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Vol.196 私を成長させてくれたモノ~大学院での2年間を振り返って~

医療ガバナンス学会 (2018年9月27日 06:00)


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保健師・看護専門学校非常勤講師
白井 薫

2018年9月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

はじめに

私は、看護専門学校の非常勤講師をしています。2年前の春、星槎大学大学院に入学した私は、この春、大学院を卒業し、「修士(教育)」の学位をいただくことができました。母親・働く女性・大学院生と「三足のわらじ」を履きながら卒業まで頑張れたのは、私の「学び続けたい」気持ちからだと思います。私は、高卒社会人3年目で保健師を目指し、保健師として勤務して3年、父の看病で退職しました。その間、大学への憧れから通信教育で栄養学を学びましたが、重度知的障がいを持つ息子の療育で退学しました。
息子に向き合い続けること7年、息子の成長の兆しが見え始めて、再入学した私は、子どもの発達を学ぶために児童学科に転専攻し、卒業しました。先輩保健師の勧めで看護学校の非常勤講師も始め、学生に支えられながら10年余りが経ち、私は「学ぶ喜びを看護学生に伝えたい」という思いが強くなっていました。大学院に入学した当時の私は、2つの期待を寄せていました(http://medg.jp/mt/?p=6752)。それは、(!)「絵本の読み聞かせ」が学生にどのような影響を与えているのかを明らかにすること、(2)今よりもっと学生に学ぶ喜びを伝えられるような教員になること、でした。大学院を修了し、半年経過した今、ここでは、その2つについて順に振り返ってみたいと思います。

1.「絵本の読み聞かせ」が学生にどのような影響を与えているのかを明らかにすること

まず、1つ目の期待についてです。私は、高校を卒業して、3年間の建設会社での事務職を経て、3年制の看護専門学校、後続の1年制の保健師学校を卒業して、看護師と保健師の国家資格を取得しました。それから、通信制大学(家政学部児童学科)で「家政学士」の学位をいただきました。重度の知的障がいがある長男が、その子なりにゆっくりと発達していく様子を見ながら、子どもについてもっと深く学びたいと思ったことが児童学科に進んだ理由でした。児童学科では多くの科目を履修しましたが、そこで「絵本の読み聞かせ」との出会いがありました。「幼年文学」という科目の講義(通信教育ではスクーリング)で、「おおきな木」という絵本の中での「子どもと大人の物語のとらえ方の違い」を教わりました。
当時の私は、子どもと大人で絵本の物語のとらえ方にそんなに大きな違いがあるとは思っていなかったので、その講義で深く感銘を受けました。そこから、専門学校で担当する小児看護学概論(1年生が対象)の中で、「絵本の読み聞かせ」は看護学生に「子どもの発達」を教えるとても有効なツールなのではないかと考えて、早速自分の講義に取り入れてみました。「大人と子どもはこんなに感想が違うことに驚いた」、「自分も昔は子どもだったのに、子どもの頃の気持ちを忘れてしまっていたことに今回の授業で気づけて良かった」など、講義での絵本の読み聞かせへの学生の反応はとてもよいものでした。こうして、大学院入学前から「絵本の読み聞かせ」を研究課題にしたいと思っていた私は、大学院の2年間で「絵本の読み聞かせが看護学生に及ぼす影響の検証~小児看護学概論における子ども理解と絵本~」というテーマで研究に取り組みました。

この研究では、3学年の看護学生へのアンケート調査と、絵本専門士1名、小児科看護師1名へのインタビュー調査を行いました。アンケート調査からは、私の「絵本の読み聞かせ」を用いた講義を受講した学生は「絵本へのポジティブなイメージ」を持ち続けていたことがわかりました。その講義では「子どもと大人の絵本のとらえ方の違い」の理解を強調するために、「子どもは小さな大人ではない」ということをキーワードにしていましたが、3年生は、進級とともに自分の経験や知識を上塗りしてそのキーワードに含まれる概念を再構築しており、実習で子ども理解が深まり、「子どもの立場で考える」ことができるようになっていました。また、小児科看護師へのインタビュー調査から、このキーワードは3年生が実習を振り返るという点でも意義があることが明らかになりました。また、絵本専門士からは、学生が「子どもと大人の絵本の見え方の違い」という新たな尺度を獲得できる可能性を考えて、「文字のない絵本」を講義で用いることを提案されました。そして、小児科看護師からは、絵本以外に臨床現場で役に立つスキルとして「折り紙」と「あやとり」が大事だと教わりました。
こうして、私がこれまで行ってきた「絵本の読み聞かせ」の講義の意義が学生による授業評価を通して確認できましたが、その授業評価を見た各領域の専門家の意見をもらい、「絵本の読み聞かせ」を取り入れた小児看護学概論のこれからの新たな方向性と可能性が示されたことが私にとっての大きな収穫でした。講義の中での「絵本の読み聞かせ」に受講直後の1年生は肯定的な反応を示していましたが、最終学年の3年生まで絵本へのポジティブなイメージを持ち続けられるのか、この研究をするまで私は自信が持てませんでした。しかし、アンケート調査から、1年生だけでなく進級した2、3年生も「絵本へのポジティブなイメージ」を持ち続け、「子どもと大人の絵本のとらえ方の違い」を理解していたことがわかり私はとても安心しました。一連の研究を通して、私の「絵本の読み聞かせ」の看護学生への影響を客観的に明らかにできたことから、大学院での1つ目の期待は十分に達成することができました。

2.今よりもっと学生に学ぶ喜びを伝えられるような教員になること

そして、2つ目の期待についてです。この春、大学院を卒業した私は5月から7月までの間、看護学生に「在宅看護論概論」の講義をしました。研究テーマにした「小児看護学概論」とは違う科目ですが、この講義を通して私は自分の教員としての成長に気づくことになりました。
まず、事前に講義の組み立てを考える時に、「学生に何を教えたいか」よりも「どうすれば学生が講義を楽しいと感じてくれるか、私が教えた内容をどのように受け止めてくれるか」を優先していることに気づきました。以前の私は「学生に何を教えたいか」を最優先に考えていました。教員である私が学生に何を伝えるかを決めることが、それまでの私の講義スタイルだったのかもしれません。大学院を卒業して、私自身が学生の立場に立ち、まず学生の学びを大切にしようと考えている自分の変化に驚きました。
また、学生の反応を見て自分の講義の内容をマイナーチェンジして、学生の興味を惹くように工夫するようになったことにも気づきました。「この講義自体に思うことがあれば、どんどん私に投げかけてくださいね。この講義は私と皆さんで作り上げていくものだから」と、私と学生の両者がこの講義を作り上げているのだと学生に自覚してもらうように仕向けることも、これまでの私にはあまりなかったことでした。これは、大学院のスクーリングでの学びや、研究発表会で「どう説明すれば、この会場の人に私の考えが上手く伝わるだろうか」を常に考え模索してきた中で培うことが出来たモノだと実感しています。
この一連の講義を終えて、学生から嬉しい感想をもらいました。「先生が講義でしてくれる例え話はとても分かりやすかったです」、「在宅看護には全く興味がなかったけれど、先生のおかげで興味が持てました」、「先生の講義を受けることが出来たことは私がこの学校に入学して良かったと思うことの1つです」など、学生からの言葉の贈り物に胸が熱くなりました。学生からこのような感想をもらえたということは、2つ目の期待も達成できたのではないかと思います。

3.最後に

私が2年の間大学院で学ぶことを強く支えてくれたのは家族の存在でした。大学院の受験を迷っていた時も「受験してみれば」と言ってくれたのも夫でした。そして、大学院入学後も私がスクーリングや研究発表会で家を留守にする時も、休日は重い障がいのある長男の世話を夫がしてくれました。私が安心して大学院の学習に打ち込めたのも夫の全面的なサポートがあったからだと思っています。そして、次男も私がレポートや論文を書いたり、研究発表会のスライドを作ったりしていると興味深く覗き込んでいました。そして、時には夫と次男が私の研究発表の内容を聞いてくれてアドバイスをくれたりしたこともありました。この家族の支えは私にとって大きな力になりました。そしてそれが卒業への推進力になっていたことは間違いありません。
また、先生方や他学年の大学院生の皆さんからたくさんのことを学ばせていただき、また同期のみんなにも支えられ、大変な中でも刺激を受け、私にとってのこの2年間はとても充実していて「新たな学び」を多く得られたワクワクした2年間でした。大学院という場所が、私にとって「楽しく学べた場所」だったからこそ、私自身が卒業後に、看護学生と過ごす自分のフィールドに戻ってからも、看護学生に「学ぶ喜び」を伝えられるほどに私を成長させてくれたのだと思っています。
大学院での学びを今後も私の中で大切に育てていきながら、これからも「看護学生に学ぶ喜び」を伝えられるように頑張っていきたいと思います。

【参考文献】
白井薫.障がいのある子どもを育て、仕事をして、さらに大学院で学ぶことの意味 ~学ぶ喜びを看護学生に伝えたい~.MRIC.2016.05.27.http://medg.jp/mt/?p=6752(2018.9.12閲覧)

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