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Vol.226 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム 抄録から(3)

医療ガバナンス学会 (2018年11月7日 15:00)


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2018年11月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム

2018年11月24日(土)

【Session 03】15:20~16:20

●みちのく未来基金と震災遺児達からの学び
河崎 保徳

2011年3月11日、震災から私たちは何を学んだのだろうか。昭和に作り上げてきた、古い価値観やそれに根差すシステムは少しでも変化しただろうか? 答えは否である。防災行動学や緊急時の原料調達、生産システムだけでなく、日本人としての生き方、そして価値観にも影響を与えるこれ以上のインパクトある出来事は、しばらくは無いだろう。コスト削減を理由に未だ品質検査の不祥事などのニュースは後を絶たない。人類はあまり学ばない、と諦めかけていたところ、明らかに変わろうとしている人たちに出会った。震災で進学をあきらめようとしている学生達であった。
復興の礎になるのは、今の学生たちであるという想いから、2011年5月、新しい進学奨学金の構想を創り、被災地の学校を回った。9月には震災遺児の進学の夢を支える「みちのく未来基金」の創設を発表した。毎年約100名の奨学生が生まれ、約100名が社会人として卒業していく。既に738名の生徒の進学応援し、この先も最後の震災遺児が大学院を卒業する19年間運営する。奨学生たちとの交わりの中で学んだのは、昭和時代にこの国を支えてきた企業の経営の本質に迫るものであった。
2016年2月、ロート製薬は記者会見で、「薬に頼らない製薬会社になりたい」と発表をした。製薬会社の自己否定宣言は、社内外が驚いた。病気にならない人(健康)を創る、科学的根拠に基づく提案こそが自社のミッションであると宣言したのだ。その後、健康経営・働き方改革など次々と先進的な方針を発表してきた。そのきっかけが、東北の震災遺児からの学びだったと気づく人は少ないだろう。
人も企業も、この世に生を受けたからには、ミッション(使命)がある。震災遺児が気づかせてくれ、我々に行動を起こすきかっけを与えてくれた。あとは、やるかやらないか。流されるか、流されないか。我々は行動を起こす選択をした。
●外部のコミュニティに発信する方法
大熊将八

私は今年の3月に会社を設立したばかりの、26歳のひよっこだ。勢いに任せてシンガポールの会社を辞め、友人と起業したはいいが、最初の数ヶ月は売る商品もない。ベストな顧客もわからない。とにかくツテを辿って色々な人に会い続けた。その時の縁で今回、このような場で発信する機会をいただいている。
日々ひたすら人に会い続けて気がついたことがある。それは、自分の専門外のことや即時的なメリットに繋がらないことには門戸を閉ざす人と、一見自分と関連がない事柄でも積極的にコラボレーションの可能性を模索する人と、綺麗に2種類に分かれることだ。SNSやコミュニケーションアプリなどの発信ツールの発展は、繋がりたい人とだけ繋がることを容易にし、前者をより快適なものにしている。
医療ガバナンス研究所には「おう、とりあえずやってみろ」が口癖の上昌広先生を始め、インスタグラマーに挑戦中の山本佳奈先生など、後者に当てはまる人が多い。それはひとえに、外部のコミュニティに発信していかなければならないという危機感があるからだろう。現在の自分がリーチしえない相手に発信しようと思えば、必然的に他者とのコラボレーションが必要となる。私と一緒に登壇する、インドネシア人インフルエンサーで日本に留学中のステラ・リーも、インドネシアでのセレブな生活を捨てて日本居住を開始して以降、どんなチャンスにも可能性を見出し、新たな発信方法に挑戦している。
マクロな視点で見れば、日本全体に前者の態度、即ち内側の快適なコミュニティに閉じこもる風潮が蔓延していると感じる。QuestHub社はそのような現況を少しでも打破すべく、日本在住の外国人インフルエンサーのエージェンシー事業を手がけ、海外に出て行こうとする日本企業と、海外から人を呼び込もうとする日本企業の支援を行っている。本発表ではその醍醐味について伝えたい。

●当事者になった私だからこそ
マドカ・ジャスミン

私は去年、クラミジアに罹患した。それまでは、性感染症と自分は無関係だと思っていたし、周りの性感染症についての感覚もフランクなものだった。しかし、実際に罹患してみると、世界は一変する。不特定多数と性関係を持っていた自分を恥じ、且つ、自分が誰かを感染させたかもしれないという事実に何度目を眩ませただろう。けれど、医師の助言もあり、性関係を持っていた男性達へカミングアウトし、その一部始終を掲載した。ライティング活動を行っている自分の使命だと思ったからだ。掲載後は、心無い言葉も浴びせられた。その一方、共感の声も多くあった。「私も罹患した経験があります」「ちゃんと定期検査に行きます」「他人事じゃない」等だ。
当事者になったことに恐怖し、黙り込んでしまうことを咎めるつもりはない。むしろ、当然の反応だ。だからこそ、発信していくことが何よりも大切なのだ。マイナスの意見に目を向け過ぎれば、発信自体を後悔するかもしれない。でも、その発信で救われる人たちも多くいるだろう。
性感染症は、甘く見てはいけない。不妊の原因にもなる。だが、恐れ慄く必要もない。適切な治療をすれば、私みたいに完治するのも容易い。私たちが恐れるべきは、性感染症の適切な知識を身につけられない現状なのだ。自らが積極的に情報取集を試みなければ、100%の知識を得られない。そんな現状は、生きていく上でおかしいことだと思わないのか。何故学校でも、家庭でも、腫物のような扱いを受けなければならないのか。性感染症の問題は、自分自身だけの問題じゃない。パートナー、自分の子供…生命を紡いでいく過程で絶対に考えなければいけないものだ。罹患した、当事者になった私だからこそ、そう強く思う。
この現状に皆が疑問を抱く日が来るのか。いや、来させなきゃいけない。その思いを胸に、今日も発信をしていく。
●超情報化時代における医療情報の役割とあり方
橘川幸夫

インターネットの普及は社会の各方面において、根源的な変革を推し進めています。これまで、特別な権力や能力のあった人が独占していた情報と、情報発信力が、すべての人に解放されつつあります。中心と周縁、上部と下部、玄人と素人などの境目が曖昧になり、カオスのような情報空間の中に私たちは生活しています。
個人が世界に向けて情報発信し、世界中の情報が享受できるというシステムは革命的ですし、人類社会の新しい発展段階に来ていると思いますが、一方、問題点・矛盾点も様々に露呈しています。
生命に関わる医療情報については、様々な個人が自分の病気体験・治療体験を公開し、経験者でなければ分からない実感を伝えてくれる情報もあります。しかし、素人の思い込みの激しい意見や、怪しい治療法も、噂話のように拡散している状況があり、とても危険な方向に進んでいると思います。
私たちは、専門家の医師たちによる正確な医療知識情報を体系的にインターネット上に提供していくべきだと考えます。現在、eラーニングを含めた新規ソリューションとして「カラダ検定」のプロジェクトを検討しています。皆様のアドバイスとご協力をお願いいたします。
●科学を「印籠」にしない情報発信 医療人類学の立場から
磯野真穂

医療者が一般に医学的な情報を発信するときの決まり文句として「エビデンスに基づいた」とか、「科学的に正しい」とかいった枕詞がある。もちろんエビデンスや、科学に基づいた情報は重要であろう。しかし一方で、「エビデンス」や「科学」が水戸黄門の印籠のように使われる場合もあり、「印籠」に従わない人たちを、非合理で、賢くないと罵ったり、笑いものにしたりする現象も一部では見受けられる。
科学はもともと権威に対する対抗手段としての側面を持っていた。伝統やドグマといったものに対して、人々は科学を掲げて抵抗したのである。しかし科学が権威になった現在、伝統やドグマを掲げて科学者を封殺しようとしたかつての権威のように「科学」が使われていないかを検証することは重要であろう。
本発表では、ノスタルジックな観点からの科学批判ではなく、意義ある形で批判的な視線を科学に向けるため、医療人類学者のアーサー・クラインマンが1970年代に提唱した「ヘルス・ケア・システム」を紹介する。ヘルス・ケア・システムは医療専門家が働く場所以外のところで、人々がどんな医療行動をするかを分析したものである。家族や知人のあいだで行われる健康希求行動を「民間セクター」、国家資格を持った医療専門家によって組織されるそれを「専門職セクター」、権威付けはないけれども独自の理論で治療を試みる「民俗セクター」に分類される。
「ヘルス・ケア・システム」は人々を屈服させる印籠として「科学」を掲げるのではなく、人々を助けるためにいかに「科学」を使うべきかを考える上で有用な示唆を与えてくれると考えている。

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