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Vol.154 津久井山ゆり園指定管理者―社会福祉法人かながわ共同会について

医療ガバナンス学会 (2018年7月31日 06:00)


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神奈川県議会議員
小川くに子

2018年7月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1昨年の7月26日、社会を震撼させる大量殺人事件が起きた。
障害者支援施設、神奈川県立津久井山ゆり園に夜間に押し入った元職員が、入所者19名殺害、26名に重軽傷を負わせるという前代未聞の悲惨な事件は、社会を震撼させた。

その元職員を雇用していた「社会福祉法人かながわ共同会」(以下共同会)に対しては、県からいまだに何のペナルティーも課せられず、平成36年度までの指定管理期間は、継続して山ゆり園を運営させるという方針を県は打ち出している。
県は60億円以上の予算をかけて、新しいタイプの障害者支援施設建設を計画している。新しいタイプの施設は、これまでとは支援内容や運営形態が全く変更されるにもかかわらず、指定管理者を再募集する事はせずに、引き続き共同会に運営させるそうである。
その理由は、津久井山ゆり園の家族会が神奈川共同会による引き続きの運営を要望したから、としている。が、親や子を預けている家族がアカラサマに現運営母体である共同会を替えてほしいとは要望しづらいはずではないのか、という慮りもなく、「家族会の要望だから、36年度までは運営母体は変更しない」、黒岩県知事はこの判断を下し、施設建て替え事業を推進している。

また、県は、共同会に対するペナルティーは、容疑者の裁判結果が下されてから検討するという。この判断に、私は歯がゆさを感じている。津久井山ゆり園は、県立障害者施設であるのに、まるで他人事である。
この共同会は、優性思想を抱くに至った容疑者である元職員の経過を把握しながら、警察への通報や措置入院に頼っただけであった。退院後の情報も、警察からの通報も意に介せず、普段通りの運営を続けた結果、前代未聞の悲惨な事件を起こす結果になったのである。少なくとも、事件発生までの経過で予防機会はあったと考える。
事件について触れるのはここまでに留め、指定管理者の指定を受けて津久井山ゆり園を運営している共同会への疑問点についてふれたいと思う。

共同会は、自らの施設を所有しない社会福祉法人である。
県立障害者支援施設、秦野精華園を平成2年に再整備スタートするに当たり、再整備後の運営は県立民営方式が適正とされた。その施設を管理委託する法人として、行政、障害者施設、当時の障害者地域作業所、障害者の家族(親の会)の総意によって、神奈川の障害者福祉の理想を目指して設立した社会福祉法人である。これまでは副知事経験者が理事長に就任したこともあるほど、福祉先進県と言われた当時の神奈川県が力を注いだ法人であった。施設を所有していないこともあり、発足当時の基本財産は100万円であった。

その共同会が、平成18年度に管理委託から指定管理者として、複数の県立障害者支援施設の管理運営を開始したが、平成25年度に、純資産額が急増した事が発覚。検証委員会による調査の結果、平成18年に障害者自立支援法が施行された事によって、県からの指定管理料と自立支援法による給付費に重複があったと判明した。また、施設整備費についても県が支払うべきでないものがあり、総額10億円近い額が過払いとなっていたことから、これを共同会は県に返還した。
しかし、この返還は、法人自らが申し出たわけではなく、監査や検討委員会から指摘され、その上、県厚生常任委員会で厳しく批判され、半年以上のやり取りの末、ようやく返還したという経過がある。平成25年当時の県厚生常任委員会で、私はこう批判している。「自分で法人を経営している経営者は、国からの給付が正しいかどうか、毎月神経質にチェックするものだ。自らの法人の給付額、収入額がいくらになるか、非常に敏感に反応するはずであり、急に余剰額が増えたことを手放しで受け入れるような経営者は普通はいないはずだ。」
当時、県のOBが、理事長・常務理事・2園の園長など要職についているにも関わらず、要するに、経営がずさんなのではないか?という指摘だ。その返還額を含めると、29年度現在の純資産は50億円にも上るわけである。
そして、昨年、10月に開かれた神奈川県決算特別委員会では、この共同会への28年度指定管理料の是非について、私は質疑を行い、引き続き指定管理料が適正であったかどうかを質した。悲惨な事件が起き、施設を移転したという大きな変化があった年だったので、指定管理料の清算が必要ではなかったのか、という視点からの質問であり、同時に純資産40億円という現状に再び疑問を感じたからである。
私の質問は「共同会は、県保健福祉局の貯金箱なのか?建て替えを条件に県の障害者施設を移譲する為に、指定管理料を多く支出してきたのではないか?」という内容であった。この指摘に、全会派が賛同したので、「純資産についての調査を行い、県民に説明責任を果たすべきだ」という付帯意見がつけられ、決算は認定された。

そして、神奈川県は共同会への指定管理料について内部調査を行った後、外部の専門家第3者に調査を依頼し、その結果が30年6月に議会に報告された。厚生常任委員会で質疑がなされ、その専門家による調査結果にも疑義が呈されたと聞いている。外部調査は28年度、29年度を中心に調査したのだが、残酷な事件が起きた後のいわば特殊な状況下の決算であり、調査対象として適切ではないのではないか?と私は考える。特に28年度は事件が起きた年であり、共同会にとっては平常の決算ではありえないはずだ。にもかかわらず、調査結果に異常は認められないとのこと。この調査結果の方がよほど異常なのではないだろうか?
しかし、25年と同様、指定管理料と総合支援法による給付との重複支払いがあるので、再び返還金を求めることになる、と聞いている。調査のたびに、指定管理料の過払いが露呈する、これこそ異常以外のなにものでもない。
本県の指定管理者64者中、県から返還請求されて指定管理料を返還した法人は、この共同会ただ1者である。しかも2度目である。
また一方県に目を向ければ、県はこの法人には特別に甘く、もしくは故意に指定管理料を過剰に支出しているのではないか?という疑問さえ抱く。そうでなければ、指定管理料の計算がずさんであるか、適正な計算ができないのか?いずれにしても県民のみなさんに対する背信行為であり、大きな不信感を抱く。

そして、この法人は、津久井山ゆり園事件を受け、県からの強い指導により、理事長らが交代している。この辞職した理事は、25年度に返還金を県から求められたとき、「話が違う。何で私が対応しなければいけないのか」と当時の障害福祉課に食ってかかったと仄聞している。その話とは、「お金は十分に出すから、貯めこみ、そのお金で自己施設を所有すればいい」という話だったのか?
しかし、その理事はすでに辞職しているので真相は闇の中。山ゆり園の事件後の法人の新らしい理事会メンバーは、理事長、常務理事、各施設長の6人であった。が、県議会からの指摘を受けて、内部メンバー以外に2人外部から理事を最近迎え入れたと聞く。がしかし、この人事異動でこの法人の体質がはたして本当に変わったといえるだろうか?プロパー職員からは、職員の管理体制は何も変わらない、それでいいのか、との疑問の声が聞こえてくる。

通常、社会福祉法人とは、高い理念の元。個人の資産を投じて社会福祉に寄与する施設を創設し運営してゆくものであり、施設運営そのものが、理念の発露なのである。
しかしながら、この共同会は、経理には不明点が多いと言わざるを得ず、2度の調査により指摘されたように、超過金計算された指定管理料を平然とうけとり続けてきたのだ。また、内部メンバー理事の資質、上層部職員との上下間の風通しの悪さ、人事評価の各園間格差など、不透明な運営体質が相まって、大量殺傷事件にも結びついているのではないか?という指摘もなされている。
こういう指摘にもかかわらず、神奈川県は、同法人に対して何のペナルティーも課さずに、指定管理を当初の契約期間終了の平成36年度末まで継続しようとしている。前述したように、家族会からの要望だからという理由であるが、家族会は、それぞれの家族を施設に受け入れてもらっているのであるから、運営を別法人にかえてほしいなどと言えるはずもない。そういう慮りもなく単純に家族会からの要望だという理由で、指定管理を共同会で継続するという、県知事判断は軽率で感情的にすぎる。

神奈川県民の血税を1法人に無用に投じる事は許されないし、指定管理者には常により良い法人を求めるべきである。経理が透明で、人事がしっかりしている法人は他にもあるはずだ。

最後に再度申し上げる。共同会が現状の体質のまま、県から複数の障害者支援施設の指定管理による管理運営を継続すること、又、その内1園の移譲を受け、自己所有施設として運営していくことには問題が多すぎる。指定管理施設の運営は県税によるものであり、移譲を受ける為に支出されるであろう共同会の資産も県税によりつみあげられたものである。
県立障害者支援施設の指定管理者については、問題点を指摘し、再考を強く求めたい。

尚、以上は、神奈川県議会の厚生常任委員会・決算特別委員会議事録に残されている質疑を元にしている。

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