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vol 14 高齢者医療制度厚労省素案の危険性

医療ガバナンス学会 (2010年1月20日 08:00)


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済生会宇都宮病院・医療制度研究会
中澤堅次
2010年1月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1月12日日経新聞に高齢者医療制度に関する厚労省素案が公表された。厚労省が出す案はそのまま政府の案とは思いたくないが、厚生労働大臣了承の素案であれば多少問題がある。素案はたたき台だが、75歳を区切りとしていた年令を65歳に下げ、現役世代と分離する。高齢者に応分の負担を求め、企業と勤労世代の負荷を軽減し、財政管理は都道府県にさせるという。後期高齢者医療制度が不評を買った理由は、高齢者を年令で区切り現役世代から分離し、家族単位の保険料徴収を個人単位に切り替え、年金から自動的に天引きすることだった。自民党大敗の原因は医療政策の失敗だが、素案は失敗をそのまま引きずっている。民主党が同じ轍を踏まないように、勤労世代だけに負担を求める保険制度の矛盾と、高齢者医療を保険方式で賄う無理を指摘し、消費税による租税方式の併用でこの危機を乗り切ることを民主党に提言したい。

■ 医療費の増額を国民が望まない理由
今回の改訂に見るように診療報酬のプラス改訂に同意する人は、医療従事者を除きわが国にはいない。経済事情を見れば理由は明快だが、そのほかに国民皆保険による保険方式の制度疲労も考えられる。保険は将来のリスクを考えて自分のためにかけるという自助の色彩が強い。掛け金は将来の危機にそなえる貯金である。払った保険料は運用益を加えて病気になったときにただで掛かれるというのが筋である。健康保険は皆保険となったがゆえに、集められた保険料は医療費として病気の人に使われ、掛けた保険料は老後になっても自分に戻ってくるわけではない。詐欺まがいのシステムの中で負担感ばかりが増幅するからである。

■ 医療費の大半は50歳以上の人たちのために使われる。
素案では若者の負担を軽くするために年令で区切り、高齢者は別立ての保険に加入させる内容だ。医療費の使われ方は世代に無関係と考えがちだが、実際には大部分が50歳以上の病人に使われている。これは高齢者の無駄使いではなく、純粋に寿命の問題で高齢者が病気になるからであり、マンパワーも費用もこの年代に集中される。だれもが理解する病気の年令差だが、素案の通り施行すると大きな矛盾に直面する。

■ 年令で保険を分断すると組合健保が儲け、国民健保が割を食う
素案によると、企業が運用する組合健保は65歳を超えると別の保険に移る。加入者は元気なときに保険料を払い、病気にかかりやすい年代になると保険が変り今までの掛け金は戻ってこない。65歳以後に加入する国民健康保険や高齢者医療保険はリスクの高い人だけを集めて運用するので最初から赤字は免れない。今でも市町村国保は収支が合わなくなるとそのまま加入者の保険料率を上げる構造になっており、組合健保と比較すれば保険料は明らかに国保のほうが高い。75歳以上を65歳以上に繰り下げると前期高齢者といわれた世代がさらに75歳以上の医療費まで抱え込むことになり、地方税から足りない分が補填されなければ制度が成り立たない。

■ 誰も満足しない後期高齢者医療保険制度
組合健保は自分達の社員以外に保険料が使われることは望まず、国民健保は保険料の高騰と滞納者の増加になやみ、自治体は一般会計からの補助金の増加に将来も苦しむことになる。この矛盾を回避するために国は税金から補填を行い、それでも足りない分は分離されている組合健保や国民健保から支援金として徴用することを明分化している。これは砂上の楼閣に耐震工事を施すようなもので、どこかの運輸会社のように組合健保の解散を呼ぶ。企業の立場はもともと自分の社員以外に保険料が流れることに同意する発想は無い。

■ 医師不足で起きる保険の格差
医療は保険料の徴収とは無関係に全国一律の診療報酬で提供されるが、医師不足で医療体制が整わない地方では医療費を使いようが無い。徴収された保険料は、医師が充足している地方に流れ、支給の段階でも地方隔差を生じている。地方の町から自営業が消え、企業体のチェーン店だけになりそれも撤退する。地方崩壊は払ったのに戻ってこない保険制度とあながち無関係ではない。保険による医療介護システムは弱者からも徴収され、満ち足りている人を潤す全く逆の負担構造になっている。

■ 医療保障は国民全部が病気の人を支える消費税が合っている。
医療保障は病気になる人の危機を、余裕のある人が支えることが原則である。病気の人は圧倒的に高齢者が多く、後期高齢者はもっとも病気にかかりやすい。自助を目的にする保険で賄うことは最初から無理である。消費税は経済活動に応じて徴収され、所得の多い高齢者にも、また所得として申告されない資金でも、使う段階で国民の義務を果たすことになる。健康で働く人が保険料を払い、病気になれば世代に関係なく支えを受ける側に回る、消費税は互助の運用に適している。重要なことは、若者も高齢者も等しく負担したお金が平等な医療・介護サービスに変わり、負担する若者も将来は自分に帰ってくると感じながら生きることが出来、支えあいは子孫に受け継がれてゆく。国家の存続に持つ意味は大きい。

■ 医療費増大を若者だけに頼るのは限界
若者に負担を求める保険方式はこれ以上は無理で、高齢者に自助を求めることも無理である。負担できる人がハンデを背負う人を支えるという仕組みに変えるべきである。それでは国が持たないというが、産業の興隆が経済をさえた時代は終わった。膨大な借金をもたらしたのは医療ではない。普通の国に戻るのには国民の危機を国家が支えるという信頼感が必要である。国家の使命は国民の危機に力を発揮することであり、今なすべきは、余裕のある国民が支え、多くの国民に共通する人生の最後を看取ることである。

■ 民主党は国家の継承のために消費税を当て社会保障を確立するべきである。
経済の目的は利益そのものでは無く、利益を産んでその利益によって国民の生活が行われることである。21世紀に経験した経済危機は、国民が人間として一生を終えるためという目的を国家が見失ったからである。人生の最後を看取ることを国民全体で行うことが出来れば、次世代もその恩恵にあずかると実感でき、その連帯は次の世代にも引き継がれることになる。世代を分断することは国家の将来を分断すること、世代間の殺し合いはすでに始まっていることを事実として認めるべきである。
民主党が決めている消費税の導入までの4年間は、短縮して保険と消費税の特質を検討し社会保障を整備する準備期間とするべきである。世界には手本があり、小手先の改革では、わが国はもう前車の轍から抜け出すことが出来ないところに来ていると考えるべきである。

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