医療ガバナンス学会 (2018年10月1日 06:00)
この原稿はAERA.dot(8月22日配信)からの転載です。
https://dot.asahi.com/dot/2018082100008.html
森田麻里子
2018年10月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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予防接種は、子育てをする上で避けて通れないものです。赤ちゃんのうちは本人もわけがわからない間に終わっていましたが、息子も1歳を過ぎてだいぶ理解力が増し、注射後になかなか泣き止まないかもしれない、などの心配もでてきました。親として、どう対応してあげるのが良いのでしょうか?
薬物を使わない注射の痛み対策については、実は研究も行われています。最も効果が高いのは「痛みから気をそらす」ことです。
例えば、2002年にウエストバージニア大学の研究者が発表した論文があります。予防接種を受ける3カ月~2歳までの子ども90人を2つのグループにわけ、一方のグループでは処置中に幼児向け番組のビデオをみせたり、おもちゃを使うなどして、注意をそらすようにしました。すると、注意をそらさなかったグループの客観的痛みスケールは3.33満点中1.99点だったのに対し、注意をそらしたグループは1.56点と、有意に低下していたのです。
最近では、VR(バーチャル・リアリティ)を使った研究も増えています。2017年のロサンゼルスこども病院の研究では、採血を受ける10~21歳の患者143人を2グループにわけ、一方のグループには処置中にVRを装着してもらいました。VRの内容は、首を動かすことでカノン砲の向きを調整し、くまのマスコットを倒していくというゲームです。処置の痛みを評価する数値を調べると、VRを使わなかったグループは10点満点中1.9だったのに対し、使ったグループは1.7と有意に低いという結果になりました。
私も医療用VRを体験する機会があったのですが、VRは視野全体が画面になり、首を動かすと見える風景が変わっていきます。ただビデオを見るのとは全く違い、確かにその世界に入り込んでいるような感覚がありました。
特に幼稚園から小学校くらいのお子さんはVRのゴーグル自体にも興味を持って、「これは何?」「つけてみたい!」と積極的です。ゴーグルをつけてしまえば処置の様子も見なくて済みますし、子どもの気をそらすにはぴったりのツールだと感じました。広く使われるようになるのはもう少し先かもしれませんが、日本でも、すでに歯科医院等で試験的に使われているようです。
■注射のときに子どもにかけてあげたい「言葉」
とはいえ、低月齢の赤ちゃんだと、注意をそらすのは難しいことがあるかもしれません。実は、6カ月までの赤ちゃんには砂糖水やおしゃぶりも有効と言われています。
2003年のピッツバーグ大学の研究では、予防接種を受ける生後2カ月の赤ちゃんを2グループに分け、一方のグループのみ、注射の2分前に25%の砂糖水を与え、注射の間は親が抱っこしておしゃぶりをくわえさせました。すると、何もしていないグループは最初に57.5秒間泣き続けたのに対し、砂糖水やおしゃぶりを使用したグループは19秒でした。処置の直前に25%砂糖水を2ml程度飲ませたり、砂糖水をつけたおしゃぶりをくわえさせたりすると良いかもしれません。
子どもへの声かけは、どんな内容がいいでしょうか。
1989年に発表されたアラバマ大学の研究では、23人の子どもが骨髄穿刺や腰椎穿刺を受ける際の会話を録音し、声かけの内容によって子どもの反応がどう変わるかを調べました。すると、「大丈夫、心配することはないよ」といった安心させようとする言葉や、「赤ちゃんみたいに泣くのね」などの批判は、子どもの苦痛につながることがわかりました。一方で、「今日は学校で何をしたの?」と気をそらしたり、終わった後に「じっとしていて偉かったね」と具体的にほめたりするのが良いようです。
また、小学生以上の子どもでは、処置の内容や、処置を受けることでどんな感覚がするかについて、具体的に説明することも大切です。注射や採血などの小さな処置であれば、当日になってから説明することで不安を最小限にすることができます。
いかがでしょうか? 予防接種や注射などの処置は、親にとっても不安なものだと思います。年齢ごとに適した対処方法を知って、自信を持って対応することが、お母さんお父さんご自身や、お子さんのストレス軽減につながりますよ。
◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表