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Vol.210 ズキズキ痛い「帯状疱疹」女性に多く、痛みが十年以上続くことも!?

医療ガバナンス学会 (2018年10月19日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(6月7日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2018060100101.html

山本佳奈

2018年10月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

つい先月、同い年の友人から相談を受けました。

「数日前から左の首筋あたりにピリピリした痛みを自覚したの。最初は我慢していたけれど、日に日に痛みが我慢できなくなった…」

泣きながら彼女は、そう言いました。皮膚はどうなっているかと聞くと、赤みを帯びていて、小さな水ぶくれもみられるとのこと。私は、帯状疱疹かもしれないと思い、皮膚科か内科を受診するように勧めました。彼女は帯状疱疹と診断され、処方された抗ヘルペス薬と鎮痛薬の内服を開始。数日後には痛みも治り、1週間ほどでかさぶたになり、今ではすっかり跡も残っていないといいます。

私は、帯状疱疹になったことはありませんが、内科外来をしているとよく見かけます。50歳から70歳の人に多いのですが、20代の患者さんもたまにいらっしゃいます。痛みを訴える人もいれば、かゆみを訴える人もいます。「疲れがピークになると帯状疱疹の発症を繰り返すのです」という20代や30代女性もちらほら見かけます。「何度もなっているのよ」と自分で帯状疱疹だと言いながら診察室を入ってくる人もいます。

「帯状疱疹は高齢にならないとかからない病気だ」と思っていませんか? 実は、若い世代にも多いことがわかっています。そんな「帯状疱疹」についてわかりやすく説明したいと思います。

帯状疱疹とは、「水ぼうそう(水痘)にかかった後に神経の中に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが、ストレスや過労などの誘因をきっかけとして再活性化し発症する疾患」です。つまり、水ぼうそうと帯状疱疹は同じウイルスが原因です。そのウイルスが再活性化されると増殖し、知覚神経を伝って表皮まで到達します。表皮で感染し、さらに増殖すると、神経の走行に沿って皮疹が帯状に出現する。これが、帯状疱疹発症のメカニズムなのです。

では、帯状疱疹は、どのような症状を引き起こすのでしょうか。

一つ目は、皮疹です。まず、赤い斑点が神経に沿って帯状に現れます。そのあと、小さな水ぶくれが集まって出現し、1週間もすればかさぶたに変わります。皮疹の出現後、2~4週間程度でかさぶたは取れて治癒しますが、なかには色素沈着を残してしまうものもあります。ほとんどの場合、左右どちらかに現れます。体幹に出現することが多いですが、神経のあるからだのどこでも発症します。

二つ目は、急性疼痛です。帯状疱疹の最も一般的な症状であり、皮膚や神経の炎症を痛みとして自覚します。皮疹が現れる数日前から1週間前に出現することが多いです。米国のDworkin医師らの報告によると、約75%の患者さんが、皮疹の出現する前に痛みを自覚していたと言います。皮疹と同時に出現することもあれば、やや遅れて出現することもあり、個人差があります。ほとんどの患者さんが、燃えるような痛み、ズキズキするような痛み、または刺すような痛みを訴える、と米国のKost医師らは報告しています。また、痛みの程度も個人差が大きく、ほとんど自覚しない人もいれば、極めて強い痛みを訴える人まで様々です。なかには、違和感、かゆみを訴える人もいます。その他に、頭痛、発熱、倦怠感、疲労などの全身症状を認めることがあります。ただ、Dworkin医師らの報告では、患者さんの20%未満しかみられなかったといいます。

■数十年にわたって痛みが続くことも…

帯状疱疹で厄介なのは、皮膚症状が治った後も、数カ月から数年、まれに数十年も痛みが続くことがあることです。

帯状疱疹後神経痛といい、神経が損傷されたことによる痛みであると考えられています。これは、帯状疱疹の最も一般的な合併症として知られており、全ての帯状疱疹の患者さんの10~18%が罹患するという報告があります。前述のDworkin医師らの報告(1998年)では、高齢であることと、皮疹が重篤であること、そして急性疼痛が重症であることが、長期における帯状疱疹後神経痛を発症させる要因なのです。さらに、痛み以外にも、帯状疱疹の発症する部位によっては、顔面神経麻痺や髄膜炎、角膜炎、排尿障害などの合併症を引き起こすことも報告されています。

帯状疱疹の治療は、皮疹の発症から72時間以内に、なるべく早く抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル)を1週間内服することが勧められています。皮疹の治癒や、痛みの消失までの期間を短縮することが示唆されているからです。残念ながら、帯状疱疹後神経痛を予防できるかどうかは、はっきりしていていないのが現状です。

冒頭で、帯状疱疹は若い世代にも多いとお伝えしましたが、みなさんは、帯状疱疹を生じやすい年齢や性別があるのを、ご存知でしょうか。英チェルトナム総合病院で1976年から1986年にかけて診療した帯状疱疹の患者を分析した研究によると、女性が60%、男性が40%と、女性の方が多いと報告されています。

日本においても、1997年から宮崎県において帯状疱疹の患者さんを対象にした大規模疫学調査(宮崎スタディ)が行われています。1997年から2014年までのデータによると、男性よりも女性の方が有意に多いことや、帯状疱疹の発症率(患者数/千人/年)は、1997年の3.61から2014年の5.18と増加していることもわかっています。

また、宮崎スタディにおける年齢別の発症率は、70~79歳が8.41と最も高く、50代から増加し、60~80代にかけて大きなピークを認めました。高齢になるとかかりやすくなることは間違いありませんね。ですが、注目すべきは10代における帯状疱疹の発症率の小さなピーク(10代の発症率は2.90)です。これは、水ぼうそうの感染後、免疫が少しずつ低下することが原因になっていると考えられています。

一方、20代の帯状疱疹の発症率は2.32、30代では2.15と、10代よりも少し減少しています。どうしてなのでしょうか。それは、20、30代では子育てをする世代は、水ぼうそうにかかった子供に接触し、水痘に対する免疫の活発化が生じる機会が多いために、帯状疱疹の発症の頻度を若干下げていると考えられているのです。

では、帯状疱疹を生じやすい季節はあるのでしょうか。帯状疱疹は年中発生し、季節による変動は少ないです。けれども、宮崎スタディによって、冬に減少し、夏に1.19倍増加することがわかりました。ちなみに、水ぼうそうは帯状疱疹とは逆に11月ごろに流行が始まり春先にかけて増加し、夏頃には減少します。とても興味深いですよね。しかしながら、2014年10月から水痘ワクチンが定期接種となり、1~2歳児が2回接種するようになってからというもの、水痘の流行の季節変動は目立たなくなってきているようです。

老若男女問わず発症する可能性のある帯状疱疹。母子手帳の記載によると、私は1歳11カ月の時に水ぼうそうにかかったことがありました。ですが、年齢とともに免疫が少しずつ低下することを考え、抗体検査で抗体価を確認することを希望。案の定、抗体価の低かった私は、帯状疱疹の予防をしたいと思い、再接種することにしました。今後、臨床研究を通じた検証は必要ですが、年齢問わず水痘ワクチンを接種することは、帯状疱疹の予防になると私は考えています。

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