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Vol.103 性感染症へもっと関心を持とう

医療ガバナンス学会 (2018年5月17日 06:00)


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本稿は2018年5月9日にMRIC Globalで配信した原稿を元に作成しました
(https://www.mricg.info/single-post/2018/05/09/Shedding-More-Light-on-Sexually-Transmitted-Infections-in-Japan)

看護師 横山絵美

2018年5月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●はじめに
性感染症に罹患している人々の数は世界中で増加しており、日本も例外ではありません。例えば、日本での梅毒患者の年間報告数は、2016年には4,559人で2013年の3.7倍となりました。さまざまな性感染症の中で最も一般的なものはクラミジアと呼ばれる細菌感染症です。日本のクラミジア患者の報告数は2016年に約2万4千人で、その半数は20歳代であり、 60%が女性でした。ほとんどのクラミジア患者は症状がないため、感染しても気付きにくいと言われています。したがって、報告された数よりも多く患者が潜在していると推測されます。放置すると、クラミジアは将来不妊症になる恐れがあるため、早期発見と早期治療は非常に重要です。しかし、このような医学的知識は、一般の方々には十分に知られていないかもしれません。この状況を少しでも改善するために、私は朝日新聞へ性感染症に関する意見を寄稿しました(2017年3月30日、”性感染症のこと身近に語ろう” https://www.asahi.com/articles/DA3S13427211.html )。

この記事のおかげで、性感染症について私の周りの友人、同僚、知り合いと話す機会が以前よりも増えました。本稿では、日本における性感染症の教育や性感染症の臨床検査をどのように活用すべきかなど、意識向上のために何をすべきかについて簡単に説明したいと思います。

●性感染症に関する啓蒙活動
日本の性感染症に関する教育は、主に学校教育において保健教育の授業で行われている性教育と組み合わせて行われています。また、一般市民のための性感染症の啓蒙活動としては、厚生労働省のウェブページや、さまざまな教育機関から自由にダウンロードできる資料としてポスターやスライドが用意されています。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html#link01, http://jssti.umin.jp/pdf/keihatu20160630.pdf)。

この一方で、看護学校の先生で助産師でもある私の友人は、「看護専門学校の授業で性感染症のグループワークをしてもコンドームを見たこともない学生は珍しくない。看護学生でさえこの状況なので、もっとオープンに性や命について話し合える環境が必要だと思う」と話していました。これを聞くと教育を「提供する人」と「受ける人」の歯車が全く噛み合ってないことがわかり、非常に残念に思います。

ウェブ上に多数の無料の情報があるにもかかわらず、日常生活の中で性感染症を調べるためのちょっとした契機がない限り、多くの人々が情報を検索しないということが問題の一つだと考えます。実は私もこの調査をするまで、さまざまな活動団体によってウェブ上にポスターやスライドが提供されていることを知りませんでした。無料でダウンロードが可能なこれらの資料によって、性感染症について学ぶことが非常に簡単になり、多くの知識を得ることができます。しかし、人々がそれらを検索しなければ、そのような資料は無意味なものとなってしまいます。性感染症に関する意識を向上させるためには日常生活にもっと入り込んで、性感染症という言葉に触れる機会を多くすることが必要ではないでしょうか。例えば罹患者には若者が多いことを踏まえて、テレビCMや、ファッション雑誌での掲載、YouTubeの人気動画へCMを入れ、目に入りやすくする事も効果的な方法の一つだと考えます。

●性感染症の臨床検査
前述したように、早期発見は性感染症の早期治療にとって重要です。確かに、早期発見について議論する前に、効果的な予防の必要性の方が重要だという人もいます。ただし、日本で最も一般的な予防法はコンドームの使用ですが、性感染症には口腔、咽頭、恥毛が含まれているため、コンドームは性感染症予防のための万能な方法ではいことに注意が必要です。したがって、性感染症の臨床検査の重要性にもっと注意を払う必要があります。しかし、私の友人は「性感染症の検査を一度受けてみたいと思うがなかなか婦人科に行く機会もなく、そのためだけに行くのは抵抗がある。検査を受けるのは、性交渉が多い人というようなレッテルを貼られるような感じがする。」と話しており、積極的に検査を出来ずにいます。他の友人たちは、「私は検査の方法を知らないので、なんだか怖い」と話す友人もおり、性感染症の検査を実施するにはハードルがあるようです。

この問題に対する1つの解決方法は、自宅で匿名で行うことができるテストを行うことです。検査項目に応じて、血液検査と尿検査のための様々な市販キットが様々な価格での入手が可能です。問題点は、自己検査キットは医療保険ではカバーされず自費となるため、一般に医療機関より価格が高いということです。もし妊娠検査キットのような自己検査キットがあって、ドラッグストアで簡単に購入でき一日以内に問題なくすぐに結果を確認できるようになれば理想的でしょう。私の知り合いの医師は、「カップルが一緒にチェックできるよう泊まっているホテルの部屋で、検査キットが利用可能になれば合理的だろう」と述べています。

一方、積極的に性感染症の検査を受けている友人も一部にはいます。看護師の同僚の一人は、「今、パートナーがいないので、先日性感染症の検査を受けてきました。私は結果がすぐに血液検査と尿検査で分かって良かったです。クラミジアの場合、2週間以内に検査結果が陽性であった場合にのみ通知がきますが、まだ連絡は来ないです。」と言います。 別の友人はパートナーと一緒に検査を受け、陽性と判明したと話し、一緒に治療を受けたという。もちろん、彼らは実際に結果が出たときに驚いたとのことでしたが、「年を重ねるごとに性交渉の経験があることは事実。過去のことを掘り下げても仕方がない。結果があるならそれに対して治療すれば良いこと。これを機にリセットされるわけなので検査をしてよかった」と話していました。

これは極めて建設的で大人の議論であると思います。一般的に言えば、性交渉の機会が増えると性感染症の罹患率が上昇する可能性がありますが、経験が少ないからといって罹患しないということではありません。またパートナーの過去の性交渉にも影響を受けるため、一度でも性交渉の経験があるなら感染症のリスクがあることを認識し、検査のハードルを極力減らす方策がもっと導入されるべきであると思います。

●終わりに
世界保健機関(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs110/en/)によると、毎日100万人以上の人が性感染症に感染し、毎年3億5700万人が4種類の性感染症 (クラミジア、淋菌、梅毒、トリコモナス症)のうち一つに罹患していると推定されると言われています。この数字を見れば、不安を感じる時にテストをするのではなく、新しいパートナーとの性交をした後にテストを受けることが、より自然で合理的であると言えるのではないでしょうか。

この記事に関し利益相反はありません。

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