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Vol.172 日本流で医師の懐潤わす製薬企業からの学術研究助成費 ~製薬企業から医師への支払いの分析6回「B項目」~

医療ガバナンス学会 (2018年8月24日 06:00)


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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53601?page=2

この原稿はJBPERSS(7月23日配信)からの転載です。

尾崎章彦

2018年8月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

製薬企業から多額のお金が様々な形で医師へ流れている。その実態を今まで4回に分けて紹介してきた。今回の記事においては、日本製薬工業協会の定める枠組みでB項目と呼ばれる「学術研究助成費」を取り上げる。

C項目「原稿執筆料等」が医療者個人への支払いだったのに対して学術研究助成費は学会やその他の団体に対する支払いとなる。

◆原稿執筆料より多い学術研究助成費
その内訳は、(1)奨学寄付金、(2)一般寄付金、(3)学会等寄付金、(4)学会等共催費である。

まず、学術研究助成費の総額を示す。実は、その額は原稿執筆料のそれよりも多い。
2016年度の原稿執筆料が277億円であったのに対して、学術研究助成費は376億円だった。このうち、221億円を計上し、全体の58.9%を占めるのが奨学寄付金である。
奨学寄付金は、「大学をはじめとする研究機関に対する教育・研究等の奨学を目的として提供する寄付金」と定義される。
図1に国内医薬品売り上げと奨学寄付金の関係を、図2に、国内医薬品売り上げ1億円あたりの奨学寄付金を示す。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-1.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-2.pdf

MSDやノボノルディスクファーマなどの例外を除き、外資系製薬企業における奨学寄付金の額は総じて内資製薬企業よりも小さい。また、その差は国内医薬品売り上げが増加するに従って拡大する。

中には、ブリストル・マイヤーズ・スクイブのように、奨学寄付金を一切支払っていないような企業も存在する。

内資製薬企業と外資製薬企業において、大きな差が生じる理由は、奨学寄付金が日本固有の支払い体系であることが背景にある。

◆海外には奨学寄附金の概念がない
ある内資製薬企業幹部は、「海外には奨学寄付金に該当する概念は存在しない。そのため、外資製薬企業の方々は本国に奨学寄付金について理解してもらうことに苦労していた」と言う。

実は、奨学寄付金はこれまでも海外から批判を浴びてきた。最大の理由は、その使途に明確な制限がないことだ。

奨学寄付金は、極端な話、BBQのようなレクリエーションのコストに充てても咎められることがない。また、どの講座や研究室にどの程度の額の奨学寄付金を提供するかといった選択も、製薬企業の裁量で決められている。

以上を踏まえると、そのあり方が不透明として批判を招くのはやむを得ないように思われる。

一方で、第3回の分析においても言及したように、前述の内資製薬企業幹部によると、「外資企業は、奨学寄付金の代わりに基金やNPOを立ち上げて医師に利益供与を図ることも多い」という。

このような第三者機関を介した利益供与は、現在の枠組においては十分に捉えることができない。そのため、杓子定規に、外資企業と内資企業で透明性への取り組みを評価することは難しいように思われる。

次に、一般寄付金について分析する。

一般寄付金は、「医学・薬学に関する活動を行う公益法人や特定非営利活動法人等の会合開催や事業運営の支援等を目的として提供する寄付金」を指す。

全体として55.1億円を計上し、学術研究助成費全体の14.7%を占める。その分析結果を図3と図4に示す。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-3.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-4.pdf

MSDやノボノルディスクファーマのように平均を上回る例外もあるが、外資企業と内資企業の差は奨学寄付金以上に顕著であった。

前述の製薬企業幹部は、「外資企業は寄付に対して特に厳格である」「私たちの業界においては、〇〇大学医学部記念事業といった寄付依頼が溢れている。しかし、アストラゼネカやファイザー、グラクソ・スミスクラインは、建物への寄付にはかなり難色を示していた」と言う。

一方で、内資製薬企業においては、企業ごとの方針に大きな違いがありそうだ。

図5においては、中外製薬や小野薬品、持田製薬が平均を多く上回っている一方で、アステラス製薬や武田薬品、田辺三菱製薬は平均をかなり下回っていた。「中外製薬は相対的に医療者との関係性が近い会社」(製薬企業幹部)だと言う。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-5.pdf

次に、国内医薬品売り上げと学会寄付金の関係を考察する。

学会寄付金とは「学会等の会合開催や事業運営の支援を目的として提供する寄付金」に当たる。

その総額は17.8億円であり、学術研究助成費の4.8%を占める。分析結果を図5・6に示す。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-6.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-7.pdf

これまでの分析と同じように、外資企業の支払いは内資のそれよりも少なかったが、奨学寄付金や一般寄付金ほどは顕著な差がなかった。

さらに図7・8に学会等共催費の分析結果を示す。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-8.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_172-9.pdf

この項目は、「学会と共催する会合(ランチョンセミナー、シンポジウム等)のために支払われた費用」に該当し、総額74億円、学術研究助成費全体の19.9%を占める。

この項目に至っては外資企業の支払いの方が内資のそれよりも多かった。言われてみれば、各種の学会に参加した際に、特別外資企業のランチョンセミナーやシンポジウムが特段少ないと言う印象を受けたことはない。

第2回(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53377)の記事で分析したように、学会は日本の医学界において非常に大きな役割を占める。学会を重視する姿勢は、外資・内資問わず、製薬企業に共通する特徴なのだろう。

最後に、学術研究助成費の公開体制について分析する。

原則として、学術研究助成費においては、各団体への個別の支払いが公開されている。加えて、前回ご紹介した原稿執筆料とは異なり、閲覧に特別な申請が必要ない(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53496)。

一方で、公開されているデータフォーマットはスプレッドシートのような形式を取っておらず、各企業のデータを集計し、分析することは極めて難しい。

学術研究助成費の枠組みで公開される項目は個人情報を含まないため、より自由度の高い情報公開を行う際の調整コストはかなり低いように思われる。

製薬企業の方々にはその実施を是非検討いただきたいと考えている。

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