208doppoukourougan.pdf)なら、長期借入返済による支出の項目に記載されているこの26億なにがしか」
武田
「大臣ご指摘の通り。その他、業務活動におけるキャッシュフローの中の利息の支払い7億5900万円も」
仙谷
「利率は何%?」
武田
「平均利率。数字は今手元にないが過去の平均利率」
仙谷
「財務活動の方に載っているのは元本分だけか。その他に業務活動で利息を支払う」
武田
「その通り」
仙谷
「長期債務は財務省が承知するかどうかの問題もあるが、途中退席する予定の野田副大臣どうか」
野田佳彦・財務副大臣
「前回まで2回は大串政務官に出てもらってたが、仙谷大臣から『お前出てこないと借金全部棒引きになるぞ』と言われたので、どういうことだろうかと、空気を感じるために来た」
(中略)
大島敦・内閣府副大臣
「大久保さんに聞きたい。長期債務を承継しないという判断で固まっているのか」
大久保
「提案。判断は皆さんにしてほしい」
階
「病院の収支がプラスになるということはあり得る。その範囲で承継するという考え方はないか」
大久保
「厚生労働省の出してきた数字はその考え方だろう。要は、ナショナルセンターに今後どういうことを期待するかにかかっている。国民のために最先端医療を研究するというのなら、その役割を十分果たすために承継しないということもあるのでないか」
志賀
「法律的には、将来キャッシュフローに対するデューデリジェンスをしないで、資産を承継するんだから借財を背負いなさいということに何の根拠もない。最終的にNCに何を期待するのかになる」
仙谷
「単純計算として、長期債務を全額カットすれば、その分の運営費交付金もカットできるということでいいのか。つまり、がんセンターを例にすれば、77億いくらの交付金から借金返済の計34億引いた残りで、NCであることによる不採算な部分とレジデントの処遇改善はできるということになるのか」
大久保
「そういうことになる。あとは、いかにインセンティブを考えるか。病院自身の判断で投資できるスキームにした方がよいだろうということ」
武田
「あまり私が申し上げる立場にないが、交付金には積算根拠があり、それを外して単純に差っぴいてしまうと、たとえば病院のあがりで研究所を内部支援するようなことになってしまう。それから、がんセンターはよいが、たとえば精神神経センターなどは債務自体も少ないので、交付金がきちんとないと運営は難しい」
大久保
「たしかに理論はあるけれど、実態としては今までの国の考え方は差額収支の補てんだった。これでは自律してもしなくても変わらない。債務承継しないのは、裁量の余地を与えるスキームだ」
仙谷
「収支差の補てんにしても、財政投融資の利息収入を計上するために、わざわざ一般会計から運営費交付金をいったん払うというのは、財投会計的にはよいのかもしれないが、世の中的には何をやっとるんだ、このアホたれということになる」
階
「借金のある方が、自律が生まれるということはないか」
大久保
「ものの見方として、何を優先するのか。現在のスキームでは実際問題使途の自由がない。そこに自由を与えて、一方で規律はプロセスを透明化することで、全体として保つ仕組みにできるだろう。たとえ借金したとしても、オーナー企業ではないので、借金を返すために何とかしようという規律は働かない」
境田
「予定表には、将来の投資の必要額が計上されてない。何かしようとすれば借金しないとできない。債務を承継しないと、タダで土地建物を国からもらうのかという話になるが、独立行政法人はそもそも国というか国民の持ち物であり、もらったからといって自分たちで自由に裁量できるような部分はほとんどない」
階
「その問題を捨象するなら、仙谷大臣の仰るように、財投の借金を返すために交付金を出すというのはナンセンスだ。承継させない方がスッキリする」
塩田浩平・京都大学副学長
「国立大学は一足先に独立行政法人になって、やはり財投から借金をしている。もう6年になるが、あと数年、少ないところで数億円、多いところでは数十億円を返済し続けないといけない。このために多くの大学病院では既に黒字に転換しているのに、見かけ上は借金返済のために赤字になっていて、働いている職員のモチベーションも上がりにくいのが現実。できるなら発足時の借金はない方がよい」
正木義博・済生会横浜市東部病院院長補佐
「一般病院の経営者の立場からすると、借金して施設を整備し、その借金を返していくというのは当たり前で、それが日々のモチベーションにつながっている。我々医療法人に近いような形なのに、借金を一切負わないでよいというのが国民の納得を得られるか心配。国際医療センターなどは今ものすごい建物をつくってもらっていて、あれを無償でもらえるのだとしたら、うらやましい限り」
吉川
「大久保先生の意見に全く同じ。むしろ今後どうしても足らなくなった時に厳しい査定を利かすことで健全な自律が生まれる。意味不明のまま過去の借財を背負わすのは、その後の道をグチャグチャにしてしまう」
近藤達也・医薬品医療機器総合機構理事長
「もともと国際医療センターの院長だった身として、日常的に感染症の対応にあたる中で、いつもこれをやると赤字になるというネガティブな話ばかりに足を引っ張られてきた感がある。これでは国民の視点で仕事をできないと思っていた。職員が捨て身になって仕事のできる環境をつくるには、過去の借金は背負わせないでいただきたい」
伊東
「そもそも新理事長が決まっていないのに、巨額の借金を負わすことができるのか」
と、このように新生NCに長期債務を承継させないという意見が優勢のまま議題はレジデントの待遇問題に移って行った。
(つづく)
(この原稿は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に、12月8日付で掲載された記事を一部抜粋し加筆したものです。)