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Vol.188 被災地で子どもと親御さんの心に寄り添う ~報告会を開催します!~

医療ガバナンス学会 (2018年9月14日 06:00)


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東京医科大学 茨城医療センター 精神科 科長
福島大学子どものメンタルヘルス支援事業推進室
桝屋二郎

2018年9月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.福島と福島の人々との縁
東日本大震災の発災当時、医療少年院の児童精神科医として管理職をしていた私は、少年院の一部の少年達の故郷の厳しい状況を知り、「故郷を心配しているこの子達は少年院に入っている以上、今ここで故郷には返せない。せめて自分の手で彼等の故郷を見て、支援して、この子達に伝えてあげたい」、この思いで法務省矯正局に交渉して東北の被災地に入りました。福島の沿岸部に入ったのは震災後数週間がたった頃でした。今から思い返しても、支援に入りたての頃は大した支援が出来ていなかったように思います。
ただ発達障害を抱えた子ども達が震災の混乱で不安定になった上に、自治体などが提供する定型的な支援(避難所、住環境、食料、医療、等々)にフィットせず、避難所から出ざるをえないような形で車上避難等を余儀なくされていたことは強烈な印象として残りました。それが動機となって、被災した障害を抱える子ども達とその家族への心理支援を続けることになったのかもしれません。平成26年度からは福島大学において「子どものメンタルヘルス支援事業」の立ち上げに参画することになり、その事業もいよいよ当初の最終年度を迎えています。

2.福島の現状
東日本大震災から7年が過ぎました。自然災害の多い日本ではこの間も多くの災害が起こり、東日本大震災の被害や支援の話題は風化しつつあります。現実に復興や支援のための予算措置も次々に終了しています。しかし現場での支援や調査結果で痛感することは、福島の子ども達を巡る心理的な危機は続いているということです。福島は他の被災地と共通する課題に加えて、原子力災害と放射能不安という大きな要因が存在するため状況はより複雑化しています。近しい人を失う、あるいは家や仕事を失うといった急性的で大きな喪失体験に加えて、避難の長期化・コミュニティの分断や喪失・元の職に戻れない状況・家族の分断・賠償や補償問題・放射能不安・風評被害等々の急性慢性のストレッサーが山積しており、解決も十分ではありません。見通しの立たない状況が今も続いているのです。
避難を強いられている人数はピーク時に比すると減少したものの、いまだ5万人以上の方が県内外に避難を強いられ、この中には約1万8千人の子ども達が含まれています。避難指示が解除され帰還を始めた自治体も出てきたものの、いまだ帰還の目途が立っていない地域が多く存在し、帰還が始まった地域でも放射能不安から子どもの帰還をためらう家族は多く、状況は混沌としています。帰還困難な地域においては「町や家々は一見したところ何も損傷していない、にもかかわらず帰還はかなわず、故郷や自宅の緩慢な荒廃が進んでいく」というまさにBossの提唱した「あいまいな喪失」状況が出現しています。

2.福島の子ども達を取り巻く現状
そして放射能不安もいまだに間違いなく県内の母子に暗い影を落とし続けています。心配することはないという発表や報道の一方で発がんリスクへの不安を煽るような意見表明や報道が、減りはしたものの続いていることも事実です。このような状況下の子ども達、そして保護者達の不安は言うまでもなく、「将来、子を産めるのか、結婚できるのか」と真剣に悩む女子生徒や、「福島に子どもを置いていることが果たしてよいのであろうか」という漠然とした不安やある種の罪悪感を抱く保護者はいまだ多い状況です。そして様々な理由で、多くの人がそれらの不安を吐露できないでいます。
福島における大人のメンタルヘルスは厳しい状況が続いており、県内におけるアルコールやギャンブル依存、うつ病や抑うつ状態、自殺件数、などの増加が指摘されています。そして養育者たる大人達のメンタルヘルスの悪化、コミュニティの分断と破壊、避難の遷延などの具体的な数値化や表現が困難な県内のある種の「落ち着かなさ」、こういった要因は養育される側の子ども達にも直接間接の影響を及ぼし続けています。子ども自体の指標としても児童虐待(特に沿岸部)や不登校の増加など、一部指標にもそれらは表れています。特に福島における高校生の不登校の増加は特筆すべきものとなっています。
この背景には、震災後のさまざまなストレス状況で、小学校・中学校で頑張り続けてきた(ある種の過剰適応をしてきた)子ども達が義務教育を終えて、支援の手が薄くなった高校で、いわば電池切れを起こしているような状況で心理的危機に陥っていることがうかがわれます。これは不登校とも関連する子どもの自殺などにも波及しており、早急な対応が望まれます。このように子どものメンタルヘルス支援を考える際には、常に育む側の大人のメンタルヘルス支援の充実もセットにして考えなければならず、当たり前のことですが保護者の笑顔を取り戻せないと子どもの笑顔も取り戻せないということになります。

3.子どもの心に寄り添う支援に重要なこと
子どもは「頑張る、時として頑張りすぎる」存在であるということです。「過剰適応」と呼ばれますが、子どもは「心配をかけたくない」とか「よく見られたい」とか「誉められたい」・・・そういった理由で頑張る、そして時として頑張りすぎてしまいます。そして頑張ってしまっていると周囲の大人たちは「元気だ。大丈夫だ」と判断しがちになります。でも実際には傷ついて癒しや支援が必要にもかかわらず頑張っている子どもも多いことを忘れてはなりません。このような子ども達を支援の網から漏らさないことを心がけていきたいものです。そして、子ども達や親御さんが「こういった支援をしてくれるなら、安心して、信じて、自分も一緒に頑張ってみよう」と感じてもらえるような支援がベストな支援なのです。

4.告知
これまで私達「福島大学子どものメンタルヘルス支援事業推進室」が行ってきた支援と調査から浮き彫りになった実態と課題を報告するの活動報告会(以下のHP内のURL参照)を来る平成30年9月22日(土)に東京・新宿の東京医科大学病院にて開催します。当室が福島を担当している、被災地域の子どもと親御さんへのメンタルヘルス支援とコホート調査をセットにした「みちのくこどもコホート(以下HP参照)」の調査結果から浮かび上がってきたこと課題や今後の支援継続の重要性についても報告する予定です。我が国の発達障害分野での第一人者である内山登紀夫先生や黒田美保先生の報告を含め、様々な報告やディスカッションを行います。どうかお近くで御興味御関心のある方がいらっしゃいましたら、御紹介・告知・拡散の程、何卒よろしくお願いいたします。参加御希望の方はHPにありますPDFにてFAXをいただくか、HP内の参加申し込み用のメルアドがございますので、御連絡をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

☆「福島大学子どものメンタルヘルス支援事業推進室」HP

http://cmhc.net.fukushima-u.ac.jp/

☆同報告会URL

http://cmhc.net.fukushima-u.ac.jp/news.html?id=17

☆みちのくこどもコホート HP

http://www.miccageje.org/index.html

☆当室とコホート調査の記事

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180402-OYTET50023/

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