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Vol.033 ねんねトレーニングは子どもの脳に悪影響?

医療ガバナンス学会 (2018年2月19日 06:00)


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医師・子どもの睡眠コンサルタント
森田麻里子

2018年2月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

夜泣きで悩むお母さん・お父さんの中には、ねんねトレーニングという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。「赤ちゃんを泣かせっぱなしにする」というイメージや、トレーニングという言葉の響きから、敬遠されてしまう場合もあります。

ねんねトレーニングとは一体どのようなものなのでしょうか?子どもの成長に悪影響は無いのでしょうか?

ねんねトレーニングは、基本的には子どもが一人で寝られるようにするものです。やり方は様々ですが、大まかには3つの方法に分けられます。1つは、夜に子どもをベッドに寝かせたら、泣いたとしても、翌朝まで全く反応しない方法です。もう一つは、泣いたらあやしに部屋に入るけれど、部屋に入る時間の間隔を徐々に広げていく方法。もう一つは、部屋にいてあやすけれど、徐々に子どもから離れて最終的に部屋を出て行くという方法です。

研究者の中には、ねんねトレーニングに反対する人もいます。主に、愛着理論の研究者たちです。赤ちゃんが何らかの理由で泣いているなら、養育者がそれに反応してあげないといけない、と主張します(1)。しかし、ねんねトレーニングに効果があるという研究はたくさんあっても、悪影響であるという研究はほとんど存在しないのです。

2003年にオーストラリアの研究者が行った研究には、328組のお母さんと赤ちゃんが参加しました。7か月の時点で睡眠に問題を抱えていた赤ちゃんを2グループに分け、一方のみにねんねトレーニングを行ってもらいました。すると、1歳になった時点で睡眠に問題を抱えていた割合は、トレーニングを行っていないグループが55%だったのに対し、トレーニングをしたグループでは39%で、有意に少なくなっていました。また、産後うつ病質問票の点数も、トレーニングをしたグループの方が良いことがわかりました(2)。

ペンシルベニア小児病院のミンデル博士らは、2006年に、ねんねトレーニングについての医学論文をまとめて解析しました。52の研究を調べたところ、49の研究で、ねんねトレーニングは夜泣きや寝つきの悪さの改善に効果があったという結論が出ていました。効果があった割合は、平均で82%です。残り3つの研究では、効果も無かったが、悪影響も無かったという結果になっていました(3)。短期的・中期的には、ねんねトレーニングの効果はかなり強い科学的根拠があると考えて良さそうです。

さらに、2012年には、オーストラリアの研究者たちが、ねんねトレーニングの長期的な影響についての研究を発表しました(4)。7か月の時点で睡眠に問題を抱えていた326人の子どもたちを、ねんねトレーニングを行うグループとそうでないグループにわけ、5年間追跡しました。すると、どちらのグループも問題行動やストレスレベルに差がなかったという結果になりました。長期的にも悪影響はなかったということです。

このように、ねんねトレーニングは科学的に効果が証明された方法であり、医学的にも乳幼児の睡眠問題に対する標準的な治療法とされています(5)。

もちろん、誰だって赤ちゃんを泣かせたいとは思いません。しかし、赤ちゃんを一瞬たりとも泣かせてはいけないなんてことはないのです。例えば、子どもが歯みがきを嫌がって泣くのを恐れて、歯みがきをしない家庭があるでしょうか?短期的に抵抗されたとしても、長期的にその子の人生に役立つ良い習慣を身につけさせてあげることが重要な場合もあるでしょう。子どもの夜泣きや寝つきの悪さは、お母さんお父さんを睡眠不足で悩ませますが、実際には子ども自身も睡眠不足になっていることも多くあります。お子さんにとって何を優先すべきか、考える必要があります。

また、ねんねトレーニングの方法も、泣いても全く反応しない方法ではなく、時々あやしてあげたり、部屋に一緒にいてあげたりする方法が主流になってきています。ねんねトレーニング=長時間泣かせっぱなしにする、というわけではありません。様々なねんねトレーニングの方法があるので、その中から親の育児方針に合うものを選ぶと良いでしょう。

とはいえ、睡眠の改善方法はねんねトレーニングだけではありません。私がおすすめするのは、まず睡眠の土台を整えてあげることです。

赤ちゃんの理想的な就寝時間は19時から20時です。お父さんの帰りを待って夜遅くに寝ていませんか?お父さんと遊ぶのは朝にしてはいかがでしょうか。規則正しい生活リズムをつくり、就寝時のルーティーン(儀式)を毎日同じように行うと、お子さんも寝るための心の準備をすることができます。日中はよく日光を浴びてにぎやかに活動的に、夜は家の中を薄暗くして過ごしましょう。寝る前のテレビやスマホは、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を抑制してしまうので、避けて下さい。

お子さんの寝る環境はどうでしょうか?リビングや台所の音が聞こえてしまう場合は、ホワイトノイズでかき消すことができます。豆電球が明るかったり、エアコンや加湿器のランプがまぶしかったりしませんか?寒かったり、乾燥していたり、逆に暑すぎるのもよくありません。

このような土台が整っていないと、ねんねトレーニングの効果が出なかったり、お子さんの泣きが強くなる可能性があります。逆に、そういったことがすべて整った上でのお子さんの泣きは、習慣を変えることに対する抵抗の泣きなので、心配する必要はありません。

ねんねトレーニングは、効果と安全性が科学的に証明されている方法です。お母さんお父さんが必要だと思った時が、睡眠改善のベストタイミングです。お子さんがぐっすり眠ることは、お子さん自身にとっても、お母さんお父さんにとっても、プラスになります。ぜひ、お子さんの睡眠にも注意を向けてあげて下さい。
1.Blunden SL, Thompson KR, Dawson D. Behavioural sleep treatments and night time crying in infants: challenging the status quo. Sleep Med Rev. 2011;15(5):327-34.
2.Hiscock H, Bayer J, Gold L, Hampton A, Ukoumunne OC, Wake M. Improving infant sleep and maternal mental health: a cluster randomised trial. Arch Dis Child. 2007;92(11):952-8.
3.Mindell JA, Kuhn B, Lewin DS, Meltzer LJ, Sadeh A, American Academy of Sleep M. Behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children. Sleep. 2006;29(10):1263-76.
4.Price AM, Wake M, Ukoumunne OC, Hiscock H. Five-year follow-up of harms and benefits of behavioral infant sleep intervention: randomized trial. Pediatrics. 2012;130(4):643-51.
5.Morgenthaler TI, Owens J, Alessi C, Boehlecke B, Brown TM, Coleman J, Jr., et al. Practice parameters for behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children. Sleep. 2006;29(10):1277-81.

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