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Vol.203 製薬会社から医師への資金提供とは(下) ~なぜ、透明化が必要なのか~

医療ガバナンス学会 (2018年10月5日 06:00)


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内科医 谷本哲也

2018年10月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

まとめ

1.製薬会社は薬の宣伝を目的の一つとして、多くの資金を講師料などで医師へ提供している。国民皆保険の元、資金の源は国民の税金にある。

2.合法な資金提供でも、医師の判断に影響を与え、不要な処方の増加などにより、患者さんや社会への不利益に繫がる可能性はある。

3.節度ある資金提供の実現には、実態の透明化・情報公開が必須だが、日本では未だ不十分であり、国民みんなで声を上げる必要がある。
*本稿は、2018年8月25日に開催された、特定非営利活動法人ワセダクロニクルと特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所が主催した緊急シンポジウムでの発表を元に作成しました。

http://www.wasedachronicle.org/event/c16/

(上http://medg.jp/mt/?p=8547、中http://medg.jp/mt/?p=8572から続く)

5.資金提供の透明化の世界的流れ

製薬会社の営業活動の背景についてご説明しましたが、当然、自社の薬を自分で説明する、ということはやっています。私の会社の薬には、こんなデータがあって、こんなエビデンスがあります、という風に、製品説明会やホームページでは当然その情報を提供しています。ただし、自分でやっているだけでは、なかなか忙しい医師に興味をもってもらえないし、自画自賛しているだけではないか、という疑いの目でみられてしまう可能性もあります。そこで、自分の会社以外の、他のお医者さんから、学術的な講演会やシンポジウム、出版物やガイドラインで、周囲からの評判、評価の形での宣伝も含んだ情報提供が必要になってくる訳です。

これを分かりやすく、私自身に置き換えて例えてみるとこうなります。私が本当に信頼出来る内科医なのか、皆さんどう判断されるでしょうか。私が自分で、私は一流大学を卒業して、有名病院で研修した優秀な医者です、論文も書いて勉強もよくしています、とか言って聞いてもらえるでしょうか。もし、そんな自己アピールばかりやっていたら、かえって嘘くさいですよね。そこで、客観的な権威による裏付け、例えば、何とか学会専門医という資格に頼ったりする訳です。これは見方によれば、免状ビジネスに乗っかって、学会員資格の為に何万円も払って、権威による評判を購入しているという形になります。さらに、もしかしたら、皆さんに食事をご馳走したり、お金を払って私の良い評判をあちこちで出してもらうよう企んだりするかもしれませんし、権威のある有名人が褒めてくれるなら大金だって出すかもしれません。

しかし、お金を払って、特に誰にも分からないように裏で大金を払って買った評判は、本当に信用できるでしょうか。私のことを名医であると、マスコミで有名人が太鼓判を押しても、もし私がその人に裏で100万、1000万円を払っていることを知ったら、皆さんどう思われますか?嘘は言っていなかったとしても、話を額面どおり真に受け取らず、慎重に考えると思います。また、宣伝する方も、大金をもらった上での発言だということがみんなに知られていたら、恥をかかないように誇大広告は避けるようになると思います。製薬会社から医師への資金提供の情報公開、透明化が必要なのは、こういう例えだと少し分かりやすくなるのではないでしょうか。

実際、製薬会社から医師への資金提供が公開されないことで、過去に大問題が起こったことがしばしばあります。アメリカでは、医師が会社の株を所有した上で、その会社の薬を成功させるために、副作用があるにもかかわらず、無理に薬を使って患者さんを死亡させる事件が起こり大騒ぎになりました。この事件を契機に資金提供の透明化、利益相反の開示の話が進み、2010年には医療制度改革法のサンシャイン条項という法律が制定されました。
この法律では、医者が製薬会社から1000円程度でも受け取ったら、それを公開しなければならず、かつその情報はインターネットで簡単に検索できるデータベース上で、誰でもすぐ調べられる状態になっています。サンシャイン条項の導入が医療業界に果たした影響については、コンセンサスはまだ得られていないと思います。しかし、このデータを用いた研究も数多く出版されており、少なくとも、データ公開をすべきで無かったとか、この条項は誤っていたという議論は出ていない筈です。日本ではまだアメリカまで進んだ状況にはなっていませんが、それを日本でも導入出来ないか、というのが、今私たちが取り組んでいることになります。

その背景として、日本でも医学史上まれに見る製薬会社の不正事件が立て続けに起こり、世界中で大きく取り上げられたことがあります。その一つが2012年前後から問題となり始めた高血圧薬の臨床研究不正事件です。ある高血圧の薬は、血圧を下げるだけでなく、脳梗塞や心筋梗塞の予防にもなる、ということで大ヒットし、日本だけでも1兆円以上売り上げられました。その根拠をEBMとして示した研究は、世界的な医学雑誌ランセットに日本の大学から発表され、当初は利益相反なし、つまり製薬会社からの金銭的な繋がりはないことになっていました。ところが、研究のデータがそもそもおかしいのではないか、という話が出始め、詳しく調べると、製薬会社からの金銭的な繋がりが隠されていたことが分かりました。その上、製薬会社の社員がデータの不正操作に関わっていたことまで分かり、論文のデータ自体が嘘だと判明し、とうとうその論文はランセットから取り消しの扱いになりました。

この事件は新聞や雑誌、テレビでも取り上げられ、ご存知の方も多いと思います。世界的にも大変な注目を集め、私もこの問題をイギリスの科学誌ネイチャーで論じたり、アメリカの科学誌サイエンスから何度もインタビューを受けたりしました。それだけ衝撃的な事件だったのですが、この事件が巧妙なのは、被害者が明確でないことです。これまであった薬の事件は、薬害事件といって、薬の副作用で体に問題が生じた患者さん、という被害者が明確でした。ところが高血圧薬の不正事件の場合は、他の薬では脳梗塞になる可能性が100人のうち10人だったのが、半分の5人に減る、という具合のデータの部分が嘘だったのです。この事件はまだ裁判で係争中ですが、一審では無罪とされています。誰が被害を受けたのか法律的に立証しづらいこともあるかもしれません。しかし、はっきり分かったのは、論文で発表された情報が、薬の宣伝効果として非常に売上に貢献したことです。

実際、共同研究者の森田知宏医師が事件前後の処方の動きを検討したところ、同じような薬が沢山あって各社が競合していたのですが、不正問題が判明した2社の薬の売上が如実に落ちて、他社の薬の売上が逆に伸びたという結果が出ています。これは見方によれば、どの薬を使っても似たり寄ったりだったので、薬の宣伝効果によって、売上が支えられていたという事実を示していると考えています。被害者は、必要以上に高価な薬を買わされた、国民皆保険で保険料を払っている国民なのでしょうが、製薬会社からの資金提供に問題があると、国民全体では何千億円もの被害を被る事態も起こり得るのです。

このような経緯もあって、日本でも臨床研究法という法律が2017年4月から制定され、簡単にはインチキが出来ない仕組みになりました。同様に、利益相反、資金提供の透明化、情報公開の取り組みも、だんだん日本でも進歩して来ました。その中で出て来たのが、今回我々が取り組んでいる、製薬会社から医師への資金提供の調査という訳です。

6.ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所の取り組み

透明性ガイドラインに基づいて、2013年から日本製薬工業協会に所属する各社が、自主的に医師への支払いの公開を始めています。しかし、飽くまで業界の自主努力としてやっているだけで、公表の方法はまちまちです。アメリカのように、データベースが整備されていて、一発で欲しい情報が検索できるようなシステムには、勿論なっていません。

会社へ訪問して閲覧しないと見られないようにしていたり、ネット上で情報公開していてもコピーやダウンロードが出来ないようにしていたり、という状況です。さらに、ほとんどの会社がデータの利用を禁止する条件をつけています。つまり、外から言われて渋々公開は始めたものの、本音ではあまり見せたくない、見て欲しくない情報だということがよく分かります。また、原稿料、講演料、コンサルタント料は個人毎に分かるものの、飲食費や旅費宿泊費支給といったものは個別公開されていません。個人への支払いは減らし、第三者の臨床研究組織などを通して迂回させる形で資金提供する手法が増えているようですが、この実態もまだ明らかにはなっていません。

さらに、医薬品は公開されているだけまだいい方で、医療機器に関しては何も分かりません。各種メディアにも、大手マスコミから医療系も含め、製薬会社からの資金がいろいろな形で入っていますが、その金額や実態も不透明なままです。ワセダクロニクルが調査報道としてこの問題に乗り出したのも、資金提供があるマスメディアでは製薬企業側に忖度して、敢えて批判的な報道を行わない、というメディア業界の事情もあるようです。

アメリカでは日本よりも、医師への資金提供に関する情報公開の度合いが進んでいます。データの入手や解析が容易に出来ることから、その実態解明や処方への影響に関する研究が進んでいます。例えば、アメリカの研究では、医師の処方は、製薬会社からお弁当をもらっただけでも変わってしまうという結果が示されています。では、日本ではどのような状況にあるのか、きちんと調査してみようということで、私たちの取り組みが始まっています。

研究の中心として、共同研究者の尾崎章彦医師と齋藤宏章医師が分析を進めており、データ量が膨大なので様々な調査研究が可能ですが、その一例を示します。日本では臨床医学関連の学会が現在378個もありますが、そのうち代表的な学会、日本内科学会や日本外科学会など19個選び、その幹部405名について分析を行いました。その結果、2016年度では学会の幹部の86%が製薬会社からの謝金提供を受けており、全体の額は3億2千500万円、受取額の中央値は83万円、上位10%の医師に46%のお金が集中していました。専門の種別ではやはり薬の処方量が多い、内科、泌尿器科、皮膚科の医者が多くのお金を受取っていました。

この結果は英語論文として発表予定ですが、既に米国の有名医学誌から出版に向けて好意的な返事を頂いており、最後の詰めを行っている段階です。同じような分析を、今後もいろいろな角度から進めて行きます。さらに、このデータベースはワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所の関係者だけで使うのではなく、広く公開してアメリカのように多くの人が閲覧出来る形にまで持って行こうとしています。本来であれば、このような作業は公的機関や業界団体が主導して積極的に行うべきもので、近い将来にはきっとそれが実現すると信じています。

以上、製薬会社から医師への資金提供は、どのような背景でなされるのか、さらに何故その透明化、情報公開が必要なのかを、私なりに解説させて頂きました。人間は権威を好み、医者もその例外ではないと最初に申し上げました。これは人間の性だと思いますが、私が指摘したいのは、権威が言っているからといって、それを闇雲に頭から信じず、少し立ち止まって自分の頭で考えた方がいいのではないか、ということです。資金提供が透明化され、情報開示が進むことで、権威がどういう立場で発言しているのかが分かり、皆さんそれぞれが自分で判断できる材料になります。私たちは、その判断材料を手軽に入手できるような世の中にしたいと考えています。

歴史を振り返ってみても、情報公開、透明化は世の中のあり方に変革をもたらします。キリスト教を例にとれば、15世紀までは高価な手書きの写本を読めるカトリック教会が、絶対的な情報と権力を握って一般大衆を支配していた訳です。それが印刷技術の普及により、大衆でも印刷物が安価に入手出来るという情報革命が起こり、宗教改革から近代化に結びつきました。
現代の情報革命は、勿論インターネットと人工知能です。グローバル化が進み、瞬時に海外の専門情報が入手可能となり、今後自動翻訳が洗練されることで言語や国境の壁も低くなって行きます。今のように日本の学会、大学や役所が、国内で日本国民にだけ威張っている状況は変化せざるを得ないでしょう。カトリックが何百年経ってもなくならないように、権威が人間社会から無くなることはないでしょうが、情報公開が進むことで、一人一人がより良く自分で考えられる時代が来ると思います。情報公開、透明化が一層進むことで、製薬会社から医師への資金提供も、より節度のあるものに進化することを期待しています。

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