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Vol.044 公立病院改革と神奈川県 その2

医療ガバナンス学会 (2018年3月2日 15:00)


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竹林貞吉記念クリニック
永井雅巳

2018年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

長々とした引用を続けたが、ここに指摘された課題は、神奈川県立病院に限ったことではなく、全ての公立病院運営にある。総務省からの報告によると、公立病院改革プランを受け、平成21~25年度に全適へ移行した公立病院は112病院、地方独立法人化した病院は49病院、指定管理者制度を導入した病院は15病院あり、それぞれ経常収支・医業収支比率において一定の効果があったとされているが、これらの経営形態の見直しや職員の真摯な努力にもかかわらず、平成29年度の中医協総会で公表された医療経済実態調査によると、公立病院の損益差額比率は、マイナス13.7%、一般会計からの繰り入れにより、マイナス3.2%となるが、依然、由々しき大きな赤字である。

それでは、どこが問題か。新改革ガイドラインによると、改革を進める上で留意すべきこととして、
a.経営感覚に富む人材の登用及び事務職員の人材開発の強化があげられており、病院事業の経営改革に強い意識を持ち、経営感覚に富む人材を幹部職員に登用(外部からの登用も含む。)すべきである。
b.経営形態として、「全適」を採用する場合にも、全適は比較的取り組みやすい反面、経営の自由度拡大の範囲は、地方独立行政法人化に比べて限定的であり、また、制度運用上、事業管理者の実質的な権限と責任の明確化を図らなければ、民間的経営手法の導入が不徹底に終わる可能性がある。
c.このため、同法の全部適用によって所期の効果が達成されない場合には、地方独立行政法人化など、更なる経営形態の見直しに向け直ちに取り組むことが適当である、と記されている。

非公務員型の地方独立行政法人化は、“地方公共団体と別の法人格を有する経営主体に経営が委ねられることにより、地方公共団体が直営で事業を実施する場合に比べ、例えば予算・財務・契約、職員定数・人事などの面でより自律的・弾力的な経営が可能となり、権限と責任の明確化に資することが期待される。ただし、この場合、設立団体からの職員派遣は段階的に縮減を図る等、実質的な自律性の確保に配慮することが適当である。”と記されている(下線;筆者注)。すなわち、経営形態を変えても、実行する人が改革への意欲を持たないままでは、改革は困難であるとも読み取れる。

繰り返すが、今回の神奈川県立病院機構におこった問題点の解釈については、先に掲載された井上清成弁護士によるリポート(MRIC Vol. 030)が的確かつ本質的なものと考える。例え、改革方針が示されたのが、前知事の時であっても、一度組織決定されたことは、法令順守の上、粛々と進めなければならない。それが、議会制民主主義のルールである。

それでは、理事長が進めようとした運営方針は解任に相当するほど不適切であったものか、否か。地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事会議事録がHPで公開されている。これも長くなるが、因みに、平成29年度第3回議事録に記された理事長の指示事項を引用する。
理事長指示:
1)コンピュータウィルスに注意願いたい。ウィルス対策は業者まかせにせず各病院でも慎重に対応願いたい。
2)こども医療センターが5年連続黒字につき、6月の全国自治体病院協議会総会で表彰されることとなった。
3)職場のハラスメントは勤続年数の長い職員がいる職場で発生する傾向がある。互換性のある職場では一定の期間での異動が必要と考える。人事部と相談していきたい。
4) 厚生労働大臣の諮問機関「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」では先進的な意見が述べられている。現場で取り入れるのは難しいが参考にしてほしい。
5)日本専門医機構の専門医制度は各方面から問題点を指摘されている。特に自治体から大学病院中心のプログラム制に対し批判的な意見が出ている。
6)超過勤務に関する労働基準監督署対策は自治体病院協議会でも話題になっている。
7)業績が伸び悩んでいる。昨年は大幅な赤字であり4月実績も赤字であるが、医療職の超過勤務が多くなっているので対策が必要である。
8)看護師を始めとする各職種の募集を行っているが、昨年より応募者が遥かに増えている。よい兆候である。
9)がんセンターと二俣川駅間で連絡バスの運行が始まった。明らかに患者とわかる利用者に対しては臨機応変な対応をするよう、大川病院長よりバス運行者へ指導願いたい。
10)優秀な職員を確保するため教育制度の充実を求める。作業療法士、理学療法士、言語聴覚士においては新卒の採用が多いので、薬剤師レジデント制度のように5病院をローテーションすることで、多様な分野に精通した職員を育成できるよう検討したい。
11)研修医は横浜市大にお願いしても十分な人数が確保できないため、全国規模で募集する必要がある。先日、自治医科大学神奈川県人会に参加した。参加者は地域医療に貢献しようという意識が高かった。我々のような専門病院は、基幹病院まで距離のある地の県内開業医を支えていかなければならないので、5病院を利用した総合医、家庭医のレジデントコースも考えていく必要がある。この4月から県内4医科大学が持っている地域枠から3名が後期研修に入る。来年は約20名の予定で、その多くが地域医療への貢献を希望している。受皿を整備して差し上げたい。来週に県の地域医療支援センターの運営委員会が開催されるので協力体制を相談するつもりである。
12)日本医療マネジメント学会では医療事務作業補助者の指導者養成、医療福祉連携講座等の多様な講習会が開催されている。参加費は高額であるが参加する価値はあると見る。ふさわしい人材がいたら機構で費用負担し送り出すことも一案である。
13)赤字ではあるが職員数の不足は事故につながるので人員補充が先決である。効率よく行い、採算性を確保するかという考え方が妥当ではないか。民間手法をまねて診療報酬だけで黒字経営することが目標である。
14)人事部でシフト勤務を検討している。看護は早出・遅出で勤務が途切れないようになっているが、事務系にも導入して昼休み(正午から13 時)でも職員在席となり、訪問者に対し不自由がない体制としたい。
15)不採算が原因で機構が潰れてしまうと約2,500名の職員及びその家族が路頭に迷うことになる。理事会構成員は持続可能な組織の維持が責務である。財務面でも強い組織としていきたい。

以上、個人的な見解であるが、その指示事項は、細かな点から将来への在り方にも及ぶが、理事長が5病院の現場を丹念に回られ、そこで業務に真摯に取り組む県職員を誇りに思い、そのために働きがいのある職場創りに真摯に取り組み、大切な教育分野にも心血を注がれ、なおかつ地域住民に望まれる病院事業を永続的に継続させるために(Going concern)、並々ならぬ覚悟を持って、取り組んでいる様子が伺えるように思える。果たして、他の運営責任を有する病院幹部はどうだろうか。副知事や県庁からの出向事務職は、定年や異動まで、長くても数年程度だろうから、時間を要する病院改革へのインセンティブはなかなか働かないであろう。古い体質に浸ったベテランの病院幹部・専門職には理解困難だろう。この事情も理解できないではないが、果たして、開設者としての知事はどうだろうか。未だ十分な説明はなされてないように思える。理事長と同様の覚悟と情熱が在ったのだろうか?私には、今までの経緯から慮ると、その間には、大きな温度差が感じられる。
理事長を任命したのは、知事で在り、任命の際には、“病院改革にしっかり取り組んでください。応援しますから”と、将来の神奈川県民に想いを馳せ、激励したのではないか。それが、今回、変節・変調があったとしたら、理由はなぜだろうか。見つめていた病院改革の将来が、高々2年程度先のヒトと、10年、20年後に馳せ思う想いの違いなのか?
あるいは、公立病院の使命に関わるその高さ・真剣さ・見識の違いか・・。未だ、知事より十分な説明はなされてないように思える。畢竟、メデイア出身の知事には、当然、その説明責任の重さと、今後の公立病院改革に与える影響は理解されていることと思うが・・。

かつて、伊藤 整は、どんなに賢明な人間でも、現実の世に立って、権勢と名利を追って狂奔しておれば、いつのまにか、目が暗くなって、大切なモノがみえなくなる。取り巻きに担がれ、小人にとりいれられ、正しい、気骨のある人物は遠ざかって、本当のことがわからなくなるのではないかと述べている。もしや、10年後、20年後の将来のあるべき県立病院の姿より、近くの自分にとって役立つ人達を選択したのではないか、そのような想いも生じる。知事においては是非、今回の事案の決断の真意を、かつてのように、わかりやすく国民、地域住民に示すべきである。判断の是否は、国民・県民に委ねるとして、その理由と根拠は伝える責務がある。

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