医療ガバナンス学会 (2018年3月28日 06:00)
この原稿は医療タイムス2018年2月18日号からの転載です。
神戸市立医療センター中央市民病院 産婦人科
前田裕斗
2018年3月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
何故神戸でという質問は何度受けたか分からないが、一番は異なる文化と触れるためだ。同質の文化で過ごし続けるのは心地がよいが、年を重ねるたびに異なる環境への適応や、異なる文化とのやりとりが困難となる。さまざまな文化の人と交流することで、1つの物事にも複数の観点や解決法を持つことが可能になると考えた。もう1つは症例の豊富さだ。
産婦人科では手術や分娩をより多く経験することも大切だが、その点で医師が集中し症例の取り合いとなる東京よりも、地方で働くほうが症例数は多い。事実、年間200件以上の手術執刀と100件以上の分娩を経験することができ、満足いく研修を行えている。
しかし、関西に来て困ったのは知り合いがいないことだった。生まれも育ちも関東で、大学の知り合いもいない。こうなると手当たり次第、話しかけるしかなく、自然にコミュニケーション能力と飲み会などの企画力が身についた。
幸運だったのは、出自がプラスに作用したことだ。生まれも育ちも東京、挙句東京大学から来たために「なんか変なヤツが来たぞ」と興味を持ってもらえたため、すでにつかみはオッケーだったのだ。「大丈夫かお前、都落ちにあったのか」といわれたときには、「これはおいしい」と思ったものだ。おかげで今では関東よりも多くの知人・友人に恵まれている。
さて、せっかくの関西修行をこれだけで終わらせる手はない。この経験を今後将来へどう生かしていくか。これはあくまで自分の印象であるが、特に医療界において関西と関東の間にはまだまだ距離がある。関西でも東京に行ってみたいという人は多いが実際に勤める人は少なく、関東から関西へはさらに少ない。
医局制度の影響から人材の流動性が低いことも背景要因としてあるだろうが、日本の医学研究は1つの大学内やせいぜい隣接する地域内で完結することが多い。情報技術の発達した現代においても、顔の見える関係はとても大事だが、関東と関西の双方を経験した自分ならば両地域の距離を詰めることができるのではないかと感じている。
例えば現在周産期部門の研究が世界的に盛んであり、4大ジャーナルと呼ばれる超有名医学雑誌にも毎月のように論文が載るほどであるが、日本発の研究はほとんどない。
そこで、全国に点在する力ある人材を結びつけ、世界へ通用する研究を発信するのが今後の目標の1つだ。成果を発信する中で世界の人材とも交流を行い、さらに研究を発信していきたい。
とはいえ日本では研究費も少ないし、研究は大学など一部の機関に限られているのでは…と医学界の人なら誰しも考えるだろう。ここで重要になるのが他分野とのコラボレーションだ。
AI(人工知能)を用いた自動問診や診療の効率化、新たな治療法の開発はもちろん、視野を広げれば音楽や絵画などの芸術、スポーツや倫理、哲学、神学とも共同研究できる。例えばICUでモニターの電子音をもっと心地よい音に変えたら? 胎教は本当に効果があるのか? 今後、不妊治療の発展と宗教の関係は? アイデアは無限大だ。
自分は頭のよさで売っている人間ではない。むしろフットワークの軽さと環境への適応力、そして思考の柔軟性が身上だ。1度きりの人生だからこそ、さまざまな人と関わり、できる限り多くの体験をしたい。
<略歴>
2007年3月 私立開成学園高等学校卒業
同年4月 東京大学教養学部理科3類入学
2013年3月 東京大学医学部医学科卒業
2015年3月 川崎市立川崎病院にて初期臨床研修修了
2015年4月〜 神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科専攻医として勤務