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臨時 vol 416 「ワクチン行政、予防医療の行く末」

医療ガバナンス学会 (2009年12月29日 08:00)


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森兼啓太
山形大学医学部附属病院 検査部
医学博士2009年12月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


新型インフルエンザの流行は峠を越え、定点あたりの報告患者数はピーク時のほぼ半分になっている。年齢構成に多少の変化がみられるものの、入院率や致死率が大きく変化する事態には至っていない。ワクチン接種に関する混乱も一時ほど顕著には見られず、そろそろ今回の新型インフルエンザ騒動の総括をする時期にさしかかっている。

折しも、厚生科学審議会感染症分科会に「予防接種部会」が設置され、12月25日に第1回会議が開催された。

厚労省ウェブサイトの厚生科学審議会のページには、同会議の開催案内のみが掲載されている。部会のメンバーや議事録は公開されていない。筆者は傍聴もしていないので、伝聞情報1]などに基づいた記述にならざるを得ないが、ご了承頂きたい。

冒頭、足立信也政務官「まずは第一段階として、新型インフルエンザのワクチンを予防接種法の中でどう位置付けるかを議論していただきたい。その後に、特措法の審議などの際に浮かび上がった諸問題について議論し、ワクチン行政、予防医療を推進していきたい。そのためには、国民的議論が必要」と挨拶している。

この発言が足立政務官自身の考えによるものか、あるいは厚労省としての組織の考え方を述べているのかは不明であるが、そもそも日本のワクチン行政が欧米諸国に大きく遅れを取り、様々な問題点を抱えているのは周知の事実である。新型インフルエンザワクチンにまつわる種々の問題も、その上に立脚する1つの現象に過ぎない。

当初、新型インフルエンザワクチンが足りないと大騒ぎになった。今ではあまり騒がれなくなり、むしろワクチンが余る方が心配されている(実際欧州では余ったワクチンをどう処理するか検討されはじめている)が、この騒ぎの根底にある問題は、国内にワクチン製造会社が4社もあるのに、いずれも中小の、企業体力の弱い会社であるため、大幅な設備増強や一時的な増産体制が組めないことにある。

新型インフルエンザワクチンのように、備蓄がきかず、短期間で大量に生産する必要のあるワクチンを生産する能力をワクチンメーカーが持つためには、大量の国費を注入して潜在的増産能力を維持させるか、普段から他のワクチン接種を活性化させることによって生産能力を維持させ、新型インフルエンザ発生時にその能力を短期的に新型インフルエンザに振り向けるといった方策を採る必要がある。

生産能力や普段のワクチン消費量の根底には、足立政務官がのちに指摘している、予防接種法の対象をどこまで拡大(縮小)するか、ワクチン接種により健康被害が生じた場合の対応、接種費用の負担、ワクチンに関する評価・検討組織、ワクチンの確保など、様々な問題がある。

これらは有機的に結合しており、1つだけを取り出しても議論にならない。その意味で、本審議会は感染症を所轄する健康局とワクチンの製剤としての所轄にあたる医薬食品局のレベルで行なわれているが、様々な局を巻き込んで議論すべき問題である。例えば費用負担や副反応時の接種実施者(医師)の責任などに関する議論がこの2局でできるはずがない。さらに言えば、新型インフルエンザ対策は本来内閣府の危機管理部門の担当であり、あまりに低いレベルでの話し合いと言わざるを得ない。

このままでは、必要最小限の法改正を来年の国会で通過させ、それでおしまい、あとは継続的に議論して下さい、という流れになり、方向性の定まらない本部会の会議が何度も開かれて会議費用としての国費と関係者の時間が浪費されることになるであろう。

いみじくも、宮崎千明・福岡市立西部療育センター長が、「こうした問題はこれまで何度も議論してきたこと。それでも進まなかった。過去20年間、ワクチン行政が動かなかったことを国はどう総括しているのか」と発言している。

アメリカCDCのワクチンプログラム部門に在籍し、ACIP(アメリカにおけるワクチン接種のあり方に関する諮問機関)の事情にも明るい筆者の友人は、新規ワクチンを幅広く国民に(あるいは特定の年齢集団に)推奨するためには、(1)一定の条件をみたす接種後副反応に対する因果関係の検討なき一律救済 (2)そのための救済基金を税金ではなくワクチンの販売収益から積み上げる(3)副反応の対策に学会や専門家が厚労省の立場に立って相談にのる(4)新規ワクチンの定期化のための財源についても学会や専門家が政治に働きかける ことが必要であろうとしている。

過去20年間は、国も学会も専門家も、これらの事項から目をそむけてきたのではないだろうか。特に、因果関係の不明な事象を、事象個人に対する感情論から安易に因果関係ありと認定し、その結果そのワクチンが接種推奨から外れていった(日本脳炎がその好例)過去を踏まえると、事態がそう簡単に動くとはとても思えない。今回の新型インフルエンザワクチンに関して、海外メーカーが求めてきた無過失補償(=上記(1)に相当)に関しても、厚労省内あるいは新型インフルエンザ対策の部会で議論された形跡はみられず、できません、の一点張りであったと感じる。結果的に、裁判(過失認定)によるメーカーに命じられた補償を国が肩代わりする形となったのは周知の事実である。

上田博三・厚労省健康局長は、「私自身、20年以上前から、この問題を担当してきた。(中略)今回は十分に議論して、不退転の気持ちで臨みたい。」と発言している。意気込みが感じられるのは大変良いことであるが、そうならば、来年の予防接種法改正というような近視眼的目標に向けて進むのではなく、数年かけて専門家と膝を交えて議論していくような道筋をつけるべきではないか。さらに、「健康局長」として不退転の気持ちがあるなら、まずは自身が陣頭指揮を取った2009年春からの新型インフルエンザ対策の総括を行ない、有益無害であった機内検疫や国内集団発生の検知を遅らせた硬直的な検査・サーベイランス体制を二度と繰り返さないことを明言されてからにしてはいかがだろうか。

1] 予防接種法の抜本的改正なるか、厚労省で議論開始:http://www.m3.com/iryoIshin/article/113748/

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