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Vol.267 Conductive Education とリハビリへの可能性

医療ガバナンス学会 (2017年12月28日 06:00)


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杉田貴子

2017年12月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【はじめに】
Conductive Education(コンダクティヴ・エデュケーション)をご存知ですか? 脳性麻痺、パーキンソン、脳卒中経験者など、神経性の運動障害を持つ方々に有効な手法で、一見すると穏やかなグループ・ピラテスといったところでしょうか。 Conductive Education では、Conductor(コンダクター) と呼ばれる人物が、セッションの誘導を行います。オーケストラでConductorといえば指揮者。海外(ニュージーランド)でConductive Education をアシスタントとして体験した私には、その意味がよくわかります。

Conductive Education の日本語訳は、「集団指導療育」とされています。 しかし私は、この日本語訳に疑問を持ちます。Conductive Education は、集団である必要はなく、1対1で行われることもあります。「指導」「療育」というと、未成年者を対象にしたものをイメージされがちですが、実際には高齢者にも効果的な療法です。

読者の方々には、この稿を読み終えるまでに、Conductive Education について、新しい、もしくはさらに深い理解をしていただけることを願い、続きを書きます。
【セッションの概要】
私は、ニュージーランドにあるリハビリテーション施設で、アシスタントとして働いています(それ以外に医療関係の経験はありません。お読みいただく上でお含みおきください)。センターで行うのが、Conductive Education。患者さんは脳と運動機能のつながりに障害のある方々で、脳性麻痺、パーキンソン病、多発性硬化症、脳卒中経験者、脊椎損傷、脳損傷などです。年齢は最少6歳、最高で89歳と、まちまちです。アルツハイマーの患者さんもいます。最少年齢が6歳なのは、5歳以下は別の施設で受け入れるためで、コンダクティヴ・エデュケーション自体は、患者さんの年齢を問いません。コンダクターは、ほとんどがハンガリー出身。ハンガリーにあるPeto Institute という学校が、メインのコンダクター養成校です。
【仰向けセッション】
セッションは計2時間程度。初めの1時間は木製ベッド(+ヨガマット)に仰向けに横たわり、コンダクターの(穏やかな)号令とカウントに従い、手足を動かします(写真01)。号令では、「私は右膝を曲げます、1・2・3・4・5。 I bend my right knee, 1,2,3,4,5.」のように、1人称を使います。患者さんが自分で動かせない部分は、コンダクターやアシスタントが補助します。しかし、この際、患者さんが動きを始めるまで待つのが非常に大切です。また、補助の仕方も、患者さんが(微力であっても)自分の力を最大限感じられるよう、工夫をします。

http://expres.umin.jp/mric/mric_267-1.pdf

例えば、腕を肩の高さで横に広げた位置から動かして、正面で手を組む、という動作。自分で動かせない患者さんの場合は、私たちが、肘関節のすこし片側の部分と、手(親指のあたり)の2カ所で支えて動作を始めます。通常、肘の部分で微力を感じるので、そのタイミングで腕を正面に誘導します。その際、患者さんの腕を軸上に誘導することに注力します。つまり、肩の位置よりも下にならないようにストッパーをかけます。もちろん、それだけは足りない患者さんには、たりない方向への力も加えますが、できるだけ患者さんが自分の力を使うよう、心がけます。(写真02)

http://expres.umin.jp/mric/mric_267-2.pdf

仰向けセッションでの最も多い動きは、膝を曲げ、位置を保持した後、伸ばす、という単純なものですが、これが歩行への訓練に結びつきます。まず、セッションの始め、木製ベットに横たわる際、脚の裏がぴったり壁に着くようにします。そのことで、地面に踏ん張る感覚を、仰向け姿勢で(転倒の危険なく)体験することを意図しています。脚を伸ばした際、無意識ですと、つま先がだらりと内側・外側に向いてしまうものですが、それを意識してつま先を真上に向けるように、患者さん一人一人をチェックし改善を促します。これは、膝を曲げた時の膝の位置でも同じで、軸に沿った正しい位置に保つよう、意識を促します。多くの方は、初めは自分で膝を曲げることもできない状態なのですが、何度も繰り返すうちに、体が動きを覚えるというのでしょうか、まず、号令に対して体が反応するようになり、繰り返すうち、動きがスムーズになり、さらには、力強くなり、軸がぶれなくなります。

仰向けセッションの後は、肋木(というのでしょうか、壁ぞいに設置された木製のはしご)を使って立ち位置でのセッション、椅子に座って上半身のセッション、鉛筆などを使って細かい指先作業のセッションなどが 、患者さんの症状に合わせて行われます。
【肋木セッション】
肋木セッションでは、歩行での脚の動きをイメージしたトレーニングが行われます。肋木に向かって両手で捕まり、肋木の1−2段目に膝をあげる、下ろすなどの動きが繰り返されます。他には、臀部や腰部のストレッチなども取り入れます。体が温まり、立ち位置に慣れたところで、90度向きを変え、肋木に片手でつかまり、同様の足の動きを空中で、脚を前に振る、後ろに振るなども含めて繰り返します。これでバランス感覚が養われるようです。(写真03)

http://expres.umin.jp/mric/mric_267-3.pdf

このセッションで最もよく聞かれるのが「両足は平行、腰幅で開いて」という注意喚起です。ほとんどの方麻痺の患者さんが、左右どちらかに傾きがちですが、繰り返し意識することで重心を正していきます。
【椅子セッション】
椅子セッションでは、歩行準備と呼ばれるものと、腕に注力するもの、この2つが主です。歩行準備では、座った姿勢で足を上げる(脚をのばす)・下ろす、足の裏を地につけた状態から(かかとは接地したまま)つま先を上げる・下ろすなどがあります。つま先運動では、患者さんのかかと部分を支えてあげるたり、さらに膝部分をすこし持ち上げる方向に力を添えてあげることで、動作がやりやすくなります。また、不自然な角度に傾きがちな患者さんには、その方向を正すように手を添えます。

腕の運動では、腕を横に広げる、正面で組む、組手をひっくり返す、という動作が主です。これらは、仰向けセッションでも出てきますが、重力の方向が違うため、仰向けセッションでできたものができなかったり、その逆があったりします。コンダクティブエデュケーションでは、手を組む、ということを重視します。特に片麻痺の患者さんの場合、手を組むことで麻痺側の腕や手をストレッチしたり、刺激を与えたりできます。(写真04)

http://expres.umin.jp/mric/mric_267-3.pdf

【鉛筆セッション、その他】
鉛筆セッションでは、鉛筆は、筆記具以外の役割を果たします。人差し指と親指でつまむー持ち上げるー下ろすー放す、中指と親指でつまむ…、5本の鉛筆を左から右へとひとつづつ移動させる、などです。もちろん筆記具としての役割もあり、ノートにサンプルを真似て同じものを書く、というものです(小学校入学の頃を思い出しますね)。患者さんによっては、平行にできない、枠からはみだす、小さくなりすぎる、などいろいろな傾向がありますが、それを自分の意識でコントロールできるように繰り返し練習します(ノートは、マス目のものを使用)。

この筆記のセッションでおもしろいのが、アルファベットの筆記体を使うということです。単語の初めから終わりまで鉛筆が紙から離れません。パーキンソン病の患者さんなど、手が震える方には有効な書き方です。私は、これを日本に導入する場合に、どうするのが効果的なのか、興味深く考えています。

上で触れたものの他によく使用する小道具として、棒(約50センチ)、ボール(手のひらで握れるサイズと柔らかさ)、ダンベル(0.5kgが主流。それでも重い場合は短い木の棒)などがあります。

以上、セッションの様子を具体的に紹介しました。次に、コンダクティブエデュケーションのコンセプト・定義について、私の感じることをまとめてみたいと思います。
【コンセプト】
コンダクティブエデュケーションの基本は、Neuroplasticity 神経可塑性に則っており、繰り返し動作が基本です。繰り返すことで、神経系に動作を覚えさせる、そういうところから「Education」の単語が使われているのかもしれません。患者さんの歩行動作を観察するとその効果は明らかで、セッションの初めと終わりでは、膝の上がり方に格段の違いが見られます。

セッションに組み入れる動作や号令のトーン/スピードは、患者さんの症状ごとに違います。特にパーキンソン病ではリズミカルに、むしろ軍隊の号令のようにするのが効果的です。また、(例えば膝を曲げるなど)動作を完了するまでにかかる時間も、症状の軽重により違いがあるため、似通った症状の患者さんでグループを作り、適切なスピードでカウントすることが大切です。

コンダクティブエデュケーションでは、ホリスティックな視点からセラピーを行う、とされています。コンダクター養成過程でも、個々の筋肉について語ることは無いと聞きます(しかしもちろん、解剖学的な理解は、患者さんの動きをサポートする上で非常に役立ちます)。各セッションの始めに、グリーティングと言われる時間が持たれ、各々のトピックスを話します。大抵は、先週からの一週間何をしたかの報告です。この時間により、患者さんの感情がほぐれ、その後のセッションをスムーズにします(特に、パーキンソン病ではこの傾向が著しく観察されます)。また、情報を共有することで、セラピストと患者さんの間での信頼関係が深まり、チームワーク(セラピスト&患者さん)がとりやすくなりますし、患者さん同士でも仲間意識が向上し、お互いに励ましあうことはもちろん、クラスメイトに会うことを楽しみにセンターにやってくる患者さんも多くいらっしゃいます。

ところで、患者さんを受け入れるか否かの基準として、「指示を聞いて従うことができる」というものがあります。聴覚障害や失語症など、言葉でのコミュニケーションが不可能な方もいらっしゃいますが、身振り手振りであれ、コミュニケーションすることができれば受け入れます。重度アルツハイマーの患者さんなどには、受け入れをお断りすることもあります。人間は、情報を受け入れ、情報を発信するわけですが、情報の受け入れはできているとの仮定で、発信の過定、それも脳と身体運動の間の綱渡しをコンダクティブエデュケーションではサポートするように感じています。

私は、コンダクティブエデュケーションのConductive 部分の日本語訳として、「導き出す」という意味が強いのではないか、と考えています(オーケストラの指揮者が、演奏者から音を導き出すように)。患者さんの体の中に残っている少しの動きを感じ取り、それを導き出し、さらに促進することがキーになるように感じます。その患者さんの動きは手で感じます。目で見てわからないような微力でも、患者さんの「足を動かそう」という意思は、私たちセラピストの手には感じます。これを感じ、適切なタイミングで補助を加えることで、患者さんが動作を完了するのを手伝うのです。余談ではありますが、この「微力」を感じることは、アシスタントとして働くことの最も大きな喜びです。また、それを伝えた時の患者さんの喜びの表情、リハビリテーションに関わる方なら誰でも経験するのだと思いますが、あんなに美しいものは他にはなかなかありません。
【効果】
次にコンダクティブエデュケーションの効果について、例を挙げたいと思います。

脳卒中の場合、脳卒中後一年程度ですと、毎週のように体の動きが改善されていくのがわかります。歩行ができるようになる、スムーズになる、腕が上がるようになる、左右が対称的になる、などです。センターに通い始めて2−3年で、目立った改善は少なくなるものの、メインテナンスに役立っているようで、一回セッションを休むと、その週は体が痛くて辛かったという報告もよくあります。センターに通ってくる患者さんがよく口にする言葉が「なぜだかわからないけど効くんだよね We don’t know why, but it works」。 なかでもある女性の報告が、非常に興味深いので、共有させてください。

この女性は、40歳台で脳卒中を経験しました。当時彼女はギリシャに住んでいましたが、治療に専念するため母国であるニュージーランドに(一時)帰国しました。病院でのリハビリのあと、退院後、コンダクティブエデュケーションに週1−2回参加しました。やがて生活のめどがたつほどに回復したので、彼女はギリシャに戻りました。ギリシャでもコンダクティブエデュケーションを続けたかったのですが、あいにくこのサービスがありません。しばらくするうちに、彼女は自分の体の変化(悪化)に気づき、コンダクティブエデュケーションを受けるために、ギリシャでの生活を整理し、ニュージーランドに永住帰国することにしました。現在は60歳台、リタイアメント・ビレッジ(高齢者向けの、戸建て住宅の集合エリア。管理団体のサポートが他の集合住宅よりも手厚い)で一人暮らしをなさりつつ、孫の世話やボランティア活動などを楽しんでいらっしゃいます。

他の症例に話を移します。脳性麻痺や幼少期に発症した他の障害・怪我の場合、成長期をいかに乗り切るかが、その後の生活へのカギとなります。小学校入学前には歩行可能だった患者さんも、成長期を経ていくうち、車椅子を余儀なくされるに至る、という例も多いようです。コンダクティブエデュケーションは、脳性麻痺の乳幼児への療法として最も有名ですが、そこで止まらず成長期を通して続けることで、体の可動域・可能性を最大限に保ち、介護者の負担減にもつながります。

パーキンソン病の場合、コンダクティブエデュケーションにより、震えをコントロールすることができるようになったり、立つ・座るの動作がスムーズにできるようになったり、転倒が激減したりするようです。パーキンソン病では、症状が進むと発話が困難になりますが、これを防ぐための発話のセッションもあります。

多発性硬化症やパーキンソン病など退行性の疾患では、「良くなる」ということはありえないはずなのですが、コンダクティブエデュケーションにより、症状の進行を最小限にとどめるのはもちろん、体のコントロールが上手になる、姿勢が改善され体調全般として良くなるなど、患者さんの生活の質は格段に向上します。
【今後】
医療技術が進歩して生命をとりとめることは多くなったものの、後遺症に悩まされたり、身の回りの世話が必要になったり、もしくは、社会的な疎外感や運動不足などから二次的な障害が生じたり、21世紀は、リハビリテーションがさらに重要になる気配があります。そのようななかで、私は、コンダクテュブエデュケーションに大きな可能性を見ます。

日本にもコンダクティブエデュケーションを行う施設はありますが、まだ数や種類も少ないようです。日本で医療に関わるみなさんのさらなる理解によって、コンダクティブエデュケーションへの理解が深まり、近い将来のリハビリテーションをさらに有効にし、患者さんや介護者のよりよい生き方につながれば、と思っております。

私の大きな夢として、15年後を目標に、広い意味でのコンダクティブエデュケーションを日本に広める、ということがあります。賛同される方、ぜひ意見交換しましょう。

kokosugita@gmail.com
私の働くセンターのウェブサイト

http://www.inrf.org.nz

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