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Vol.096 フィリピンにおける病院と医療従事者の不足

医療ガバナンス学会 (2018年5月9日 06:00)


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著者:ハンス ジェスパー デル ムンド
日本語訳:石川 甚仁、原田 夏與

この原稿はMRIC Global(goo.gl/Mz5Ksb) に掲載したものを和訳いたしました。
※筆者が2017年夏に日本に滞在したときに執筆したものです。

2018年5月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

フィリピン共和国は、7,641の島々から成る東南アジアの国です。面積は343,282㎢、毎年平均して20の台風が上陸する熱帯気候です。現在、人口は1億98万人で、平均年齢は24.4歳、男女比およそ1対1、人口増加率は年1.51%となっています。公用語はフィリピン語と英語です。

近年、フィリピンは数々の健康問題に直面しているにもかかわらず、国家予算のうち、保健医療に費やされるのはわずか4.2%です。最も大きな問題の一つは、妊産婦死亡率が未だにとても高いことです。これは、2015年までのミレニアム開発目標で挙げられた到達目標とは遠くかけ離れていました。妊産婦死亡の多くは、医療機関や医療従事者へのアクセスがない農村や、地理的に孤立した地域で生じています。このような現状は、フィリピンにおいては、医療従事者の絶対数が不足しているといった印象を与えるかもしれません。しかし、それは必ずしも事実ではありません。

実際のところ、フィリピンは毎年38,000人の看護師と4,500人の医師を輩出しており、これは十分な数と言えます。実際フィリピンにおいては、130,000人の医師と、500,000人の看護師が登録されているとする報告もあります。これだけの人数の医師と看護師がいるにも関わらず、人口比率に対する現職の医師と看護師の数は、理想よりはるかに低い状況にあります。なぜならば、公立病院であっても、ポストが限られており十分な職の機会が与えられないためです。このことがフィリピンの医療従事者が海外に職を求める、または転職を考えさえする大きな理由となっています。

私は、子供の頃、マダラという町に住んでいました。そこには、設備が不十分な病院しかありません。また、医師、看護師、助産師などの様々な医療従事者の不足が問題となっています。結果として、この街の住民は、診察を受けるために近くの都市まで足を運ぶことを余儀なくされており、中には、医療機関に全く受診しない人もいます。
病院と医療従事者は、都市に集中し、都市と地方との間で大きな偏りが生じています。地方に医師が行くためのメリットがないため、現在、保健省が改善に向けて取り組んでいるところです。しかし、いくら報酬をあげて地方に医療従事者を集めようとしても、現地における医療設備の不足を改善しなければ、地方に医療従事者は集まらないと考えています。

また、国内には約180,000の病院があります。その中の60%は私立病院で、大多数が都市部に位置しています。このことが、医療サービスのさらなる偏在を招いています。フィリピンの全18地域において、人口あたりの病床数が充足しているのは、たった4つの地域です。
そもそもフィリピンの医療システムは、この国が直面する健康問題を念頭に作られたわけではありません。結果として、その医療システムには様々な歪みが生じ、我が国の保健医療に大きな影を落としています。このような現状を考えると、我が国が、2015年までに、ミレニアム開発目標に到達できなかったことも当然と言えます。しかし、私は、これら全ての難題に前向きに取り込むことで、将来的には、フィリピンの健康指数が、日本のような先進国と同じように改善すると期待しています。

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