医療ガバナンス学会 (2018年2月22日 06:00)
認定NPO法人Future Code
代表理事 大類隼人
2018年2月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●なぜ途上国で活動するのか
元々は呼吸器外科医、救命医として日本で大学病院に勤務をしておりましたが、国内外の災害医療チームメンバーとして活動した経緯から、災害後や貧困地での緊急医療は必要ではありますが、途上国で活動する中で私の気持ちに変化が生まれました。それは自分たちで医療を一定期間提供して帰るのではなく、現地に根付き、持続可能な医療システムの導入と医療人材を育てる活動が重要だと感じ、それに自分の医療人生を賭けたいと思った経緯から、日本では大学病院を退職、外科医を辞め、この法人を2011年の東北震災活動後に立ち上げました。現在3か国3地域(中米:ハイチ、南アジア:バングラデシュ、西アフリカ:ブルキナファソ)の医療支援を続け、今に至ります。
途上国で活動する中では、医療そのものが届いていない地域ではあまりに自分が無力であったことを痛感する事も多々あります。医療環境が元々ない場所では、多少のできることはあったとしても、やはり医療を導入することは、「医療」しか知らない私にはかないませんでした。そこで国際機関をはじめ、様々な団体の活動を見る中で、途上国でのプログラムなどのマネジメントを学ぶ必要を感じ、英国リーズ大学院で途上国での公衆衛生のプログラムやマネジメントを学び、現在もそこで得たものを途上国の現場に取り入れつつ、それぞれの地域に応じて文化や宗教、日本のいい部分の教育なども合わせて様々なプログラムを作り、医療を創り出し、将来にはその地に根付くものとできるようにスタッフと共に活動しています。
もちろん多くの困難はあり、日本では考えられない事態も多々経験しますが、現地のスタッフと共に、宗教も文化も超えてなんとか障壁を乗り越え、人々と共に喜ぶこの瞬間は、何年も同じ現場で活動する中でさえも、毎日新鮮に感じています。
●これからの途上国での医療活動の展望
これまで私たちはハイチでは結核検診や、孤児院への支援、ブルキナファソではマラリア対策や水と衛生の改善などのプログラムを実施しており、それに従事する医療スタッフの育成を行っています。これからも必要がある限り継続していく予定です。
活動の中でも、やはりアジアにあるバングラデシュでは活動している国の中では最もいろいろなプロジェクトを行っており、医療においても首都ダカでは3つの大きな病院に対して看護師を育てるプログラムの実施や、スラムに対しての診療の提供、孤児院医療支援なども日本人の看護師スタッフや現地医療スタッフと共に行っています。
2012年から私たちはバングラデシュで活動を始めていますが、この1億6千万人の人口をもつこの新興国では近年は平均寿命も70歳を超え、結核などの感染症はあるものの慢性疾患の割合も増え、癌などの悪性腫瘍も多く見かけるようになり、今後20年で倍増することも予想されています。都市の発展も目に見えて著しく、大都市では「アラブの春」がそうであったように、この国でもネットへのアクセスも一般市民もある程度は可能となり、なんと4Gの携帯電波もすでに導入されました。
そんな中、近年の日本の途上国との貿易の関係では、2008年では全体の約50%近くが途上国からの輸入であり、約40%が途上国への輸出であります。この割合は年々増加しており、すでにこの日本が経済的にも豊かであるためには、途上国が元気でいてくれなければ成り立たない依存関係にあります。そしてこれは別に日本に限ったことではなく、結局は今の国際社会は、ヒト、モノ、カネが国境を行き来し、国境という概念の意味は一昔前と比べてはるかに小さなものとなっています。
実際、バングラデシュには多くの日本企業がすでに進出されており、2017年の時点で250社を超えており、私たちも病院運営など医療系の企業の皆様とも連携して病院で活動するようなプロジェクトも多くなりました。今までは私たちだけの団体でなんとか医療をより良くしようとしていたものが、運営サイドからも強力なサポートも得ることができ、この数年では大変良い医療現場やスタッフが育ってきていることを実感しています。
しかしながら、近年看護師の数も増加したとはいえ、医療スタッフの数が少なく限られているこの国の問題は、数年で解決できる事ではありません。そして、私が考えるには、確かな医療者の育成に対しては、やはりベッドサイドでの直接の指導と実践こそが不可欠です。
しかしながら、既存の自分自身の概念で、ただ愚直に活動するだけでは解決の糸口は見つけられないため、この状況だからこそ、今までの医療の実践に組み合わせる新たな試みが必要です。
現在は、このバングラデシュに遠隔医療やAIを使用したビッグデータの解析などの技術を導入し、あくまで技術が医療者を補うものとして位置づけ、うまく既存の医療スタッフの仕事と組み合わせて医療をデザインすることが効果を生むのではないかと考えています。
感染症のみならず、定期的な通院が必要な慢性疾患に対しても、日本で想像するような医療の形や発展の仕方ではなかったとしても、この今の段階から医療が届かなかった場所にもアプローチしていくことができれば、遥かに今よりも現地に生きる人々に貢献できるのであれば、それは私たちが目的と一致している事ではないだろうかと思っています。
この企画に関しては、またいくつかの企業の方々とも連携しながら、ある意味互いに可能な部分では「オールジャパンの医療」として進めていければと考えており、団体、個人共に枠に囚われない発想を大切に、そしてまた近い将来に皆様にご報告できる機会をいただけるよう、試行錯誤と努力を重ねていきたいと思います。