医療ガバナンス学会 (2018年10月30日 06:00)
この原稿はAERA.dot(9月5日配信)からの転載いです。
https://dot.asahi.com/dot/2018090300086.html?page=1
森田麻里子
2018年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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赤ちゃんが受ける定期の予防接種は、0歳児のうちだけで6種類もあり、13本の注射が必要です。この大量の予防接種をスムーズに行い、できるだけ早く免疫をつけてあげるために必要なのが同時接種、つまり同時に複数のワクチンを打つことです。同時接種の安全性は確かめられていますが、なんとなく不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も、ワクチンの接種間隔や副反応についてきちんと調べてはじめて、心の底から納得できました。今回はその内容を解説したいと思います。
今の日本では、同時接種は認められていますが、同時接種をしない場合は、不活化ワクチンの後は中6日以上、生ワクチンの後は中27日以上の間隔を空けることになっています。なぜ1日空けたらダメなのに同時なら良いのか、疑問に思いませんか? 実は、この決まりの全てに医学的根拠があるわけではないのです。
確かに同じ種類のワクチンに関しては、効率的に免疫をつけるため、適正な接種間隔が定められています。また、異なる種類の注射の生ワクチン同士なら、間隔を中27日以上空ける必要があります。これは、最初に接種したワクチンの影響で、後から接種したワクチンの免疫がつかなくなるのを防ぐためです。
生ワクチンの予防接種をすると、ウイルスの増殖を抑えるインターフェロンという物質が体の中で作られるのですが、このインターフェロンの効果で、続いて接種した生ワクチンの効果が弱まってしまうことが知られています。1965年にアメリカの研究者によって発表された研究では、131人の子どもを、天然痘ワクチンだけを摂取するグループと、麻疹ワクチンを接種した後に間隔をあけて天然痘ワクチンを接種するグループで免疫のつき具合を比較しています。麻疹ワクチンの接種後9~10日後に血中のインターフェロン濃度がピークに達し、この時期に天然痘ワクチンを接種しても、ほとんどの子どもで免疫がつかなかったことがわかりました。
中27日以上という数字の根拠としては、2003年に発表されたアメリカの研究があります。ある2つの医療機関で、1995年から99年のカルテを調べたところ、MMR(麻しん・風しん・おたふく)ワクチンを接種してから28日以内に水痘ワクチンを打った子どもでは、ワクチンを接種したにもかかわらず水痘を発症するリスクが3.1倍になっていたのです。
しかし、不活化ワクチン同士や、注射生ワクチンと不活化ワクチンの接種間隔に根拠はなく、アメリカではこのような決まりはありません。本来はいつ打っても問題ないものなのです。
では、副反応についてはどうでしょうか? 日本では、副反応がおさまった段階で次のワクチンを接種するため、このような間隔が定められているようです。しかし、日数を空けても空けなくても副反応が起きる頻度に差がないことは、複数の研究結果からわかっています。
また、一度に4種類も5種類も予防接種をするのは、免疫系に過剰な負担がかかるのではないかと心配になるかもしれません。確かに予防接種の種類はどんどん増えていますが、技術の進歩によって、接種する抗原の種類は大きく減っています。アメリカで推奨されているワクチンの抗原数を調べた研究によると、1960年には約3217種類だったのが、80年には約3041種類となり、2000年には123~126種類となっています。さらに、ワクチン中の抗原の量も、自然に感染するよりずっと少ないことがわかっています。たとえばB型肝炎ワクチンの抗原量は、大人が自然感染した場合の1万分の1以下です。
残念ながら日本では、風疹や麻疹など、ワクチンで予防できる病気が定期的に流行しています。お子さんには同時接種を行いながら、できるだけ早く病気への免疫をつけてあげてください。