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臨時 vol 412 「ナショセン仙谷委員会(その2)」

医療ガバナンス学会 (2009年12月29日 07:00)


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舞台の裏も表も熱かった

ロハス・メディカル発行人 川口恭

2009年12月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ナショナルセンターの独立行政法人化を巡って内閣府で開かれた「独立行政法人ガバナンス検討チーム」会議の模様の再現。話題が財務問題から、レジデントの待遇問題に移ったところからです。

仙谷
「712人のレジデントの労働条件改善というのは、このキャッシュフローの中に入ってるの?」

武田
「今は非常勤扱いなので1日の勤務時間は6時間ということで、年収の平均が360万円と、勤務実態からすると相当低いことになっている。この単価をアップさせる、かなり大幅なアップをさせるという点については交付金で手当てをすることになっていて、既に計算書の収入にも支出にも計上されている」

仙谷
「いくら上がってる? 残業手当まで含めて全部カウントする形になっているのか。医師になって3年か5年経って入ったような人があれだけ働いているのだから、勤務の実態から言えば年収1000万円くらいないとおかしい。そういう額になっているのか」

武田
「なかなか具体的な額は申し上げられないが、360万円をベースに思い切った上乗せをしたけれど、今お話の出たような数字にはならない」

境田
「財団から派遣されているレジデントもいると思う。その処遇改善は、この合計には含まれてない?」

武田
「リサーチレジデントというもので、財団法人がポスドクを一括雇用しており、その人件費は厚生労働科学研究費で手当てされている。レジデントより高い給与体系ではあるが正職員並みではない」

境田
「むしろ補助金が削減されていると聞いている」

武田
「財団が派遣しているのは、がんセンターだけではなく別の仕組みなので、その仕組みは見直さない前提になっている」

土屋了介・国立がんセンター中央病院院長
「財団からの研究費は昨年度は3割カット、今年度は2割カットと半分近くまで減っている。このため財団から派遣されている人数も一時の90人から今は50人になっている」

(中略)
そして話題は再び財務問題に。

大久保
「職員のモチベーションの面から見ても、財投の仕組みで過去の借金を返済させられるのでは、未来のための希望など出てこない。NCに国民は何を期待するのか。国立病院とも当然違うだろう。私は国立病院なら、債務をゼロにしろなどとは言わない」

近藤
「国民の付託を受けて、ある程度戦地に近いところへ行くような仕事をするのだから、感染症などはそういう性格が多分にある。自信を持って堂々とできる環境をつくってあげないと。それでないと多くの国民が助かることにならない。そういう仕組みをこれから作らないといけないし、その場合は特定のどこかというのではなく、オールジャパンで取り組むことが必要で、そのような理事長を選ばないといけない」

大島
「足立さん、いかがか」

足立信也・厚生労働大臣政務官
「財務に関することは、過去の債務を負わせるべきでないとは思う。私が大学を辞めたのが、独立行政法人化の直前だったのだが、昔の国立大学はレジデントや医員はみな非常勤だった。独立行政法人化されると、常勤化されるのだろうか。国立大学の医員の場合は非常勤だから日額1万何千円かの限度額があって、処遇改善にも限界がある。常勤にされる予定なのだろうか、予定として」

仙谷
「あるべき姿として、中途半端な人が存在するのはよくない。任期つきであっても正規職員でないと、たとえば医療事故が起きた時にどうするんだとか副次的な問題が起きてくる。レジデントであっても、よその病院であればピカピカの人が収入の面で非常に苦労しながら苛酷な勤務に耐えているというのは不健全。本来は独立行政法人化したならば、各法人の使命に応じてどう処遇するのかも考え直す必要がある」

土屋
「処遇の点はサラリーだけの問題でない。欧米でもトレーニング期間中は安いけれど、しかし極端に安いのは異常だ。それから管理職として反省しなければならないのは、労務管理をしっかりして来なかった。先ほど6時間勤務という話があったが、実際には皆16時間勤務をしている。ほとんど週末もなしに病院に泊り込んでいて、正月だけ家に帰るような生活だ。

生活環境も整備しないといけない。正規職員になれば、国家公務員なので官舎がある。しかしレジデントには独身寮しかない。既に入ってくる時には3分の1、出ていく時には3分の2が妻帯者だ。そうすると月島とか門前仲町とかで10万円ぐらい出して物件を借りる必要がある。手取りが20万円しかないのに半分飛んで行く。そのために週末の当直アルバイトで辻褄を合わせるか、過去の貯金を取り崩すかしないと暮らしていけない。こういう状況を何とかするには、給与を増やすと同時に2DKくらいの家族寮つくってあげる必要があると思う。そういった自由度が今までは一切なかった。

一方で中央病院なら600床で600億円。正木先生などは羨ましいと仰るかもしれないが、我々からすると随分無駄な設備を作ったな、そのお金があればもっと他にやりたいことがあったのにと日々思いながら働いている。そうして作った借金をこれから返さなければならないのかというのが正直な思いだ。今後できてくる借金を返すのなら皆死に者狂いでやると思うが。

我が国民に新しい医療を提供するのが使命であるならば新規開発こそが最も大切。それを思うからこそ16時間働いても文句が出なかったのだが、我々管理者はそれに甘えてきたことを反省しなければいけない。既に臨床研修制度が始まって以来、大学医局が崩壊しているとはよく言われているが、新規開発の面で韓国・中国に抜かれている。欧米に遅れるどころかアジアですら遅れることになる。日本の企業も開発をアジアの他の国に持っていってしまったら、せっかくの国内の技術の恩恵を国民が受けるのに1年も2年も遅れることになる。そのことが現場で非常に焦りの原因となっている」

(中略)

正木
「がんセンターのホームページを見ると、運営局が一番上に書いてある。これは我々医療機関の感覚にはなじまない。医療を大切にする姿が見えない」

土屋
「序列は、そのホームページの通り。センター内の席次も総長、運営局長、院長の順だ」

大久保
「ガバナンスの問題もぜひ討議をいただきたい」

仙谷
「前回、理事長や役員には医療のプロフェッショナル、ある程度の権威のある人がいいのだという話もあったが」

志賀
「問題の立て方をハッキリさせてほしい。通則法を所与のものとして考えないといけないのか。ガバナンスの考え方からすると、あの通則法はおかしいから法改正しないといかんということになるのだが、しかし4月1日の発足を目前にスタート時点でどう考えるのか。とりあえず通則法の枠内でできることだけやるのか、改正した後でありうべき姿を先取りしてやるのか」

仙谷
「私の行政改革のイメージとしては、独法改革を前向きにするにはガバナンスの問題を避けて通れない。ミッションとガバナンスの釘を打ち込んで今後のお手本になるようなイメージになる。通則法にたとえ違反しても、それが刑事事件にならないのなら、法改正を先取りしたガバナンスを実現している、そういう認識を持ったスタートにできればと思う。もちろん総務省の方で時間があれば、通則法の改正案を通常国会でお願いしたいとは思うのだが」


「私も、今の独法の枠内でガバナンスを整える必要はないと考える。理事長の任命条件にすれば確立できるのでないか」

志賀
「理事長がほとんどの権限を持っていて牽制する機関がないという問題は、そういう機関を作ろうとすると法律が桎梏になっている。法律をギブンのものとする枠内でとりあえずできるにしても、つまる所は法改正しないといかんというのが結論だ」

大久保
「実際、独法の監事というのは実にまじめにやっておられることが多い。民間の監査役などよりよほどまじめ。理事もそう。個々人は一生懸命やっているのに、なぜ国民の納得を得られるようにならないのかと考えると、構造的問題があると言わざるを得ない。現行の法制度には問題がある」
境田
「ここ10年ほど企業のガバナンスは飛躍的に向上した。その理由はひとえに株主代表訴訟。大和銀行の事件で役員が何百億円も賠償を命じられるということがあって、あの判決で言われたのが、内部統制をきちんと確立しているか、やってなければ責任を問われるよということ。それが指針となって、企業のガバナンスが急速に整った。つまり取締役や監査役を引き受けることはリスクを負うんですよ、と。ただし、内部統制をきちんとやっていれば、それでも不祥事を起こす人はいるけれど、それについては責任を負わないでよいということだ。

公益法人でも社員が責任を追及できるようになった。独法にも似た仕組みが必要だろう。というのが企業や公益法人には所有者がいるので、その所有者が責任を追及できる。しかし独法には所有者がいない。誰が責任追及するのかという見極めが必要。ステークホルダーを責任ある人にするような姿が必要だ。しかし、そのようなあるべき姿でやろうとすると法律が壁になる。いくらそのような仕組みを作ったとしても、理事長が採用しないといえばそれまで。通則法改正と同時にガバナンス確立のための仕組みも作り上げたいなという思いでいる」


「改正に異論はない。ただタイミングの問題として4月1日に間に合わない。テクニカルに任命の条件にすればできるんじゃないかということを述べた」

仙谷
「理事長そのものの人間像、理事もそうだが、プロフェッショナルがどれ位の割合いるべきなのか。提案の中には官僚やOBを絶対に入れないという過激なのもあったが」

近藤
「どういう職種から出すべきかという問いに対する関連で、組織図の案を拝見して気になる点を述べたい。病院の中で大きな位置を占める医療職は医師、看護師、薬剤師だ。薬剤師の絶対数は少ないけれど、しかし病院の中で一番大きな問題は薬。しっかりしたポジションが必要かなと思う。

全体的にNCというのは病院と研究所と両方で、日本全体にメッセージを出すような役割を期待されている。その時に一番求められるのはレギュラトリー・サイエンス。社会が何を求めているのか、世界をが何を求めているのかを正確にトップが自覚して折に触れて国民に対して適切に情報発信する必要があるし、厚生労働省に対しても研究のあり方やテーマすら提言しリードできる人、組織が望ましいかなと思う。一つのローカルな組織にとどまるのなら、税金を使って補助する意味はないと思う。端から、世界の最先端を意識すべきだろう。それが抜けていると幽体離脱したのと同じで税金でサポートする意味はない」

境田
「民間の一般の医療機関と違って、難治性のものに特化して優れた臨床研究を行うことが求められると思う。少なくとも理事長には研究を理解する高い識見とリーダーシップを持った人であることが求められる。理事の構成は、医師と関係職で少なくとも過半数を占めるべきだと思う」

筒泉正春・医療法人理事長
「NCの研究機能が我が国全体の中でどういう位置にあるのか。病院のパフォーマンスは国民にも明確に理解できる指標があるけれど、研究そのものを評価する指標が足りない。個別のNCもそうだし、NC全体としてどういうパフォーマンスをめざすのか。各NCの中での最適と国全体での最適と、グループとしてどういうパフォーマンスをめざすのか、厚生労働省が判断して助言することがあってもよいし、理事長も専門分野の人間だけでなく医療全体の専門家でもよいのでないか」

吉川
「企業経営の立場から申し上げる。聖路加が我々と全く同じ方法で経営していることが分かった。それで大変うまくいっている。経営とは、要するに人、モノ、カネ、情報、時間を総合的に管理することだ。必ずしも医者でないといかんとは思わない。私は事務屋で技術のことなどほとんど分からない。私などが分かるような技術では勝負にならない。しかし何とか務まっているのは、それぞれの専門家に権限移譲しているから。その人たちが働きやすいようにマネジメントするだけだ、ここは資源の中で人の側面を強調しない方がよいのでないか」

大久保
「吉川委員に全く同感。我々会計士も偉そうなことを言っていて、では会社を経営できるかと言ったらできない。そういうもの」

筒泉
「医師免許を持っていれば、自分の専門以外の科や職種についてある程度の知識はある。研究についても発言するためには、職種は医師で素晴らしい経営力も持った方というのがいれば、それが最適かなと思う」

志賀
「目を海外に転じると、寄付金を集めるためのカオが理事長の仕事だ。先ほどらい出ている寄付金税制の不備についても是非ご議論いただいて、一つの構造の中で提言していけたら」

境田
「経営のノウハウある人というのは理解できるが、スパコンの討論会に行ってもセンター長が必死に語る、そのことで我々にも思いが伝わってくるというのはある。NCは、技術を守り発展させるのがミッション。そこを分かる人でないと守るべきものを守るという点で務まらないのでないかと思う」

森川富昭・徳島大学病院教授
「理事長がその道に精通していることは大切だと思うが、同時に組織的に弱い、事務系が弱いと経営はうまくいかない。聖路加も事務職員が214人もいる。専門性のある事務職員を増やさないといけないのに、今はむしろ逆行している。それでは、研究においてもマネジメントにおいても、うまくいかないのでないか」

仙谷
「選び方については、注文や提言をするか。公募するか選考委員会をつくるか、選考委員会とするなら、その構成をどうするか、選任の基準を次回以降の議題としたい」

大島
「もし何か意見があれば。ヘッドハンティングするとか、世界中の研究者の中からスクリーニングするとか方法はいろいろある」

塩田
「公募して選考委員会にかけるのがよいと思う。どういう選考委員会かはまた議論が必要だろう。NC一括か。個別につくるか」

近藤
「原則として選考委員会。候補者がいなければ公募でもよいが、基本的には選考委員会が順当でないか」

鈴木寛・文部科学副大臣
「方法論はいろいろあると思う。大切なのは、スペックに達しなかったら、達するまで何度でも選考をやり続けること。日本に一つしかない、世界にも日本人のためというものは一つしかない、そういう組織を託すのだから、それだけの任に耐える人に出会うまでやり続けるべきだ。米国でも大統領が代わると、何カ月もポストが空いているということはよくある。準備不足のまま時間がないからと、そのままスタートするのは厳に慎まなければならない。

NCのミッションは、難治性疾患、難病の現在、将来の患者さんに対する治療法の提供。ただ単に研究というフワフワした言葉だと色々なものが含まれてしまう。その研究がミッションに合致するのかしっかり認識しリードしていただくような人材を見つけ出す必要がある。
そもそも政権交代して私たち民主党が白紙から独立行政法人をつくろうとしている時に、先ほどらいの議論で聞くに耐えないのは、6時間の勤務が前提の人たちを16時間働かせている、と。厚生労働省所管のセンターなのに、このコンプライアンスは一体どうなっているのか。独法化した翌日の4月2日に労働基準監督署が立ち入り調査して立件するということだっておかしくない。

歴史的経緯が色々あるのだろうとは思うが、少なくとも病院における集団的脱法行為に対して民主党鳩山政権はどうするのかと皆から注目されているのだという自覚は持つ必要がある。新生NCは、労務管理の面でもベンチマーク、お手本にならなけらばならない。将来的にはNCほどはできないけれど、あそこを目指そうと、そういう存在にならなければならない。子供や普通の人に説明できないようなことはしたらいかん。あまり見切り発車はしない方がいい」

この3日後に開かれた最終日の模様は別稿でお伝えします。

(この原稿は、ロハス・メディカルweb http://lohasmedical.jp に、12月8日付で掲載された記事を一部抜粋し加筆したものです。)

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