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Vol.115 医療現場のパワーハラスメント ~パワハラでの責任追及を指向してはならない~

医療ガバナンス学会 (2018年6月5日 06:00)


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この原稿はMMJ 6月15日発売予定号からの転載です。

弁護士
井上清成

2018年6月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.職場のパワハラ
職場のいじめ・嫌がらせを、職場におけるパワーハラスメントという。厚生労働省が立ち上げた「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」のワーキンググループによって平成24年に出された報告では、パワハラが定義されている。「職場のパワーハラスメント」とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいう。
今まで、パワハラはどの業種の職場にも見られた。残念ながら、医療現場も必ずしも例外とは言えない。しかし、今後はパワハラを医療現場から無くすべく、各医療機関とも可及的速やかに努力してもらいたいところである。

2.業務上の指導との線引き
ただ、もともとパワハラについては、業務上の指導との線引きが難しい。何が「業務の適正な範囲を超えて」であり、何が「業務の適正な範囲を超えて」いないかの境目が不鮮明なのである。たとえば、個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワハラには当たらない。いわば「叱る」ことと「パワハラ」との境界は、はっきりしないのである。
この点は、「セクハラ」とは明らかに違う。職場における仕事に「性的な言動」は全く要らない。そもそも業務上必要な「性的な言動」という概念は観念しえないので、「セクハラ」規制はいわば絶対的なのである。
翻って、そうするとパワハラとの線引きの実際上の目安としては、業務上の指示や注意・指導が当該現場において当該仕事をするのに必要な言動かどうか、というような判断基準によるのも一つの着眼であろう。つまり、そのような内容・態様の指示や注意・指導をしなくても「個別具体的に想定できる他の別途の緩やかな代替の方法」をもってすれば、当該現場において当該仕事をするのに十分に事足りたであろうという場合であるならば、そのような内容・態様の指示や注意・指導は「業務上の適正な範囲を超えて」いてパワハラであったと疑われることになる、という判断基準である。
それぞれの医療現場において、具体的な多くの事例をもとに、継続的に検討していくことが望まれよう。

3.パワハラ分類を利用した環境改善
一般的にパワハラは、次の6つに分類されている。もちろん、必ずしも網羅的な分類ではない。しかし、実際上はこれらだけでも効果があって、十分に通用するものと考えてよいであろう。
(1)身体的な攻撃
暴行、傷害
(2)精神的な攻撃
脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言
(3)人間関係からの切り離し
隔離、仲間外し、無視
(4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
(5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
これら6つのいずれかに当てはまるかどうかを考え、もしもパワハラに当てはまりそうならば、そのパワハラにならない代替方法を個別具体的に考え出そうとしていく実践が大切である。そうやってしばらくすると、ふと気付いた時には、職場環境は劇的に改善していることであろう。

4.責任追及を指向しないこと
職場環境を改善していく際、セクハラに関しては連日のごとく諸々の事件がマスコミ報道されているように、セクハラ加害者への責任追及を厳しくしていくのは有効な方法の一つである。そもそもセクハラの規制は絶対的なのでその境界が比較的にクリアーであり、また、セクハラの厳格な規制による悪しき副反応もほとんど無いであろう。つまり、セクハラを取り締まったからといって、当該職場の当該仕事に悪い影響が出るということも無い。
しかし、パワハラ規制は様相が異なる。
そもそもパワハラは業務上の指導などとの境界が不鮮明であり、いわば絶対的なものではない。また、パワハラを厳しく取り締まり過ぎると、時として、上司が部下を叱らなくなってしまう。たとえば、上司の医療者がパワハラと言われるのを恐れて部下の医療者を叱れないとすると、そのために部下とのコミュニケーション不足などが生じて部下の理解や習熟が進まず、部下が同様の失敗を繰り返し、ひいてはそのしわ寄せが患者さんに行ってその命にまで関わりかねない恐れすらある。つまり、パワハラ規制には悪しき副反応が伴いかねない。
パワハラ規制の目的は、現場の環境改善である。そして、できれば当該現場の当該仕事の質・量・効率などは、落とさないようにしたい。患者さんの生命・健康に直結する医療現場においては、なおさらである。そこで、できる限り、悪しき副反応を抑え込まなければならない。つまり、パワハラ規制によって現場を改善はするものの、パワハラ加害者に対して余り強烈な責任追及をしない方がよいのである。
セクハラ規制とは異なり、パワハラ規制では責任追及を強く指向してはならない。

5.内部抗争への濫用に注意
以上のとおり、同じハラスメント規制とはいっても、パワハラ規制はセクハラ規制とは異なっている。絶対的ではなく相対的、そして、責任追及ではなく改善のみ、といったパワハラ規制の主な2つの特徴に留意しなければならない。
ところが、実際には、パワハラ規制を相対的ではなくて絶対的に扱い、さらには、環境改善よりもむしろ責任追及を指向しているかのような事例も散見される。責任追及を指向する余り、パワハラ規制が内部抗争へ濫用的に利用されてしまわないように、注意が必要であろう。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_115.pdf

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