医療ガバナンス学会 (2009年12月24日 06:00)
▽ 新型インフルエンザの真実 ▽
ナビタスクリニック立川 院長
東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門 客員研究員
久住 英二
2009年12月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
このような大混雑の原因は、ワクチンが集団接種用の10mL瓶で製造されたことにあります。通常のワクチンは2人分で1瓶のため、接種を受ける方の都合にあわせて接種できます。ところが大瓶ではそうはいきません。ワクチンは開封後24時間以内に使い切らねばならないため、接種日を決め、小児では1日で最大50人に接種することになったのです。当日体調が優れずキャンセルした場合は、次にいつ接種が受けられるかわからないのです。お子さんのいる家庭の親御さんなら、それがいかに大変かご理解いただけると思います。当然、体調が思わしくないが、無理して接種してしまおうという方もおられると思います。
予約受けつけも大変でした。ワクチンの予約は、受付時間として設定した2時間は電話がなりっぱなしで、4人のスタッフが専従して対応しました。電話はその後も4時間ほど鳴り続けました。予約をおとりいただけなかった方から、多くのクレームが寄せられました。その後も、今後の接種予定に関する問い合わせが絶えません。新型インフル予防接種の混乱によって、医療ユーザーと医療者間での要らぬ不信感が生じていることを、大変残念に感じています。
私は、先を争ってまでワクチン接種を受ける必要はないと感じています。なぜなら、日本での新型インフルエンザ患者の死亡率は約1/10 万人と報告されており、季節性インフルエンザの約50/10万人と比較して、非常に死亡率が低いからです。メディアが死亡者数を かぞえるという報道をするため、「新型インフルエンザは怖い」という誤った印象が植えつけてしまったのでしょう。また、ワクチンは感染予防ではなく重症化予防が目的ですから、ワクチンを打てば会社や学校を休まずに済むというわけでもありません。ですから、いたずらに不安に感じる必要はなく、これまでの冬と同じように過ごしていただければ良いと考えています。
ワクチン接種は、個人の単位ではごく稀な副作用による健康被害の可能性があります。ですが、集団全体でみれば、感染症を減らすことができ、国民の健康を守ることになります。みんなが知らな
い、国民から声が出ないから無策で放置するのではなく、国家が主導して、厚労省の医系技官ではなく、本当の専門家の意見を聴きながら、米国に20年遅れているといわれるワクチン行政を見直すべきだと考えています。
くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。
※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。