医療ガバナンス学会 (2018年6月26日 06:00)
徴医制については、日本学術会議の動き(1)、および平成26(2014)年の医療法改定の内容(2)と関連してすでに述べてきた。しかし、これらの動きが、拙著(3)で指摘した、自民党憲法改正草案(平成24(2012)年4月27日決定、以下、自民党改憲案という。)から読み取れる徴兵制と、見事にリンクしていることが判った。
●自民党、改憲への道:
1955:自民党結党時の党是に改憲が盛り込まれた。
2006.09.26.第一次安倍内閣、一時、体調不良で降板したが、2012.12.22.第二次安倍内閣以降、長期政権を続けている。
その安倍首相は、2007年1月の施政方針演説で「戦後レジーム」からの脱却を述べ、首相官邸Hpで次のように改憲の意味を明かしている。「憲法を頂点とした行政システム、教育、経済・雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化について行かなくなっていることは、もはや明らかです。」
そして、最後の改憲へ向けて、着々と法改正、立法を行ってきた。教育については、2006.12. 教育基本法の改定、経済・雇用については、2012.12. アベノミクスの実施、行政システムについては、2014.06. 内閣人事局誕生、すなわち官邸主導(これがモリ・カケ問題等を引き起こしているのだろう)、そして外交・安全保障については、2015.09. いわゆる“安全保障関連法“の成立(これが自民党改憲案の一部前倒しに相当することは後述する)。国と地方の関係については、道州制を考えているのかもしれない。
最後に残るのが頂点である憲法の改正である。2010.05.には国民投票法を成立させ、2012.04.に自民党改憲案を発表したのである。その改憲案から読み取れる徴兵制についてつぎに述べる。
●自民党改憲案から読み取れる徴兵制:
前文:日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、、、国家を形成する。
9条の三:国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
12条:国民は、、、常に公益に、、、反してはならない。
これを読み解くと次のようになる。「主権と独立を守るため、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保する」という「公益」のために、国が「国民に協力」を求めれば、「日本国民は、国と郷土を自ら守る」ため、「公益に反してはならない」。
法律で形式さえ決めれば、容易に強制的な徴兵制が可能である。
●時を同じくして徴医制が・・・:
徴兵制が読み取れる自民党改憲案の決定が2012年4月27日である。前後して出てきたのが、すでに報告(1,2)した徴医制である。流れを纏めると次のようになる。
2012.03.金澤一郎 元・日本学術会議会長が講演「これまでの医療、これからの医療」のなかで、「全員加盟の医師職能集団」を発表した。2013.08. 日本学術会議は報告書を発表、そのタイトルが「全員加盟制医師組織による専門職自律の確立」である。2014.06.医療法の改定。第5章・医療提供体制の確保は次のようになっている(条項は2016.05改定のもの)。
30条の3:厚生労働大臣は、「基本方針」を策定。
30条の4:都道府県知事は、その地域の「医療計画」を策定。
31条:公的医療機関の開設者、管理者及び医療従事者は、「医師の派遣」などに協力するよう努めなければならない。
35条:厚生労働大臣又は都道府県知事は、公的医療機関の開設者又は管理者に、次を命ずることができる。
三:救急等確保事業に関する医療の確保。(救急等確保事業の内容は以下のとおりである)
30条の4の五:救急等確保事業:救急、災害時、へき地、周産期、小児・小児救急など
そこに読み取れる徴医制についてまとめると次のようになる。
厚生労働大臣又は都道府県知事が、「救急等」の医療確保のために、「公的医療機関」からの「医師の派遣」を命じることができる、これは「一部の徴医制」と言うことになる(1,2で述べた)。さらに、厚生労働大臣(国)が、「戦闘地域の救急等」の医療確保のために、全員加盟制医師組織に、「医師の派遣」を命じることになると、「完全な徴医制」が出来上がる。国はそこまで準備しているのだ。
自衛隊を、集団的自衛権も可能な国防軍へと改憲し、そして「強い国」日本を目指す、それが『日本の決意』だと安倍首相はいう(4)。そのために徴兵制、徴医制を準備しているということだ。安倍首相は改憲をなぜ急ぐのか、つぎにその理由を述べる。
●違憲・反立憲といわれる“安全保障関連法”を合憲にしたいから:
自民党に「高村理論」と言うものがある(5)。それは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」した場合の集団自衛権、すなわち「日本のための集団的自衛権」は合憲とする理論だ。この理論には矛盾がある。それは、「武力行使の三要件の3:必要最小限の実力行使」との矛盾である。
たとえば、米軍に対する武力攻撃が発生した場合、それには当然、米国自身の自衛のための実力行使が行われるだろう。ここが高村理論に欠ける認識である。米国の自衛のための実力行使と、「日本のための集団的自衛権」としての自衛隊の実力行使は「一体」となるだろう。すなわち「必要最小限の実力行使」が定められない、という矛盾である。
2014.7.1. 矛盾ある高村理論に基づき「武力行使の新三要件」が閣議決定された。これは矛盾ある理論に基づく憲法解釈となり違憲である。2016.3.29. それに基づく“安全保障関連法”が施行された。これは違憲の法律、すなわち反立憲である。2016.11.18. 南スーダン派遣自衛隊に「駆けつけ警護」など「新任務」が命令された。しかし、内戦が再燃し、あわや隊員に死傷の危険もおよび、「任務完了」という口実(?)で急ぎ撤退させた。2017.5.3. 撤退ほぼ完了した時点で、「憲法9条の第2項を残しても自衛隊明記を」という、安倍首相の改憲急げ発言が出てきたのだろう。
●もし、自衛隊(国防軍)が合憲になれば・・・
中国との軋轢がたかまり、とくに尖閣諸島の領有権問題がこじれるだろう。この問題は、日中共同声明(1972)前の田中角栄・周恩来会談で「棚上げに」することとなった。しかし、日本が国有地化したことで、中国も動き出している。国連憲章の敵国条項を批准していない中国が相手である。どうしても日本は軍拡、軍事費膨張を強いられることになるだろう。もうすでに起きている。
さらに、米軍との共同軍事行動をとるようになればどうだろうか、America first.で日本兵に多数の犠牲者がでるだろう。少子高齢化、人口減少期の国内問題がさらに深刻になるだろう。
いずれにしろ、日本経済を圧迫することは必然であり、また徴兵制、徴医制も現実になるのだ。憲法改正のための国民投票は、日本でほぼ唯一の、直接民主主義である。ひとりひとりが自民党改憲案を吟味してほしいものだ。
(1)「専門職自律の確立」、実は「徴医制(全員強制加入・懲罰機能を持つ医師会制度)」: MRIC Vol. 314. 2013.12.26.
(2)現場の医師から見た医療法改定の意味:(2の2):MRIC Vol.051. 2015.3.17.
(3)平岡諦著『憲法改正 自民党への三つの質問、三つの提案』:212p、2017
(4)安倍晋三著『日本の決意』、2014
(5)高村正彦、三浦瑠璃著『国家の矛盾』、2017