医療ガバナンス学会 (2018年7月4日 06:00)
この原稿はAERAdot.(5月30日配信)からの転載です。
https://dot.asahi.com/dot/2018052500077.html
小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
森田麻里子
2018年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
この研究は、国立成育医療研究センターの山本貴和子医師らがまとめたものです。2004年から06年の間に産まれた赤ちゃん902人を対象に、両親へのアンケート結果から、抗菌薬の使用歴と、アレルギー性疾患の発症に関連があるかどうかを調べました。すると、2歳までに1回でも抗菌薬を使用したことがある子は、そうでない子に比べて、5歳の時点で気管支喘息になっているオッズ比が1.72、アトピー性皮膚炎で1.40、アレルギー性鼻炎で1.65と、いずれも高かったのです。
これまでにも欧米では、抗菌薬がアレルギー性疾患の原因になるのではないかという報告はありましたが、この研究により、それが日本人にも当てはまることが明らかになりました。この研究は疫学的なものであり、なぜこのようなことが起こるのかについては、はっきりしていません。腸内細菌のバランスが乱れることが原因ではないかという意見も出てきています。
では、2歳までの子には抗菌薬を使わない方がいいのかというと、そうではありません。大切なのは、何歳の子であっても、大人であっても、必要な時にはしっかりと抗菌薬を使い、必要なければ使わないことなのです。
そもそも抗菌薬は、細菌が起こす感染症、例えば細菌性の肺炎・髄膜炎などを治すための薬です。厳密には異なりますが、抗生剤・抗生物質という言葉も抗菌薬とほぼ同じ意味で使われていることが多いです。一方で、風邪は細菌ではなくウイルスが原因です。ウイルスは、細菌よりずっと小さく、単独では生きていくことができないという性質を持っています。細菌とは全く違う種類の微生物なのです。
ウイルスには抗菌薬は効きません。ですから、風邪に抗菌薬を使うのは、効果がないばかりか、乳幼児ではアレルギー性疾患を増やす可能性があります。
また、風邪に引き続いて二次的に細菌感染を起こし、抗菌薬が必要になることはあります。しかしこの場合も、最初から抗菌薬を使って予防するのは難しいことがわかっています。2007年にロンドン大学の研究者たちが発表したイギリスでの大規模研究では、風邪などに抗菌薬を投与した場合、4000人に抗菌薬を投与してやっと1人の重症な合併症を予防できる、という結果になっています。
高齢者が気管支炎になっている場合は抗菌薬で肺炎を予防する効果はありますが、それ以外の場合には合併症を予防する目的で抗菌薬を投与することは勧められない、と結論付けられているのです。
子どもでは風邪に引き続いて細菌性の中耳炎を起こすこともよくあります。小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、中等症以上の中耳炎になってしまった場合や、軽症でも3日間観察して改善が見られない場合には、抗菌薬の投与が推奨されています。このような場合にはためらわずに抗菌薬を使うことが大切です。また、症状が良くなったからといって抗菌薬の使用を途中でやめてしまうと、薬が効かない耐性菌を作り出してしまう恐れがあります。抗菌薬は、医師の指示通り飲み切ることが大切です。
どんな薬もメリットデメリットがあります。必要以上に恐れることなく、上手に使っていけたら良いですね。
◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表