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Vol.211 【Dr.久住対談】元全日制・通信制高校校長 鈴木朝雄さん(後編) ~リアルを追求した性教育で、文化を「作る」

医療ガバナンス学会 (2018年10月22日 06:00)


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この原稿はナビタスクリニックOfficial Blogからの転載です。

鈴木朝雄
久住英二

2018年10月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

引き続き、鈴木朝雄さんと久住英二医師の“リアル”対談。タテマエばかりの今の性教育の現場に危機感を覚えた鈴木さんは、校長として、シンパシーとリアリティを追求した改革に踏み切ります。

【まとめ】

☆鈴木さんは校長として、性教育の現場を自ら改革。男女別に共感を呼ぶスピーカーが、リアルな性の現実を伝えれば、高校生は耳を傾けるもの。

☆ネット上には、法外な値段やニセモノのアフターピルが氾濫。中絶費用を賄おうと援助交際や犯罪に手を染める女子高生も。

☆今の性教育はタテマエとリアルのダブルスタンダード。科学的合理性と職業倫理を貫き、新たな文化を作っていきたい。

●高校生の‟リアル”を追求した性教育。校長室にコンドームを用意していました。●

<鈴木>
私は校長主導で、性教育をゼロから組み立て直しました。まず、男女は分けます。

<久住>
やっぱりリアルに知りたいこと、必要な知識は、男女で違うんですね。

<鈴木>
女子は、性風俗関係の知り合いに話をしに来てもらいます。「きれいに洗えば性感染症が防げる、なんていう話はウソよ」、とか。リアルな話ですから、女子も真剣に耳を傾けるんですね。

<久住>
私も聞いてみたいくらいですね。(笑)

<鈴木>
男子には、私が、ざっくばらんに話をします。先生も昔は遊び人だったからね、と。新宿でバーやクラブを経営していて、生徒には写真も見せていましたので、みな私の経歴はよく知っていました。

遊んでない人は口先ばっかりだってことくらい、生徒だって知っています。だけど、遊んでた人の話には耳を傾けてくれるものなんですね。例えば、生理中でもセックスすれば妊娠する可能性があるんだよ、とか、コンドームを買うのが恥ずかしいなら先生の部屋に来ればあげるよ、とかね。

<久住>
校長室にコンドームを用意しておくんですか。

<鈴木>
ええ。恥ずかしくて買えないと言いながら、することはするんですから! いざという時には必要ですからね。

男子はいざセックスできる状況になった時に、コンドームがなくても、そこで止めるという判断はほぼしません。変な都市伝説もあって、ゴムがない場合、マスターベーションを3回ほどしてからすれば大丈夫とかね。一晩に7回して、5回目からゴムが無くなったけれど、もう精子も尽きてるから中で出さなきゃ大丈夫だろう、とか。その結果、相手の女子は妊娠です。

女子の場合は、アフターピルを私が通販で購入して、養護教諭に生徒から相談が来たら渡してもらうようにしていました。ただ、男子が避妊に失敗したと思っても相手の女子には嘘をつくケースが多いので、男子に「後で妊娠が分かって大変なことにならないよう、念のため彼女にアフターピルをもらいに行ってもらいなさい」という指導の方が、効果がありますね。
●外な値段で出回るニセ物のアフターピル。中絶費用は援交の入り口にも。●

<久住>
確かに通販でも色々出回っているようですね。ツイッターで検索してみたら、ザクザク出てきました。きちんとしたものが手に入るならいいのですが、偽物もあるようです。それが法外な値段で売られていたり。

<鈴木>
お金のない子は、そういうところから援助交際や安易な犯罪に走るんです。親にも言えないから。うちの生徒でもいましたよ。妊娠中に補導されて分かったんですが、中絶費用を稼ぐために援交していた、と。「妊娠しているから、もうこれ以上妊娠しないし」「あわよくば流産してしまったら、ちょうどよかった」なんて言っているんです。

<久住>
その感覚はすごいですね。

<鈴木>
そこです。彼女の発想に共感できるような人が話をしないと、彼女たちには何を言っても伝わらないのです。

<久住>
共感が先なんですね。仰る意味が分かる気がします。私も受刑者を診察していたことがあり、人の価値観や物の見方を変えることがいかに困難か、実感した経験があります。高校生とはいえ生まれて既に十数年、様々な環境によって人格や価値観が形成されてきたわけです。そういう背景があって出てくる発想を、今さら上から目線で教育し直す、というのはたしかに無理です。

<鈴木>
だったら、妊娠しない仕組みを彼・彼女たちに広めてあげることの方が先決です。ナビタスクリニックの取り組みのように、アフターピルを適切に入手しやすくしてもらえたら、中絶も減るはずですよ。

<久住>
そうすれば、援交や安易な犯罪の手前で、引き返してきてもらえますね。負のスパイラルを断ち切ることができたら本望です。
●キリスト教的思想とタテマエ社会が生む歪み――科学的合理性の欠如。●

<久住>
常々思っていたんですが、日本のタテマエ社会が、性教育をおかしくしているんですよね。役人だって、「法は法、現実は現実」とはっきり言わないだけで、社会的に許容されているようなことはいっぱいあります。結局、バレなければいい、ということになる。

<鈴木>
性教育もタテマエばかりだ、ということですね。

<久住>
ええ。歴史を紐解いてみれば、日本は昔、「婚前交渉はご法度」なんてことは全然言っていなかったんです。江戸時代だって姦通罪こそありましたが、一方で、商売女は簡単に手に入りました。

それが、明治維新でキリスト教的な思想が入り込んできました。今で言うなら、カトリック的な考え方ですね。以来、貞操観念をタテマエとしつつも、性に寛容な文化は根強く残った。伊藤博文には女性がいっぱいいましたし、勝海舟も奥さんに一緒の墓には入りたくないと言われたほどですから。日本特有のダブルスタンダードの始まりです。

<鈴木>
タテマエはあくまでタテマエでしかない。

<久住>
日本のタテマエ社会のもうひとつの特徴が、救済がないことです。失敗したら這い上がれない。失敗した人に対し、途端に周囲はタテマエ側に回って、上から矢を射る態度をとります。避妊に失敗した高校生なんて、その典型です。

<鈴木>
そうですね。それと、性教育では男女平等というタテマエ自体も危い。避妊の主導権という意味で、男性にコンドームを使う義務があるなら、女性がアフターピルを使う権利もあるはずだし、同程度に市民権を得てしかるべきですよね。

<久住>
ところが、コンドームはコンビニで簡単に買えるのに、アフターピルは市販化が却下されてしまいました。世界各国で市販化されている安全な薬です。それを、日本では医師の診察を必要とするのは、科学的合理性がありません。法律で定められているから、というだけの話です。
●オンライン処方は職業倫理上の判断。文化は「変える」のでなく「作る」●

<久住>
医師としては、困っている人を安全に救う手段があるなら、救うべきと考えます。アフターピルのオンライン処方は、そういう職業倫理上の判断です。それをもし「不適切」というなら、何が「適切」なんでしょうか。アフターピルのハードルを上げて、望まない妊娠を増やすのが「適切」でしょうか?

<鈴木>
そうして産婦人科医に利益を上げさせるのがいいのか、それとも中絶を回避させるのか・・・。

そもそも中絶は命を絶つことですからね。

<久住>
そういう根本的な議論をすっ飛ばして、お上の言っていることが正しく聞こえるという現実は、確かにあります。自分の頭で情報を吟味する人は少ないですから。

<鈴木>
「適切か、不適切か」なんていうお上の有難い裁定より、当事者である女子たちの「どうしたらいいの」という切実な声にまず耳を傾けるべきですよね。

<久住>
アフターピルを使うことが後ろめたい、その前提となるタテマエ、その背景にある文化を、なんとかしたい。それには、タテマエや文化を論じていても仕方ないんです。新たな試みで、現実に道を切り開いていくのが先です。世の中を変えるのは政治や行政ではないし、世論を変えるのもマスメディアではない。彼らはみんな後追いで後付けです。いつも現実の社会が先なんです。

<鈴木>
もはや文化を「変える」次元ではなくて、「作る」次元なんですね。アフターピルのオンライン処方で、その第一歩を踏み出した、というわけです。

<久住>
医師としての信念を貫きたいと思っています。
【完】
鈴木朝雄(すずき・ともお)
東京農業大学卒業後、北海道にて大規模酪農牧場長を経て、畜産コンサル会社設立。その後新宿4丁目にて、インディーズレーベル・芸能プロダクション会社経営、レストラン、バー、クラブ、ライブハウスを開店。実兄の参議院議員選挙に関わり、参議院議員公設秘書、文部科学省副大臣政務秘書官を務めた後、私立高等学校(全日制・通信制)校長を歴任。現在、一般社団法人理事、保護司として、青少年非行・元受刑者の更生に関わる。

久住英二(くすみ・えいじ)
ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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