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Vol.024 チェコで学ぶ医学生が感じるポピュリズムの波 ~歴史は繰り返すのか~

医療ガバナンス学会 (2018年2月5日 06:00)


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坂本遙

2018年2月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日本で衆議院選挙が行われたのと同じ時期に、私が医学を学んでいるチェコでも総選挙が行われました。事前調査では「チェコのトランプ氏」と呼ばれているバビシュ氏の支持が高いと報道され、今後EUにどのような影響を与えるか懸念されていました。2017年はEU内の様々な国で選挙が行われました。今回はこれらの選挙を通じて感じられる右派ポピュリズムの台頭について述べていきます。

◆チェコの選挙結果
2013年に行われた選挙では、中道左派政党であるチェコ社会民主党(CSSD)が20.5%、バビシュ氏が率いる中道右派・ポピュリズム政党のANOは18.7%の票を得ていました。選挙後、CSSDはANOとキリスト教民主同盟=チェコスロバキア人民党(KDU–CSL)と連立を組み、2017年5月までCSSD党首ソボトカ氏が首相を、バビシュ氏が財務大臣を務めていました。ソボトカ氏とバビシュ氏との間に軋轢が生じた結果、ソボトカ氏が内閣総辞職を表明し今回の選挙に至りました。

2017年10月20日と21日に行われた選挙の結果、ANOは過半数を満たしませんでしたが、約30%の票を得て、200議席中78議席を獲得し第1党となりました。連立交渉が成立した場合バビシュ氏が首相になりますが、主要政党は連立に対して消極的なため再選挙になる可能性もあります。バビシュ氏に対して欧州連合(EU)の補助金をめぐり不正疑惑があることが、他の政党が連立に対して消極的である理由です。第2党は11%の票を得た中道右派・EU懐疑派の市民民主党(ODS)、第3党は10%の票を得た中道派の海賊党(Pirates)になりました。CSSDは7.3%しか票を得られず、第6党まで転落しました。

また、日本人の父とチェコ人の母を持つオカムラ氏が率いる右派で反EU、反イスラムを掲げる直接民主主義の夜明け(SPD)も前回の選挙結果を上回る座席数を確保し第4党の地位を得ました。(200議席中22議席)SPDは反移民、EU懐疑主義、親露でありフランスの極右政党を率いるル・ペン氏との関わりも持つ政党です。オカムラ氏はイスラム教徒を嫌い「モスクの周辺に犬や豚を連れて散歩に行く」「ケバブを食べない、イスラム教徒が運営する店舗を利用しない」といった発言をしています。そして彼は「ムスリムがテロリズムを広げている。イスラムは民族や宗教ではなく悪のイデオロギーである。自分たちだけが正しいと考えているイスラム教こそが女性やイスラム教徒以外への差別を内に含んでいる。」と主張しています。

今後のヨーロッパは大丈夫か不安だと言う私に対してチェコ人の友人からは「移民に反対とはいえ外国人排除の動きは起きないだろうし、EUを抜けるようなことも起きないから大丈夫だと思う。」という返事が返ってきます。私の想像や日本でEUの危機と報じられているのとは異なる反応です。また、バビシュ氏が首相になることに不安がないかチェコ人の友人に尋ねてみたところ「バビシュ氏が第一党をとったことは良い事だとは言えないが、それよりも思想が過激なSPDの台頭のほうが危ないと感じている。」という意見が多かったです。この意見は投票結果とは異なるように感じたので、地域別に獲得数を見てみました。

ANOはポーランドの国境付近のシレジア地方とドイツの国境付近のカルロヴィ・ヴァリ州とウースチー州で多く票を得ていて、PiratesとODSはプラハ付近で票を得ていました。SPDはカルロヴィ・ヴァリ州とウースチー州、チェコの東部一帯を指すモラヴィア地方とシレジア地方での票が多かったです。これらのことから分かったのは、都市部以外の地域でポピュリズムや極右の政党の支持が高い傾向があるということでした。ポピュリズムの台頭による都市部と農村部の分裂は、ニューヨークタイムズによるとイギリス、イタリア、フランス、オーストリア、リトアニアでも起きているそうです。*

歴史面で述べれば、国境付近はドイツやポーランドの侵入の影響を直接受けてきた地域です。特にシレジア地方は炭田を有するため、度々戦争の原因となっていました。このことは、これらの地域に住む人々が保守的な立場をとる要因の一つだと思います。

◆バビシュ氏について
次期チェコ首相と言われているバビシュ氏が「チェコのトランプ氏」と言われる所以は、彼がチェコで二番目に財力がある資産家で実業家であり、ポピュリストであるという共通点を持つからです。移民の受け入れに反対している点もトランプ大統領と同じです。バビシュ氏はEU懐疑主義を掲げユーロ導入や難民受け入れ案へ否定的な姿勢を示しています。

バビシュ氏はチェコスロバキアのブラチスラバ(現スロバキア)出身で、彼の父親は共産党に属する外交官でした。1980年には彼も共産党員になっています。彼は幼少期の一部を海外で過ごし、パリやジェネーブで教育を受けた後スロバキアの大学の経済学部で国際貿易を学びました。大学を卒業後Petrimexというスロバキアの共産主義系の国際貿易会社で働き始め、チェコスロバキアが分離した際にチェコに移住しました。その後チェコで新しく設立されたPetrimexの子会社であるAgrofertで常任取締役を務め、徐々にこの新しい会社で力を持つようになりました。Agrofertは農業・食品・化学関連の会社を買収し、現在ではチェコ、スロバキア、ドイツを中心に230社以上の企業で構成されチェコ国内で4番目に大きい会社となっています。そして2012年5月にバビシュ氏はANO2011を創立しました。ANOは「Akce nespokojených obcanu=不満を抱いた市民の運動」の頭文字に由来しています。またANOはチェコ語では「YES」を表す言葉であり、両方の意味を掛け合わせているようです。

Agrofertはチェコの新聞会社2社に加えテレビ局とラジオ局を所有しているため、バビシュ氏が情報統制をすることも可能だと言う意見があります。そして彼はメディア、経済、セキュリティーに力を持つ実業家なので、そのような人物が政治に関わることに対する懸念の声が一部あがっています。

◆ヴィシェグラード4カ国の現状
チェコは近隣国のハンガリー、ポーランド、スロバキアとヴィシェグラード4カ国(V4)と呼ばれる協力体制を1992年に作っています。** 旧共産国であり、EU内ではあまり力を持たないV4の国々ですが、チェコ以外の3国の現状はどうなのでしょうか。

ハンガリーとポーランドはニュースの中でEU存続に脅威を与える存在として扱われていることが多いです。ハンガリーのオルバン首相はEUに対して強硬な態度をとっていることで有名です。プーチン大統領に近づいていて、ドイツを敵視する発言もしています。ポーランドで2015年10月に行われた選挙では、難民受け入れやEUの強化に難色を示す法と正義(PiS)が単独で過半数を得ています。PiSは難民問題以外にも経済面でEUと衝突しています。外資系企業に対する新税導入をはじめ、国内産業保護に力を入れているからです。

スロバキアでは2016年3月の選挙で、中道左派で難民反対を掲げている方向・社会民主主義党(SMER-SD)が第1党をとりました。第2党の自由と連帯党(SaS)は中道右派でEU懐疑主義です。第4党で8.6%を獲得したスロバキア国民党(SNS)は極右政党であるフランスの国民戦線(マリーヌ・ル・ペン党首)と連携していて、第5党の極右政党の人民党=我らがスロバキア党(LSNS)はネオナチそしてナショナリズムの政党で8%獲得しています。スロバキア人の友人によると、ナチズムでありナショナリズムの政党が力を持つことは避けたいと、右派政党と左派政党が連立を組もうという動きがあるそうです。EU懐疑主義や右派ポピュリズムは台頭してきましたが、ナショナリズムの政党が存在することに対しての危機感はあるようです。

V4の国々を見ていると、2008年の金融危機や難民受け入れ問題の増大がきっかけで、共産主義時代に権力を握っていた人が人々の不満を利用して再び権力を得ようとしているように思えます。

◆反ドイツ・反ソ連
V4の国々は第二次世界大戦中にはドイツに侵略され、大戦後はソ連に支配されていた過去があります。 また、チェコでは1800年頃まで教養人の言語として使われていたのはチェコ語ではなくドイツ語でした。そのためチェコ人はアイデンティティーを守る為に、1900年頃までチェコ語に力を持たせようと苦労していた時代があります。これらの歴史も含めて考えると、これまで力を持つ国々に翻弄されてきたチェコやその他V4の国々は、自国をいかに守っていくかを考えて動く必要がある事が分かります。

V4の各国はEUの難民受け入れ案やユーロ導入に反対しEUに対峙する姿勢をとりつつも、EUを抜けようとは考えていません。(現在V4の中でユーロを導入しているのはスロバキアだけです。)中欧・東欧の国々は自国の存在を守る為にEUという集まりの強さを利用してロシアと上手く付き合うことで、EU内での大国ドイツに対抗し不利な政策を押し付けられないようにしているようにみえます。

一方ロシアは、ドイツへの反発心がきっかけで火がついたEUへの強硬な態度を助長する動きを見せています。親露でEUに対し懐疑的な政党にはロシアが資金援助をしているからです。資金援助先は例えば、フランスの国民戦線、ハンガリーの極右政党ヨッビク、スロバキアのSNSです。このようなロシアがヨーロッパ内での亀裂を助長させようとする動きは、今までの歴史上でも見られてきた事です。

◆西欧の変化
西欧でもポピュリズム・極右の政党の台頭が見られるようになりました。 2017年にはイギリス、オランダなどでも大きな選挙があり、いずれも右派政党や候補者が票を多く獲得しました。他にもEUの中で力を持つフランスで、EU離脱を掲げる国民戦線のル・ペン氏と共和国前進のマクロン氏が5月に決戦投票で戦った事も記憶に新しいです。また、10月15日に行われたオーストリアの総選挙で勝利した国民党は難民受け入れを厳格化する方針を持っています。

難民受け入れ案でリーダー的な役割を務めているドイツでも9月の選挙で709議席中、右派政党のドイツのための選択肢(AfD)が94議席を獲得し、第3党になっています。AfDは2013年のギリシャ経済危機がきっかけで結成され、ドイツのEU離脱を最大の目標とし、移民問題についても反対し強硬な姿勢を取っています。また、AfDはチェコの国境に近いドレスデン付近の東南地域でより票を獲得しています。国境付近や農村部が都市部に比べて右派を支持する傾向はやはりあるようです。

◆目が離せない今後のヨーロッパの動き
経済危機を始め難民問題やブレクジットとトランプ大統領の影響を受け、ヨーロッパ全体にEUへの疑問やポピュリズムの台頭が目立つようになってきました。移民の流入により受ける安全面や経済面の影響に対する国民の不満がもとで進む過激な政党の勢力拡大は、世界大恐慌後のファシストの台頭と似ていると思います。また、EU離脱やユーロ導入への難色の動きは、1929年の世界大恐慌の時のヨーロッパの国々の動きと似ているように思えます。外資系企業に対する新税導入や通貨統合に逆らう動き、ブレクジットをはじめとしたEUへの疑問と自国を守ろうとする動きは、世界大恐慌の際に起きた排他的な動き、例えばブロック経済と考え方は同じなのではないでしょうか。

ブロック経済は世界貿易の減少による失業者の増大、そして社会不安を引き起こしました。また、ブロック経済は大国のアメリカ、植民地を持っていたイギリス・フランスでは成り立ちましたが、植民地を持たなかったドイツ・イタリア・日本などの国では成り立たず、これらの国は軍事に力を入れ周辺国への侵略を行うようになりました。その結果「持てる国」と「持たざる国」の対立が生じ第二次世界大戦が起きました。この歴史の流れを踏まえると、現状はあまり好ましく思えません。イギリスに続いてEU内の大国ドイツやフランスが抜けてしまったり、EUが崩壊したりすれば経済的に苦しむ国が出ます。二度の世界大戦の経験があるのでそのようなことが起きたり大規模な戦争が起きたりするとは思えません。けれども経済の停滞や移民への不満が募る事で現在広がる過激な行動に拍車がかかったり、代理戦争やロシアがヨーロッパに介入していることから再び冷戦が起きたりする可能性があると思います。

EUへの反発感情を持ちつつEUを利用したい弱小国の存在や、EUをリードしてきた国での反EU感情の高まりは今後EUや世界にどのような影響を与えていくのでしょうか。私は将来欧州で働く事も一つの選択肢として考えているので、注意深く今後の動きを見ていきたいです。

*https://www.nytimes.com/2016/12/06/world/europe/europe-poland-populism-rural-voters.html
**http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/europe/v4+1/gaiyo.html(外務省HP)

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