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Vol.171 患者の人権(自己決定権)からみたHPVワクチン健康被害問題

医療ガバナンス学会 (2018年8月23日 15:00)


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安全性監視体制としての「健康被害者からの報告制度」の創設を(2の2)

NPO 医療制度研究会 理事 平岡諦
連絡先:bpcem701@tcct.zaq.ne.jp

2018年8月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●前稿(2の1)のまとめ:
(1)HPVワクチン接種後の副反応による重篤な健康被害者である彼女たちが薬害裁判を起こしていること、(2)予防接種法は、接種を受けるに当たって被接種者に自己決定を求めていること、(3)彼女たちは、接種前に与えられた情報が不十分であったことを弁護士からの聴取に対し陳述書形式で述べていること、および、(4)現行の安全性監視体制について、とくに予防接種法における「保護者からの報告制度」と薬事法における「全例調査」について述べた。

本稿では、HPVワクチンの製造販売承認過程から薬害裁判に至るまで、現行の安全性監視体制がどのように機能したのか、しなかったのかを検証する。そして「健康被害者からの報告制度」の創設を提案する。なお、時間経過を捉えやすくするため、引用文献等にある元号表示はすべて西暦に変更して示した。

●HPVワクチンは全例調査の対象にすべきだったのでは?
本邦で最初に承認されたHPVワクチン、サーバリックスの審査概略を示す。まず審査したのが独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)だ。その審査報告書の内容を示す。「厚労省から申請者に、本剤の審査を迅速かつ適正に進めるため、国内臨床試験が実施されている中、海外臨床試験成績等をもって製造販売承認申請するよう指導が行われた」。申請は2007年9月26日である。厚労省は、「本剤接種により予防効果が期待される子宮頸癌の重篤性、その予防策としての本剤の有用性等から、2008年1月9日付で優先審査の対象」とした。そこでPMDAは、「申請時に実施中であった国内臨床試験の、、、最終総括報告書は、、、に提出予定」、すなわち未提出の段階で、一定の「効能・効果、用法・用量で承認して差し支えないと判断」したのだ(2009年8月20日)。
安全性の審査に関しては、まず、全例調査の対象(1)「国内治験症例が少ない、あるいは、ない場合」に相当すると考えられる。さらにPMDAは安全性について、つぎのような条件を付けている。「しかしながら、本剤は、新規アジュバント成分を含有すること、昆虫細胞をタンパク質発現細胞とする本邦初の遺伝子組換え製剤であることから、安全性に係わる情報が製造販売後調査等の中でも引き続き収集され、適切に情報提供される必要がある」。「新規」、「本邦初」であることは、全例調査の対象(2)「重篤な副作用等の発現が懸念される医薬品の場合」に相当することを意味する。以上の2点から、厚労省は全例調査を製造販売承認の付帯条件とすべきであった。しかし、それをしなかった。厚労省の不作為と言えるだろう。
厚労省医薬食品局審査管理課の審議結果報告書(2009年9月8日)には、次のように記載されているだけだ。「2009年8月31日に開催された医薬品第二部会において、本品目を承認して差し支えないとされ、薬事・食品衛生審議会薬事分科会に上程することとされた」。そして安全性については、「なお、本品目は生物由来製品に該当し、再審査期間は8年とし、原体及び製剤ともに劇薬に該当する」と述べるだけで、全例調査を付帯条件とすることはなかった。
なお、全例調査に関する事務連絡(医薬食品局審査管理課と同・安全対策課の連名)の出されたのが2009年9月7日、そしてこの審議結果報告書(医薬食品局審査管理課)の出されたのが2009年9月8日であることは、厚労省の不作為を考える上で注目すべき点である。

もう一つのHPVワクチンであるガーダシルについて述べる。サーバリックスの場合と同様、厚労省の指導で国内臨床試験実施中に申請がなされた(2007年11月)。しかし、国内臨床試験(027試験)での検体ラベルの取り違え等から申請は一旦取り下げられた。その後、国内臨床試験(027試験、028試験)の結果を含む、新たな申請資料により再申請(2010.07.16)された。これら二つの国内臨床試験結果のうち、安全性についての内容をつぎに示す。
027試験では1,021例(治験薬接種群が509例、プラセボ群が512例)が組み入れられた。とんでもないことと思うが、「治験薬接種後の安全性データの無い25例を除いて」(23頁)、安全性が解析されたのだ。また、028試験では治験薬接種群は82例にすぎず、安全性の検討に堪える症例数ではない。これらは、全例調査の対象(1)「国内治験症例が少ない、あるいは、ない場合」に相当することを意味する。しかしサーバリックスの場合と同様、厚労省は全例調査を製造販売承認の付帯条件とはしなかった。

ダブルスタンダードなのか、あるいはワクチンには別の判断基準があるのか、厚労省は両剤を全例調査の対象にしなかった。その理由、この不作為の理由を厚労省は説明しなければいけない。

●医療者からの報告制度(「副反応報告」又は「副反応疑い報告」)は機能したか?
前稿(2の1)で述べた「副反応被害報告集;愛知県第1集」より、最初の医療機関受診日を含む受診状況を示す。
N-1番:2011年10月1日(A病院受診、即日入院)。
N-2番:2011年10月29日(近医の整形外科受診)、同11月18日(神経内科クリニック受診)、2012年1月17日(A医療センター受診)、同2月15日(心療内科クリニック受診)、同5月21日(B大学付属病院検査入院)。
N-3番:2011年10月5日(Aクリニック受診)、同6日(C病院受診、即日入院)。
N-4番:2012年5月7日(近所の診療所受診)、同8月14日(予防接種を受けた病院受診)。
N-5番:2013年2月2日(近所の整形外科受診)、同7日(A病院小児科受診)、同8日(B病院受診)、同11日(同病院救急受診、同日入院)。
N-8番:2011年11月24日(第1回目接種2日後、自宅で意識消失、Bセンター受診、その後、C病院整形外科受診も受診)、2012年1月11日(発熱で、接種を受けたAクリニック受診)、同1月17日(Aクリニック受診、頸部痛訴えるも問題なしとして2回目接種)、同5月2日(D市民病院受診)、同6月11日(再びC病院受診)、同7月26日(救急病院搬送)。

以上の陳述を見ると、最初の医療機関受診を含め、いずれの受診も2013年3月8日のマスコミ報道以前である。これらの医療機関から、予防接種法に基づく(1)診断した医師からの報告(「副反応報告」又は「副反応疑い報告」)が厚労省に届いたのだろうか。届いていなければ、この副反応報告制度が機能していないことになる。届いていて厚労省が被接種者に情報提供しなかったのであれば、厚労省の不作為となるだろう。いずれにせよ検証可能だ。厚労省は検証し、その結果を公表すべきである。

●「保護者からの報告制度」は機能したか?
最初に取り上げたのは杉並区議会(2013.03.07)であった。杉並区議会・議会運営委員会理事会記録(2013.03.14)の中に、検討したが提出しないことになった意見書が書かれている。それによると事実経過はつぎのとおりである。「3月7日の区議会予算特別委員会において、杉並区で接種を受けた女子中学生が重い副反応を起こしている事実が明らかとなり、8日、区は被害者に補償する方針を打ち出した」。これが、マスコミに報じられた最初の健康被害者である。
区議会で検討する前に、当然ながら杉並区は保護者からの相談を受けたことだろう。「保護者からの報告制度」に従って、杉並区は東京都を経て厚労省へ報告したのだろうか。報告していなければ、「保護者からの報告制度」が機能していないことになる。報告していれば、厚労省はどのように扱ったのだろうか。これも検証可能だ。厚労省は検証し、その結果を公表すべきだ。

●安全性監視体制としての「健康被害者からの報告制度」:
薬事法の「全例報告」と予防接種法の「保護者からの報告制度」との組み合わせで、被害拡大が防げた可能性について述べる。
厚労省はHPVワクチンの製造販売承認時の付帯条件を全例調査としておけばよかった。抗がん剤の全例調査は、処方する医師、その医師の所属する医療機関とタイアップして行われる。予防接種の全例調査は、被接種者とタイアップする必要があるだろう。全例調査を義務付けられた製造販売業者は、接種時にすべての被接種者に、「もし重篤な健康被害が出た場合、市町村に相談すること」と書いた用紙を配布するだけである。可能性の注意喚起だ。「それが将来の被接種者への情報となって、重篤な健康被害者の拡大を防ぐことになる」ということを説明文にしておけばよい。厚労省は、そのような全例調査をすることを、都道府県を通じて各市町村へ通達し、「保護者からの報告制度」に準じた報告を促すだけである。集まった情報をPMDAがリアルタイムに分析し、その結果を新たな被接種者に情報提供すれば良かったのだ。そうすれば被害拡大が防げただろう。
製造販売業者に対する負担や、厚労省、都道府県、各市町村への負担もこの程度であれば、対象数を数万人単位、期間も数年単位で行えるだろう。これは「健康被害者からの報告制度」と呼んでも良い。

●厚労省、今後の対応について:
第一に、厚労省が改めるべきは「副反応」と「副反応疑い」との曖昧な使い方をやめること、そして、薬事法(治験など)で用いられる「adverse events 有害事象」との整合性を図ることである。言葉の曖昧さが厚労省への疑惑を生む。
第二に、厚労省はワクチン・ギャップを埋めるため、製造販売承認のための期間短縮に努力した。しかし安全性監視体制(薬事法、予防接種法)の不備・不徹底が、今日のHPVワクチン副反応問題をもたらしたのだろう。その不備・不徹底とは、(1)製造販売承認時に全例調査を付帯しなかったこと(これは厚労省の不作為と言える)、(2)診断した医師等からの報告(「副反応報告」又は「副反応疑い報告」)とともに、「保護者からの報告制度」がおそらく機能しなかったのだろう。これらが機能したかどうかは検証可能であり、厚労省は検証結果を公表すべきである。
第三に、以上の反省点から考えられるのは、「健康被害者からの報告制度」の創設である。まず、新規ワクチンの製造販売承認時に全例調査を付帯する。接種時、被接種者全員に「接種後副反応によると思われる健康被害」が出た場合に、それを報告するための用紙(市町村宛でも良い)を配布することだ。「その報告が健康被害の拡大を食い止めることになるだろう」とする説明書と共に配布するのだ。要は、米国ワクチン有害事象報告システム(Vaccine Adverse Event Reporting System ; VAERS)に倣った、日本版を創設するということになるのだろう。製造販売承認された新規ワクチンにつき、その後の市販後調査(全例調査)、「健康被害者からの報告制度」、分析、情報発出、被害拡大阻止、これらの安全性監視体制をうまく回転させなければならない。

最後に、健康被害を受け、とくに未回復の被接種者が望むのは、健康被害の病態解明、治療法開発のための研究体制である。被害者連絡会が厚労省に出した要求書「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)被害問題全面解決要求書」(2015.03.31)の2‐(2)に当たる。そこには「特に、高次脳機能障害などの症状に対する研究と治療に配慮すること」と書かれている。これらの研究体制が無ければ、健康被害救済制度が適用されただけで健康被害者が救われることはないだろう。このことを厚労省は肝に命ずべきである。

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