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vol 53 予防接種部会傍聴記(3) 唯々諾々の承認で良いのか

医療ガバナンス学会 (2010年2月17日 11:00)


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細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長
高畑紀一
2010年2月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【ようやく本格的な議論の兆しが見えてきたが…】
2月9日に行なわれた第4回の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会は、それまでの3回の部会とは様相が異なり、予防接種法改正に資する本質を突いた発言が何度もなされた。
前回の投稿「MRIC vol 38 予防接種部会傍聴記~3つの懸念で膨らんだ不安~」で書いたように、これまでの部会では実質的な議論は殆ど交わされなかった。部会のあり方や議事の進め方等で疑心暗鬼や混乱が見られたこれまでの部会から大きく前に踏み出せたとも言えるのだが、事務局が繰り返す「パッチを当てる作業」の内容を大きく変えるまでには至らなかった点は残念でならない。
部会は「事務局提案の速やかな承認」という雰囲気が充満している。速やかな承認を目指すことには異論は無いが、だからといって唯々諾々と事務局案を承認する必要は無い。速やかに成立させることと、事務局案を丸呑みすることは全くの別物だ。議論の結果、事務局の提案がそのまま承認されるということはあるであろうが、結論ありきで議論せずということでは、部会は単なるセ
レモニーと化してしまう。「速やかな成立」を目指しつつ、部会の議論をいかに「パッチを当てる作業」に反映させていくのか、今後の部会長の舵取りに注目したい。

【まずは必要最小限のパッチに留めるべき】
いくつかのメディアが当日の様子を報じており、既にご覧になった方も多いと思われる。全体の詳細についてはそちらに譲るが、私が最も強く印象に残ったのは、黒岩祐治委員の発言であった。
黒岩委員は「(予防接種法は)そもそもシンプルであるべき。定期接種と臨時接種、一類と二類、努力義務と勧奨など、どんどん複雑にすることに疑問を
感じる。根本的議論をするときには、すべてちゃらにして議論する」と口火を切り、その後も何度も本質的な疑問を投げかけた。
特に、メーカーへの協力要請を法に書き込もうということに疑問を呈した上での、「この案は色々書き込みすぎている。前回をどう生かすか。あとは政治の判断。~(中略)~すべて細かく法律に書く必要があるのか」との発言には、傍聴者との立場を忘れ拍手を送りたくなった。
予防接種部会では「特措法で対応した新型インフルエンザ対策の予防接種方への位置づけ(=パッチを当てる作業)」を最優先で行なった上で、予防接種法の大改正をおこなうとしている。しかし、いくら事務局が「とりあえず」と前置きし、パッチを当てた後の予防接種法の大改正に際して議論すればよいと説明したところで、新型インフルエンザ対策が盛り込まれた改正予防接種法は、正当な法律となり前提となる。
その後の大改正論議を限りなくゼロベースに近いラインから行なうためには、前提となる法に余計なことは書き込まないほうが良い。官僚組織は定期的な移動を宿命とするのだから、現在の事務局が遠くない将来に他の部署に移動することは間違いなく、現在の事務局が「とりあえず」と考えている「行間の意」が新たな事務局に引き継がれる保証は無い。むしろ、法に書かれていることが絶対であり、行間に込めた思いは捨て去られる可能性が高いのではないか。

【行間に意味を持たせるな】
例えば事務局案では、ワクチンの製造販売業者や卸売販売業者への協力を求めることができる仕組みを法に書き込むとされているのだが、法に定めなければならない理由が今回の部会でも十分に説明されたとは言い難い。
櫻井敬子委員は「協力を求めることの根拠となる法律があれば楽というのはあるので、書いておいたらよいのでないか」と法へ盛り込むことを是と発言されていたが、必要最小限の改正に留めるべき「パッチを当てる作業」なのだから、「法律があれば楽」という程度の事柄は書き込むべきではない。
ましてや国民(この場合はワクチンメーカーや販売業者)を縛る可能性があるのだから、政府がラクだからという理由だけでは不十分であり、その必要性の吟味は不可欠であろう。「とりあえず」「ラクだから」「後の大改正で見直せばよい」という部会の意図は、法には書かれない。行間に意味を持たせたつもりでも、法となれば明文化されたものが全てである。ましてや「とりあえずパッチを当てる」作業を行なっているのだから、その作業に「行間に意味を持たせる」ことは現に慎むべきではないだろうか。

【解消すべきはワクチン・ギャップ】
努力義務を課すか否かにおいて、山口県健康副支部長の今村孝子委員が「努力義務を課すべき」との住民の講習衛生に携わる行政の現場の声を強く主張されていたが、このような発言が次々に飛び出すような部会であってほしいし、そのような声を「とりあえず」というひと言で切り捨てるべきではない。「パッチを当てる作業」といえども、続く「本格的な大改正の議論」に繋がるものである。唯々諾々と事務局案を承認するだけではなく、予防接種法の大改正を視野に入れ、本質的な議論はどんどん交わすべきであろう。
ワクチン・ギャップはワクチンラグによる不作為の被害~ワクチンで防げる疾病による乳幼児・成人の死亡や後遺障害、健康被害など~を生じ続けている問題であり、その解消は喫緊の課題であることを忘れてはならない。

 

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