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Vol.067 公務員個人の損害賠償責任

医療ガバナンス学会 (2018年3月29日 06:00)


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この原稿はMMJ4月15日発売予定号からの転載です。

神奈川県立がんセンター問題を契機とした虚偽公文書作成への抑止対策

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2018年3月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.財務省決裁文書改ざん問題の教訓

学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書書き換え問題が世の注目を集めている。「書き換え」では甘いとして、「改ざん」だと言う人も多い。
ただ、いずれにしても世の注目は、書き換えをし又はその指示をした一般職公務員に対してよりも、そのように忖度した相手又はその指示を下した当人である特別職公務員に、より多くのウエイトがかかっているように思う。
しかしながら、構造的に見れば、又は法律的に見れば、違法行為の再発防止のためには、より大切なのは、指示をし又は忖度の対象となった特別職公務員よりも、むしろ改ざん行為などを実行した一般職公務員への構造的・法律的な対策である。
たとえ指示を受けたとしても、又は、たとえ忖度しようとしたとしても、現場の一般職公務員がそのような違法行為までは現実には実行しにくくなるような抑止対策こそが重要だと思う。有効な違法行為抑止対策の案出こそが、財務省決裁文書改ざん問題における真の教訓となる。

2.公務員の個人責任追及の意義

国レベルのみならず、地方公共団体のレベルでも、同様の問題が起きていた。たとえば、神奈川県立がんセンター問題である。
この点は、すでに小松秀樹医師が「神奈川県立病院機構事件を考える」(MRICに掲載)という論稿で指摘していた。その論稿の「個人責任追及の意義」という一節を引用する。
「個人責任追及の意義
県行政は、国政に比べて、チェックが不足しているため、役人と一部の政治家・業者が結託しやすくなっている。個人がこれに逆らおうとすると、あらゆる方法を駆使してその個人を葬ろうとする。私は、土屋了介氏が解任された主たる原因は、県立病院機構の赤字を減らしたことにあったと想像する。経営を改善しようとすると、必然的に利権とぶつかる。
今回の事件で注目すべきは、県知事の県立病院機構に対する権限、処分のための調査、処分の手続である。調査委員会の規則が直前に決められたり、対立する一方の当事者が処分を決めたり、反論を検討することなく処分を決定したりとさまざまな不備が目に付く。役人は主流派が形成され、書類が整えられると、故意犯罪ともいうべきことに簡単にかかわってしまう。
私は亀田言論弾圧事件で、行政訴訟ではなく、言論弾圧に手を染めた役人個人を訴えた。一審は敗訴だったが、役人の不正をただす良い手段であることは間違いない。これまでの行政訴訟は、役人の違法行為に対する歯止めになっていない。個人に対する刑事告発、民事訴訟を、チェック・アンド・バランスの手段として活用できれば、日本はもうすこし明るくなる。」
とのことであり、日本の現状に対して鋭い分析と有効な方策を提示しているものと評しえよう。
つまり、公務員個人への刑事や民事における責任追及が有効適切な対策なのである。

3.刑事で公務員個人を告発

公務員個人への刑事責任の追及は、犯罪の容疑で警察又は検察に刑事告発することによって行う。刑事告発の受理の前後で、マスコミに発表することもある。財務省の決裁文書の改ざんなどでは、公文書偽造・変造罪(刑法第155条)や虚偽公文書作成罪(刑法第156条)の成否が検討されることとなるであろう。
たとえば、虚偽公文書作成罪では、刑法第156条は、「公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したとき」と定めた。この種の故意犯罪の適用の局面は、実務上よく見掛ける。現に、前述の土屋了介理事長を解任した処分に至る県行政のプロセスでも、神奈川県庁内で「忖度」の結果と思われる「虚偽公文書」が作成されていたこともあったらしい。

4.民事で公務員個人に損害賠償請求

故意犯罪にもなりえそうな事例は、故意によって職権の逸脱や濫用をした場合であることがほとんどであろう。そのようなケースでは、まさに違法行為は抑止されることが望ましい。
もともと民事での不法行為に基づく損害賠償制度の機能は、被害者の救済(損害の填補)と将来の不法行為の抑止(法令違反行為等の再発防止)にあると言われている。この点は、公務員による不法行為でも何ら変わりはない。
しかしながら、現状、最高裁判所をはじめとした裁判所の先例では、公務員個人の職務上における民事責任はほとんどすべて否定されている。国家賠償法による損害の填補が国や地方公共団体によってなされているので被害者の救済は済んでおり、公務員個人の損害賠償責任は認めるまでもなく、国や地方公共団体による賠償だけで十分だとでも言うのであろう。
ただ、法律学者には、制限的ながらも個人責任を認めるべきとの見解が根強い。たとえば、行政法の宇賀克也教授も、「県警所属の警察官が職務として組織的に違法な盗聴を行った」という「ような事案においては、公務員の個人責任を認めることのメリットの方がデメリットよりも大きいとみることができよう。かかる場合には、誠実に職務を執行している公務員を訴訟の矢面に立たせ、結果として、公務員を萎縮させ、公務の適正な執行を阻害する可能性はほとんど無いと考えられるし、被害者の報復感情の満足や公務員の権限濫用防止の要請に応える必要が特に大きいからである。」と述べている(行政法概説Ⅱ行政救済法〔第6版〕457頁・461頁、有斐閣)。
もしも裁判所の解釈が変わりそうにない時には、日本の現状に対処できるように、国家賠償法第1条第1項を改正することも考えてよいであろう。たとえば、現行の条文に、「公務員に故意があったときは、その公務員もまた、その損害を賠償する責に任ずる。」というような簡素な一文を追加して法改正するだけでも十分なのである。

〈参照条文〉
国家賠償法第1条第1項

〔現行〕「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」
〔追加〕「公務員に故意があったときは、その公務員もまた、その損害を賠償する責に任ずる。」

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