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Vol.202【Dr.久住対談】元全日制・通信制高校校長・鈴木朝雄さん(前編)-10代の性の現実、追いつけない教育現場-

医療ガバナンス学会 (2018年10月4日 06:00)


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この原稿はナビタスクリニックOfficial Blogからの転載です。

https://navitasclinic.jp/archives/blog/1128

鈴木朝雄
久住英二

2018年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

文部科学省副大臣政務秘書官を経て高校の校長を務めた経験のある鈴木朝雄さんと、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師の対談、前編です。

【まとめ】
☆高校生の性の実態とかけ離れた性教育の現場。具体的な避妊の方法には触れず、うやむやにする姿勢に、高校生はシラケるか、騒ぐか、うつむくか。

☆子供たちは共感を求めている。しかし親も学校も、相談相手にも受け皿にはなっていない。妊娠してしまった生徒は、自主退学の形で体よく追い出される。

☆10代の女の子たちが毎日40人、人工中絶手術を受けている現実。ヤミ中絶を含めたら年間数万件? 1粒のアフターピルで回避できるなら、それは正しい判断。

鈴木朝雄さんは、全日制・通信制高等学校の校長として、今どきの高校生の性の実態を目の当たりにし、彼らと向き合ってきた経験を持ちます。一方、久住英二医師は、医師としての信念から、先日、緊急避妊薬(アフターピル)のオンライン処方に踏み切りました。今回はそんな2人の対談です。

●性行為、性交、セックスという言葉もNGの性教育に、シラケる高校生たち●

<久住>
鈴木さんは、文部科学省で副大臣政務秘書官を務めた後、全日制と通信制の高校の校長に就任されたんですよね。

<鈴木>
はい。経営陣は当初、ラ・サールに匹敵するような進学校にしたいと意気込んでいました。それでもやはり現実は厳しかったですね。私自身は、偏差値うんぬんよりも、生徒たちと真摯に向き合おう、同じ目線で話をしたい、そういう思いで校長をお引き受けしました。

実際、やんちゃな生徒も大勢いました。ですから性教育も、きれいごとではなくて、必要に迫られたというのが本当のところです。

<久住>
高校生の性の実態をつぶさにご覧になっていた、ということですね。今の性教育がいかに彼らの現実から乖離しているかも、痛感されたでしょうね。

<鈴木>
性行為、性交、セックス、といった言葉は使えないんですよ。じゃあ、何を教えるんだ、何のための性教育だ、という話です。高校生は普通に使っている言葉ですからね。

その高校では元々、性教育に関しては講師を派遣してもらっていました。教えられる先生がいなかったんです。ところが、その内容に愕然としました。男女を同じ場所に集めて、おしべとめしべの話から始めたのです。

一応、コンドームは見せます。でも、見せるだけ。あとはうやむやにしてしまう。

<久住>
コンドームなんて、コンビニに行けばいくらでも売っていて、簡単に手に入るのに、その具体的な使い方は教えないんですね。

<鈴木>
ええ。リアルな妊娠や避妊の仕組みは教えてもらえない。生徒としては、シラケるか、騒ぐか、うつむくか。カオスですよ。

●自分より“経験値”の低すぎる先生たちに、シンパシー(共感)は感じられない●

<鈴木>
学校での性教育がうまくいっていないのは、そもそも先生たちと生徒たちの“経験値”が違いすぎるからです。これだけインターネットで情報を容易に入手できる時代、下手したら生徒の方がうわてですから。

当校にもいましたが、中学高校の先生になるような人は、学生時代から真面目一筋、勉強大好き、むしろ遊んでいる同級生を軽蔑している、みたいな人が多いんですね。学校もそういう真面目な先生を採用したい。

すると当然、彼らが自分たちの高校時代を前提にしても話が通じないし、何よりそういう先生に生徒はシンパシー(共感)を感じられない。

<久住>
学校教育の内容を考えるのも、実際に教育現場に立つのも、いわば社会の“上澄み”の人たちですからね。

<鈴木>
そう。誰も生徒たちのリアルな性を知らないし、避妊のリアルな仕組みを教えるわけでもない。結局、セックスをしてはいけない、と繰り返すだけで、高校生が必要とする知識は何も与えない。

<久住>
全てにおいて、リアリティが欠如している、と。

●正しい性教育をしないまま、妊娠したら放り出す学校――公然マタハラですよ●

<鈴木>
案の定、私の高校でもすぐに職員室を騒然とさせる出来事が起きました。女子生徒が妊娠したのです。話を聞くと、「恥ずかしくて相談できる人がいなかった。気づいたら妊娠していた」と言うのです。

<久住>
正しい知識を持った人と、話せる関係性が築けていなかった。その受け皿もなかったのですね。

<鈴木>
女子も男子も、子供たちは共感が欲しいのです。でも、親に言えば怒られる、学校に言えば退学になる、と思っている。

<久住>
正しい性教育をしないでおいて、妊娠してしまったら学校は放り出す。

<鈴木>
ここだけの話ですが、多くの学校では妊娠したら、別の病気になったとか、本人都合とかいう形で、体よく自主退学へと仕向けます。今ではさすがに退学という学校は減りましたが。

産んだ後のことも考えれば、乳幼児を受け入れる環境に学校は作られていない、妊娠しているからという理由で授業等の特別扱いは出来ないと言われると、結果退学せざるを得ない。そもそも学校は評判を気にして妊娠の事実は葬り去るんです。

<久住>
学校でなかったら「マタハラ」(マタニティ・ハラスメント)と言われてもおかしくないですね。

<鈴木>
そうです。単位不足を大義名分とした、公然マタハラですよ。だから私は言いました。うちの高校は、あなたが妊娠したからといって退学にすることはありませんよ、色々な対策を考えて単位が取れるようにしましょう!と。

別のケースで言えば、暴力沙汰を起こして補導されたとしても、退学にはしませんでした。ちゃんと刑罰を科せられた人が、二重に罰を受けるのはおかしいですから。実際当校には保護観察中の生徒が数名いましたが、無事卒業できるように一緒にがんばりました!

●避妊は「悪いこと」じゃない。アフターピルは、中絶をしないための素晴らしい判断●

<鈴木>
私は、中絶は、できればしない方がいいと思っています。2016年度の20歳未満の人工中絶件数は、年間約1万5千件に上ります。10代の女の子たちが毎日約40人、人工中絶手術を受けている計算です。

<久住>
公式にはこの数だけですが、実際にはもっと多いという話もありますね。

<鈴木>
ええ。ヤミ中絶ですね。一定の妊娠期間を過ぎると、法的には人工中絶手術はできません。母体保護の観点ですよね。でも、世の中には法を犯して手術をしているところもある。

<久住>
それを含めたら、10代の中絶件数は数万に上るかもしれませんね。

<鈴木>
もちろん、中絶しないでみんな産めばいい、と言っているわけではありません。中絶が時期的に間に合わず、中高生で子供を産んで、育てられないから児童養護施設に預けるしかない、というケースはたくさんあります。最悪のケース、トイレで産んでコインロッカーというのもあります。

だったら、そもそも妊娠しなければいいんですよね。1錠のアフターピルで妊娠を回避できるなら、それが一番いい。

<久住>
ところが教育現場では、「妊娠しないために、避妊しましょう」ではなくて、「妊娠しないためには、そもそも婚前交渉しなければいいのです」という考え方が、真顔で唱えられています。国会議員の女性にもいますよね。結婚するまで貞節を守っていれば、子宮頸がんにだってかからないわよ、みたいなことを平気で言っちゃう人が。

<鈴木>
性交渉の低年齢化から目を背けたところで、解決にはなりません。公的機関の調べによると、性経験のある人の割合は、中学生では女子は20人に1人、男子は25人に1人で、それが高校生になると女子は4人に1人、男子は7人に1人と激増します。

中学生で現実に則した性教育を受けないまま、高校生になって爆発的に経験者が増え、妊娠リスクが一気に増すのです。

<久住>
その現実に教育が追い付くしかない。望まない妊娠を回避する具体的な方法をもっときちんと教えるしかないんです。コンドームにしても、アフターピルにしても。

ナビタスクリニックにアフターピルをもらいに来た人が、「すいません、こんなことで受診して」っておっしゃっていたんです。いえいえ、堂々と来てください。避妊は悪いことなんかじゃありませんから。

<鈴木>
そうです。むしろ、中絶しないための手段をとったあなたの判断は素晴らしい、と言いたいですね。

【続く】

鈴木朝雄(すずき・ともお)
東京農業大学卒業後、北海道にて大規模酪農牧場長を経て、畜産コンサル会社設立。その後新宿4丁目にて、インディーズレーベル・芸能プロダクション会社経営、レストラン、バー、クラブ、ライブハウスを開店。実兄の参議院議員選挙に関わり、参議院議員公設秘書、文部科学省副大臣政務秘書官を務めた後、私立高等学校(全日制・通信制)校長を歴任。現在、一般社団法人理事、保護司として、青少年非行・元受刑者の更生に関わる。

久住英二(くすみ・えいじ)
ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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