医療ガバナンス学会 (2017年11月27日 15:00)
http://plaza.umin.ac.jp/expres/genba/symposium12.html
*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。
(参加申込宛先: genbasympo2017@gmail.com)
2017年11月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2017年12月3日(日曜日)
【session_09】臨床研究2 16:00-17:00
●市井から国際的な医学誌に発表する
谷本哲也
2012年から有志の参加者と共に、診療業務が終わった22時過ぎから夜中まで週1回の勉強会を継続的に行っている。
症例報告や臨床研究、医学論文等に関する論評等、お互いに知恵を出し合って英語で原稿を執筆し、海外の医学誌を中心に投稿し掲載を目指すという取り組みだ。必ずしも専門領域のみに拘泥はせず、年齢層も様々な中で、内科・外科や小児科・産婦人科、学生や看護師、さらには中国、ネパールやフィリピンなど海外の参加者も迎え、枠にとらわれず幅広い共同作業が出来るよう心掛けている。
市井の診療現場に勤務する一介の内科医の身で、時間も能力も研究費も非常に限られている中での活動だが、細々ながら4年、5年と続けるうちに成果らしきものも少しずつ発表できるようになってきた。
米国の文献検索サイトPubMedで私が直接関わった英文誌掲載件数を年次推移で見てみると、2012年13件、2013年12件、2014年6件、2015年9件、2016年22件、2017年(10月25日現在)31件となっており、停滞期を乗り越え近年では生産性が向上する傾向にある。
無論、ただ数が増えればいいという訳でもなく、今後は質の向上も模索して行きたいと考えている。
私の立場でこのような活動をして何になるというお叱りを受けることもあるが、世俗的な利益に直結しなくても人的資本や社会関係資本の形成には有用だろうと考えている。この強会が続いているのも、やる気と才能溢れる参加者の方々の御陰であり、私自身も勉強させてもらう場として大変感謝している。
先日、宮崎駿先生を取材したドキュメンタリー番組を視聴する機会があった。
引退するような年齢になっても、先端技術を駆使する20代の若者と一緒の土俵に立って共に仕事に取り組む姿勢に多いに触発された。図らずも杜甫の春望を意識する年齢と容貌になったが、同郷の水木しげる先生が93歳で亡くなる最晩年まで作品を発表されたように、今後の30年、40年を目指して活動を続けて行くことを目標にしている。
●若手医師におくる臨床研究のすすめ
津田健司
私は卒後8年目の内科医だ。普通の医師の拙い考えを臆面なく開陳することで、後輩達が臨床研究の一歩をふみだせるようにと願い、本稿を寄稿する。
さて、臨床研究といって何を想像するだろうか。多くの方が想像するのは新薬の無作為化比較試験ではないだろうか。統計学を駆使した大規模データの解析研究を思い浮かべる人いるだろう。
最も読まれている臨床医学誌であるNew EnglandJournal of Medicineには、毎週のように新薬の臨床試験の結果が並ぶ。しかしながらこの様な研究をいきなり初学者が行うのは困難だ。とはいえ、私のような地方の普通の医者にも発想次第でチャンスはある。
例えば2017年3月11日号のLancetには、たった55人の患者を1/4量の降圧剤の4種合剤とプラセボに割り付けた臨床試験の結果が報告された。とてもユニークな研究だ。
手前味噌だが、私たちが行った子宮頸がんワクチンに関する新聞報道調査結果は米国感染症学会誌に掲載された。報道の内容を医師二人で評価し、キーワードの推移と共にグラフで示した。大規模な臨床試験でもなく高度な統計処理もしていない研究が、感染症界のトップジャーナルにアクセプトされたことは驚きだった。運とタイミングが大きかっただろう。しかし日本で起こっているユニークな問題に世界が困惑し、注目していた。
ユニークな着眼点は自分の中だけから生まれるわけではない。全く違う領域の人たちとのコミュニケーションが大切だと思っている。「谷本勉強会」では診療が終わった午後10時過ぎから医師、看護師、学生が集まり始め、丁々発止と議論し刺激を与えあっている。
最後に医師個人のキャリアパスにとっての論文を書くことの意義は何か。論理的思考を涵養することに加えて、目に見える形で個人のクレジットになることだと思う。新専門医制度や膨れ上がる医療費など先行きの見えない医療界で、どんな状況でもやっていけるようになるには実力をつけるしかない。仲間はいつでも募集中だ。
●本当に役に立つ「研究」とは何か?
高橋謙造
医学部に入ると、まず受ける洗礼が、大学教員からの論文業績自慢である。何本の論文を、どんな雑誌に載せたか、どれだけのImpact Factorを稼いだかが、自慢げに教授たちの口から語られた。
私の出身大学では、基礎から臨床まで、揃ってほぼ同じような内容の研究が行われていた。研究室で、喜々として試験管を振る先輩医師たちをみて、「まるで、ブロイラーの養殖場のようだ。」と感じていたことを思い出す。彼らの多くは、その研究が何の役にたつのかが明確に説明できなかった。私はその状況に常に違和感を感じつつ小児科医師として育ち、研究には目を背けて臨床に従事した。
しかし、現場に関わり続ける過程で、自分の経験や疑問を裏打ちしてくれる研究が意外に少ないことに気づいた。麻疹ワクチン接種を徹底したら、医療経済的に効果が高いのか?といった素朴な疑問への回答が、特に日本というセッティングでは出ていないことに気づいた。
自分の経験をきちんとデータにまとめて発信したら、役に立つのでは?との思いだけでデータを集め続けた結果、関心を持ってくれる共同研究者が集まり、それを成果とすることが出来た。日本からの発信は日本語が多いため、英語での発信は注目を集めるという学びも得た。
その後、自分の思いのままに国際保健、公衆衛生の道に進んだ。途上国ラオスに研究で関わるようになり、現地の人々を育てながらの研究にやりがいを感じるようになった。そして、現場に直接役立つ研究したいと思うようになった。ここにおいても複雑な研究が珍重される傾向にあるが、一体その何割が理解され、現場に応用されているのか疑問である。シンプルで応用可能な結論が評価されない。そこにアカデミズムの限界を感じる。本当に現場に役立つ研究に取り組まねばならない。
●内視鏡AIでがんの見落としゼロ社会を
多田智裕
2017年9月1日私は、“日本内視鏡専門医の英知を集めた人工知能を開発し、世界の内視鏡医療発展に貢献する” ことを目標とした医療スタートアップAI MedicalService Inc.を登記、10月より、神楽坂にオフィスを開設し、内視鏡画像人工知能診断支援システム開発を行っています。
胃がん検診が、バリウム検査から胃内視鏡検査に置きかわるにつれて、胃内視鏡検査の2次読影業務(撮影された画像に胃がんが写っていないかダブルチェックする作業)の枚数が増大して自分を含む現場の医師が疲弊していました。
また、ダブルチェックを行っても、胃ガンは慢性胃炎の中から発見診断しなければならないため10年1万件の経験を持つ専門医にとっても難しく、ガンの見逃しがしばしば起きるのも現場の悩みでした。
そんな時に、松尾豊東大教授の、“人口知能(AI)の画像認識能力は人間を上回った” との講演を聞いて、“これなら現場の苦しみを解決できる!” と思い、私共は昨年12月より人工知能を用いた内視鏡画像診断支援研究を開始しました。
胃がんの原因であるピロリ菌がいるかいないかを、人工知能が人間医師の平均よりも高い精度で診断できたという内容の研究結果は、Lancet姉妹紙、Ebiomedicineに今年10月掲載されました。
胃がんの拾い上げ診断も95%を上回る精度で達成できています。また、技術的には動画リアルタイム診断も可能になっています。
車のバックモニターのように、内視鏡検査時に人工知能による診断支援アシスト機能があれば、がんの見落としは減りますし、専門医のいない地方でもがんを根治可能な早期ガンの段階で見することが可能になるはずです。
新会社では、オールジャパン体制のもと、国内トップクラスの内視鏡専門医20名余りが集結し、研究開発活動を続けています。来年度以降の現場での実証実験を経て、実用化可能なレベルに仕上げ、世界の内視鏡医療の発展に貢献します。
●独創的なシーズを世界へ
中村憲正
我が国の大学研究室からは、国際的にも高い評価を受ける優秀な基礎研究成果が数多く輩出されています。
しかし、そこから実際に臨床応用されるに至った研究シーズの数は極めて限られています。近年、臨床への架け橋となるトランスレーショナルリサーチ体制の整により、ようやく臨床研究への移行への道が整ってきました。
しかし、それでも大きな問題が横たわっています。
これは資金の問題です。特に再生医療などのハイリスクな事業化計画は臨床に近づけば近づくほど、安全性試験、品質管理試験、臨床研究の体制作り等で膨大な資金が必要となり、いわゆるDeath Valleyに直面します。これまでそういったところを乗り切るために、私たち大学人あるいはベンチャー企業は文科、厚労、あるいは経産省ベースのGrantに頼っているのが現状です。
この段階で多くの研究が頓挫してしまいます。この厳しい国内での臨床研究の現状において、さらに世界へ治療法を広げるという戦略はまったく違った角度から検討される必要があると思います。
FDA、EMA、そしてPMDAなど各国の審査機関による再生医療等製品の審査基準の国際化への動きはようやく進み出したところです。従って、やはり個別の国をターゲットとした戦略を立てる必要と考えます。臨床研究のための体制作り、資金調達、知財対策等、総合的に対策を練らねばなりません。
本発表では私自身が進めている臨床治験への取り組みを一例に、今後の臨床研究の国際化への展望について論じたいと考えます。