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Vol.170 患者の人権(自己決定権)からみたHPVワクチン健康被害問題

医療ガバナンス学会 (2018年8月23日 06:00)


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安全性監視体制としての「健康被害者からの報告制度」の創設を(2の1)

NPO 医療制度研究会 理事
連絡先:bpcem701@tcct.zaq.ne.jp

2018年8月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●薬害訴訟へ発展した、接種副反応による健康被害:
HPVワクチンの副反応による重篤な健康被害を最初に取り上げたのは、東京都杉並区の区議会であった(2013.03.07)。翌日(2013.03.08)以降のマスコミ報道で世間が知ることになった。同様の健康被害者・家族が全国子宮頚がんワクチン被害者連絡会を結成した(2013.03.25)。
特例交付金による「子宮頚がん等ワクチン接種緊急促進事業」(2010.11.26)の実施で被接種者が急増し、さらに当該ワクチンは定期予防接種の対象となった(2013.04.01)。しかし、被害者連絡会からの要望に沿って厚労省は接種の積極的勧奨を取り下げ(2013.06.14)、その後、被接種者は激減した。接種率を上げようとする予防接種推進派と、被害を強調する反対派に分かれた医療者間のワクチン騒動になる一方、薬害訴訟に発展(2016.07.27)して現在に至っている。

●予防接種による健康被害者と薬害訴訟:
「予防接種は、、、社会及び国民に大きな利益をもたらしてきた一方、極めてまれではあるが不可避的に生ずる予防接種の副反応による健康被害をもたらしてきた」。これは、予防接種法第3条に基づき定められた「予防接種に関する基本的な計画」(2014.03.28)の中にある、「予防接種に関する施策の基本的理念」の一節である。すなわち、予防接種は一定の健康被害者を生み出すことが前提だ。そのようにして生み出された健康被害者は、自らの人権(自己決定権)が守られていた、守られていると考えれば、損害賠償訴訟を起こすことはないだろう。

HPVワクチン薬害訴訟が起きているということは、当該ワクチンの接種を受けた彼女たちが、自らの人権(自己決定権)が損害された、されていると考えるからだろう。マスコミのセンセーショナルな報道(K. Tsuda, et al.; Trends of Media Coverage on Human Papillomavirus Vaccination in Japanese Newspapers. CID 2016: 63; 1634-1638)が一因かもしれない。しかしながら、いち早く厚労省が「子宮頚がん接種緊急促進事業による健康被害の救済について」(2016.01.14)を発出し、予防接種法に基づく救済と同程度に救済できるよう予算事業を開始したのであるが、彼女たちは損害された人権(自己決定権)への賠償を訴訟(2016.07.27)に訴えたのだ。彼女たちがそのように考えるようになった理由を探ることは、予防接種政策の改善点を明らかにすることになるだろう。

●「被接種者及びその保護者の役割」は自己決定:
前述の「予防接種に関する基本的な計画」はまた、つぎのように述べている。「被接種者及びその保護者は、予防接種による感染症予防の効果及び副反応のリスクの双方に関する正しい知識を持った上で自らの意思で接種することについて、十分に認識し、理解する必要がある」。すなわち予防接種法は被接種者の自己決定を期待しているのだ。
十分に認識するためには十分な情報が与えられなければならない。十分な情報が与えられた上での自己決定であれば、たとえ副反応による健康被害がでても納得し、裁判を起こすことは無いだろう。十分な情報が与えられたと感じているのか、つぎに検討する。

●被害者連絡会が実施しているワクチン被害実態調査;「副反応被害報告集;愛知県第1集」(2014.10)より:

調査は、薬害対策弁護士連絡会及び薬害オンブズパースン会議の協力のもと、両団体に所属する弁護士による聞き取り調査であり、陳述形式で公表することの承諾が得られた内容のみが集められている。つぎに示すように、いずれも(N-6、N-7番は欠番)、説明が不十分であったと感じているようだ。
N-1番:接種を受ける際に、医師からどのような説明がなされたか、今でははっきりとは覚えていませんが、口頭で、筋肉注射だから痛いよという程度の説明しかありませんでした。本件ワクチンについての有効性や副反応について説明は特にありませんでした。
N-2番:ワクチンの内容や副反応について具体的に説明を受けた覚えはなく、文書を手渡されて読んでおいてくださいと言った感じでした。
N-3番:1回目の接種でも、2回目の接種でも、病院の方から、ワクチンについて何か説明を受けた覚えはありません。
N-4番:病院では、接種前に、製薬会社が作ったと思われる説明文書を手渡されました。それを私と母とで読み、同意書部分にサインしました。やはり副作用等に関する記載は特に記憶に残っておらず、医師からも詳細な説明はありませんでした。
N-5番:A病院では計3回本件ワクチンの接種を受けましたが、そのとき、医師や看護師から本件のワクチンの有効性や副反応について説明を受けていません。事前に裏にワクチン接種についての注意書きがある問診票への記入を求められ、筋肉注射だから痛いということと、接種後30分は病院に留まるように言われただけで、それとは別に本件ワクチンについての有効性や副反応について説明はありませんでした。
N-8番:接種前に聞いたことは、もっぱら子宮頚がんの怖さについての話で、(中略)副反応のことは一切聞きませんでしたし、書面も見せられませんでした。(中略)接種後、パンフレットと説明書を渡され、「よく読んで」と言われました。(中略)説明書には副反応のことも書いてありましたが、1%とか10%とか書かれていても、まさか自分にそれが当てはまるなんて思ってもみませんでした。
N-9番:接種を受けるとき、医師や看護師さんから、予防接種についての説明はとくにありませんでした。予防接種について説明する書類はもらいましたが、何が書いてあったかはよく覚えていません。

「もし副反応(により重篤な健康被害;平岡追加)が出現する可能性があるということを知っていれば、もう少し慎重に接種するかを検討していたと思います」、これはN-4番の陳述である。これが重篤な健康被害にあい、とくにその健康被害が持続している被接種者すべての思いであろう。上述のように、マスコミ報道(2013.03.08)から厚労省の接種推奨取り下げ(2013.06.14)までは、約3ヶ月という短さである。厚労省をこれほど早く動かしたのは、重篤な健康被害者がそれほどに多くいたからだろう。厚労省が現行の安全性監視体制を利用して、重篤な健康被害情報をもっと早く提供できなかったのだろうか、つぎに検討する。

●現行の安全性監視体制: とくに「保護者からの報告制度」と「全例調査」について:

予防接種法に基づく「予防接種に関する基本的な計画」には、二つの副反応報告制度が規定されている。(1)診断した医師等からの報告(「副反応報告」とも「副反応疑い報告」とも呼ばれている)と、(2)「保護者からの報告制度」である。「定期の予防接種等による副反応の報告等の取扱いについて」(2013.03.30)によると、「保護者からの報告制度」とは、つぎのようなものである。
「市町村が被接種者又は保護者からの定期の予防接種後に発生した健康被害に関し相談を受けた場合等には、必要に応じて、別紙に必要事項を記入するよう促すとともに、それを都道府県を通じ、厚労省健康局結核感染症課へFAXにて報告すること」。

薬事法には三つの安全性監視体制がある。(1)副作用・感染症等報告制度、(2)血液製剤等の生物由来製品に対する感染症定期報告制度、(3)承認条件に基づく調査等、である。(3)の「承認条件とは、医薬品の承認後の保健衛生上の観点から必要に応じ承認時に付される条件であり、条件を付された医薬品は、当該条件の履行を前提として承認が与えられる」のであり、その中に全例調査がある。
厚労省は、日本製薬団体連合会への通知「医療用医薬品の全例調査方式による使用成績調査及び市販直後調査に関するQ&Aについて」(2009.09.07)の中で、全例調査が必要とされる場合をつぎのように述べている。「例えば、国内治験症例が少ない/ない場合、重篤な副作用等の発現が懸念される医薬品の場合、承認条件で個々に全例調査の実施を求めることがある」。

これらの安全性監視体制が十分に機能しておれば、薬害訴訟に至ることはなかったのではなかろうか。次稿において、HPVワクチンの製造販売承認から薬害訴訟に至るまで、現行の安全性監視体制がどのように機能したのか、しなかったのかを見ていく。

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